5月19日、バンクーバーのコースト・プラザホテルで堀口智顕(ともあき)さんの講演会が開催された。

堀口さんの会社は盛和塾・稲盛塾長に出会う前には、売上高4000万円のどこにでもある零細企業だった。出会いからわずか9年で東証一部上場した会社の経営体験談が聞けるとあって、その極意を知ろうと80人の参加者が、前のめりになって聞き耳を立てた。しかし、その体験談はごく自然な人生観の実践であった。経営戦略などという難しいロジックより、「ただ、素直にお客さまの教えに学び、誰よりも一生懸命に働いたその結果です」と、さらりという堀口さんの言葉が身にしみる。なんの気負いもない。「ただ、盛和塾生の皆さまに少しでもお役に立てれば」と自らの経験談を披露した堀口さん。 会場では笑いあり、感嘆のため息ありで、あっという間に予定の2時間を大幅にオーバーしていた。

 

 

熱く、熱く、自らの体験を語る堀口社長

 

私の人生を変えた 3回の転機

 新潟県の佐渡島から三流大学に行くため東京に出てきたのは良いのですが、食うためのアルバイトに精を出し過ぎ、退学し、カフェの店長に。そして、不動産屋に転職。さらに27歳のときには、名ばかりの建築事務所、実態は不動産屋に転職。当時はバブル真っ盛りのとき。ここで、不動産だけでなく、建物をプラスすることで何倍にも価値が上がることを目の当たりにしました。また、事業資産の買い替え特例があって、買い替えであれば、自社ビルを売っても税金がかからないことを銀行の人に教えてもらいました。これを武器にどんどん業績を伸ばし、トップセールスになりました。この時、「仕事はお客さまが教えてくれる」ということを学びました。これが私の原点であり、一回目の人生の転機でした。有頂天の私が「上場しましょう」と会社に提案すると見事に却下され、それならばと独立を決意。これが第二回目の転機。社名を現在の『サンフロンティア不動産』とし、業績も上がっていましたが、バブル崩壊。大手の銀行が倒産するようなときです。100の取引が3になるようなときでした。私もモンモンとした日々を過ごしていました。そんなときに、盛和塾の稲盛和夫塾長に出会ったのです。これが、私の第3番目の転機になりました。

 

稲盛塾長の教えのままに ひたすら頑張った

 塾長に出会ったのが、私がしっかりした経営者としての人生を歩みたいと思っていたときでしたから、塾長の教えは、ちょうど夏の焼けた砂浜で乾ききった私に水を与えられたように吸い取りました。塾長から栄養素を与えていただいたようなもので、教えのままにひたすら頑張りました。その結果、2004年11月、46才のとき、売上高50億円、経常利益14億円という会社に成長していて、ジャスダックに上場することができました。それから約2年後の2007年2月、直接一部上場を果たしました。私は、ここにセールストークをしに来たわけではなく、経営者の皆様に、自分がつかみにいけばチャンスは目の前にあるんだ、稲盛塾長の教えを素直に、謙虚に受け止めていけば、つかめるということの実例をご紹介しています。

 私たちの仕事は、不動産に関わるあらゆるお困りごとを総合的な視点で解決するワンストップサービスです。賃貸、売買の仲介からビル経営、管理、修繕、リプランニングの企画から実行まで、責任をもって対応しております。そして、ホテル事業もこれまでのビジネスビルの管理、リプランニングのノウハウを生かして、新たな視点での経営をはじめました。

 私たちの成長戦略「3本の矢」と、具体的な取り組みとしては、一つ目の矢が現業の拡大。その具体的な取り組みとしてはオフィス事業の深化と拡大、そしてホテル事業とインバウンドの強化。二本目の矢がM&A。資本参加、業務提携を積極的に進めます。三番目の矢が海外展開。成長著しいインドネシア、ベトナムでの事業を拡大していきます。この2国での事業は、政府関係者からも歓迎されており、次々にプロジェクトの申し入れがあります。『利他』を信条に、アジアの人たちの幸せを願い、幸福の和を広げるために、真正面から入り、1円のやましいこともなく正々堂々と取り組んでいます。

 

