日系文化センター・博物館の理事長に、ことし4月から就任した五明明子さん。その双肩にかかるのは、あまりにも重く、厳しい道程といえるだろう。これまでもさまざまな日系センターの事業が発進され、成功をおさめてきたにもかかわらず、さらなる深化と高みへと導かなければならない。同じことを継続するだけでは、乗り越えられない。時には、成功体験をも否定するほどの覚悟が必要だろう。その覚悟のほどはいかに。4月30日、日系センターで直球のインタビューを試みた。ストレートな答えが返ってきた。
新理事長の五明明子さん
目標設定を明確に
「日系文化センター・博物館」、「日系シニアズ・ヘルスケア協会(日系ホームと新さくら荘)」、「日系プレース基金」の3組織を総称するのが『日系プレース』で、現在地のすべての建造物を共有している。五明さんが就任したのは、そのうちの日系文化センター・博物館。その運営費をファンドレージングと、さまざまな事業収益でまかなわなければならないが、思うようには進捗(しんちょく)していないのが現実だ。
理事長以下、理事の20名で構成するボードメンバーは、全員がボランティア参加。もちろん日系センターの日常業務もボランティアがいなくては成り立たない。それを支える精神は「私たちが現在、この地に差別もなく暮らせるのは、日系一世、二世の先輩の方々のたゆまぬご努力で、私たちに土台を作ってくださったから。それは大事に引き継いでいかなければならないし、そのご恩に報いるためにも、また日本文化の真髄をさらに多くの地域の人々に知っていただくために働くというのが、偽らざる気持ちです。地域の人の何かの役に立ちたい。その役に立つことが成果であり、喜びなのです」とボランティアを代表して語る五明さん。「長期に参加してくれる人も短期の人も和気あいあいに働いています。でも、これからは私をはじめ理事各人は具体的な数字責任を持って、対応していかなければ、この山は登れません」と決意も新たにしている。
発想の転換も必要だと思います
「今回、私がボードによって理事長に推されたのも、厳しい財務状況の克服、ターゲット設定の見直しなどの変革を意図し、期待されていると理解しています。これまで英語を母国語とした日系人の方が主に理事長を務めてきましたが、我々のような戦後の新移住者、ワーキングホリデー、学生、国際結婚された方、赴任して来られた方、カナダで起業された方など、日本語が母国語の人たちにも日系センターが十分認知されるように努力しなければならないと考えています。決して英語を母国語とする日系人だけをターゲットにしてきたわけではありませんが、結果としてそんなイメージに見えてしまっていたのかもしれませんね。異なる多文化の方々もウェルカムです。事務局長のロジャー・レミーさんは、白人カナダ人ですし、ボランティアに中国系や、韓国系の人もいます。ただ、日本の伝統文化や芸能を中心にしたイベント、たとえば日系祭りなどは、本来の日本のお祭りをできるだけ再現したいと考えております。また、常設展示場には『体験・1877年からの日系カナダ人』の写真や資料などを展示。これは日系カナダ人の大切な歴史です」と五明さん。このあたりが、会員や来館者の拡大を図ろうとするときのジレンマとなっているのではないだろうか。日系センターは『日系カナダ人の心のふるさと』と表現されるぐらいだから、日本イメージを色濃くすることは、外しにくい。たとえば、イベントなどは日本の伝統文化、芸能をコンセプトにしながらも、他の文化の人びとが興味を持つ企画なども考えなければならない。「発想の転換が必要ですね。たとえば4月に企画した着物ショーのフィナーレには、日本の花嫁だけでなく、韓国、台湾、インドの花嫁衣裳のショーを行いました。柔軟に新しいことにもチャレンジしていきたいです」。そうした五明さんの考えにそえば、専門性を持った多様なボランティアを募集する、探す必要がありそうだ。ターゲット枠を拡げることで、来館者、会員入会者数の増大を図れる可能性がひろがる。当然、広報、広告などの媒体も多言語が必要になってくる。
また、多数の媒体が取り上げてくれるようにパブリシティ戦略も急務だろう。同時に、そうした専門家、経験者のボランティア参加が望まれている。
もっと日常的な『賑わい』をつくりたい
現在50種類以上のイベントや教育、健康、シニア向け教室、芸術と伝統芸能、武道などが実施されているが、特に平日の日中は、日系センターの内外が静寂に包まれている感がある。
五明さんは「たとえば『日系祭り』や『コミュニティ・アワード・ディナー』の時などには、バンクーバーダウンタウンやリッチモンド、ノースバンクーバーなど、ほぼBC州全域からお見えいただくのですが、そうした機会がないと、なかなか足を運んでいただけない。そんな機会をより多くつくるような仕掛け作りはもちろんですが、近隣の方々がもっと気軽に立ち寄ったりする居心地の良い場づくりをして、日常的な『賑わい』をどう創造するかが課題です。バーナビーという土地柄、周辺の台湾系、中国系、フィリピン系、韓国系などのカナダ人にもアットホームに感じていただける日系センターを目指したい。そのお世話役として、『コンシェルジュ兼ボランティア・コーディネーター』の村岡典子さんが着任しました」と、センターとしてその努力に言及した。
一方で、博物館としての権威、知的イメージを崩せない、しかし、気軽に立ち寄れるもっと親しみあるイメージもほしい、その両立の折り合いのつけどころがポイントだ。
日系コミュニティ団体との絆を深めたい
企業経営者、健康、趣味、シニアの方々の団体、さらにはワーキングホリデー紹介、留学紹介業の方々など、BC州エリアにも多数の日系コミュニティ団体がある。「もちろん、一部の団体とはすでに協力関係がありますが、さらに多くの団体と密接な関係づくりを深めていくアクションが必要です。この絆の深まりは両者に必ずメリットをもたらすはずです」と力説する五明さん。
日系センターからもその団体などの催事や講演会などへの積極参加をしたり、団体などが発行する情報誌への情報提供などは不可欠だ。
「日系祭り」、「コミュニティ・アワード・ディナー」の二大イベントを中心に集客力をさらに上げる努力や、新企画も欠かせない。また、会場レンタルを増やす上で、日系コミュニティ団体などにも利用を呼びかけるべき。「ウェディング」や「セレブレーションライフ」も好評のようだし、日系ガーデンでの「バーベキューパーティー」や「流しそうめん」なども人気が増していくに違いない。
会員、ボランティア募集にもひと工夫を
「日系文化センター・博物館の会員、ボランティアのメンバーを増やすことも、私たちの重要なテーマです。まさしく、日系センターを支えてくださっているのですから。だから、その募集にもひと工夫を加えていく必要があります。会員特典のひとつ、特別割引のスポンサー企業を増やさなければなりませんが、相互メリットが生ずることをていねいにご説明していかなければなりません。つまり、スポンサー企業の集客につながるもの、たとえば、募集チラシをもっと興味をそそるようなデザインにする、あるいは皆さんが、憧れるお店にスポンサーになっていただくなどなど、です。また、ボランティアも専門技術や知識、経験を持った方へ『あなたの能力をお貸しください!』とアピールしたり、『ここで、◯◯の技術の勉強をしませんか?』とアプローチするなど、ひと工夫を加えていきたいと思います。皆さんのお力、知識をお借りしながら、できることは何でもやる覚悟です。立ちはだかる課題の大きさを思うと、むしろ、やりがいを感じます」。新理事長・五明明子さんの心意気に触れると、きっとあなたも『感