『利他』を信条に、人並み以上に一生懸命に働いた

 一生懸命に働くと、おもしろい現象が起きるのです。仕事がどんどん横に増えるんです。初めのお客さまが次のお客さまを紹介、また紹介というように広がっていくのです。現在約300億円の売上がありますが、広告費はわずか400万円ほど。ほとんど知名度もなく、口コミで広がっています。仕事が増えれば、当然従業員も増やさなければならない。そしてお客さまに信頼される社員に育てるための教育をする。すると、またお客さまに紹介していただける、仕事が増える、従業員を増やす、教育をする、この循環で成長してきました。これは、社員が一人もいない時代からの営業手法です。一生懸命さは、人並みを超えるものでなければなりません。仕事の精度、細やかさ。ひたすらお客さまに好かれる仕事でなければなりません。最初オフィスビルの売買だったものが、「君のところで賃貸はできないか」と言われ、経験はなくとも「できます」と答え、一生懸命ご要望に応えようと仕事をする。次は管理の仕事はできるか、というようにしてお客さまが、仕事を教えてくださるんです。一期一会を大切にして、売り上げよりお役立ちを追う『利他の精神』が私たちを支えています。お金も教養も何もなかった、見ず知らずの私に力を貸してくださった。一生懸命やれば、人様が必ず助けてくださることを皆さまにお伝えしたいですね。そんなときに現れる人というのは、「うるさい人」「しつこい人」「厳しい人」「無理難題をふっかけてくる人」なんです。その人達から、私は決して逃げず、逆に抱きついていくんです。そしてなんとか気に入っていただける仕事をするのです。結果、私自身にも自信ができているんです。

 ところで、私はどれぐらいの時間働いているかというと、今でも年間4800時間、多い時は5000時間、最低でも4000時間働いてきました。そう言うと、家庭を顧みず、2回や3回離婚しているんじゃないかと思われるかもしれませんが、子どもは5人いて、離婚の経験はありません。家内にメールを送ると、「承知しました」という返事しかありません。私の好き勝手を許してくれる家内には感謝しています。もしかすると、彼女の手の平のなかで遊ばれているのかも知れませんが。

 

同志としての全従業員を守り、物心の幸福を追求する

 これまでの私の体験のなかで、リーマン・ショックの経験は財産になっています。何しろ、あの時の業績は、一気に12分の1に縮小したのです。しかし、一人の社員もリストラしませんでした。同志としての全従業員の雇用を守りぬきました。それができたのは、内部留保があったからです。ちょっと儲かったからといって、社長の私が散財したり、むやみな事業拡大や、報酬アップをしたりせず、社員の将来の生活を守るために内部留保していたのです。社員も私を信頼してくれています。同じ方向のベクトルに向け、全社員が力を結集すれば、これより強いものはありません。ベクトルの範囲は左右30度以内に一致するよう、人材の教育、研修に力を注いでいます。1年240日の営業日のなかで273時間、14・2パーセントを研修に当てています。その研修内容は別表のようにさまざまな角度から、幸福を掴むための研鑽を重ねています。女子社員は結婚し、子どもができても必ず戻って来てくれています。これがうれしい。私が言っていることは決して特殊なことではありません。皆さんが知っていることです。しかし、実行していない人が多い。自分の身についていない。知っているだけの空論を重ねても虚しいだけです。塾長の言葉の中にある「素直な心、熱意、努力という言葉はあまりにもプリミティブなため、誰も気に留めない。しかし、そういう単純な原理こそが人生を決めていくポイントだ」とおっしゃっているように愚直に実行に移して行かなければならない。

 

 以上が講演の概略だが、聞く者の胸にグサリと突き刺さる。堀口さんの熱い応援がバンクーバーの若き経営者たちに化学反応をもたらすに違いない。

 

 

 

 

 

<盛和塾とは―>

「京セラ」「KDDI」創業者、JALの立て直し、「アメーバー経営」でも知られる稲盛和夫さんがボランティアで経営を指導してくれる私塾。1983年からスタートし、今では国内54、海外(ブラジル、アメリカ、中国)27塾に広がり、現在の塾生は、この3月現在で1万人あまり。いま、バンクーバーは盛和塾シカゴの全面的な協力により支部として活動している。

お問い合わせは、604-603-3083
WEB http://Seiwajuku-Vancouver.ca/ 
盛和塾ホームページより

 

<会社概要>
サンフロンティアホームページより

会社名:サンフロンティア不動産株式会社
本店所在地:東京都千代田区有楽町一丁目2番2号
設立年月日:1999年4月8日
上場年月日:2004年11月19日(ジャスダック証券取引所)      
                   2007年2月26日(東京証券取引所第一部)
資本金:8387百万円
代表者:代表取締役社長 堀口智顕
従業員数:連結307名(平均年齢31.5才)
事業内容:不動産再生、不動産サービス
(不動産の管理、仲介、建築企画、清掃、保証 賃貸ビルのオペレーション、資産コンサル)
決算月:3月
上場市場:東証一部(証券コード8934)

(2016年4月末日現在)

 

(取材 笹川 守)

 

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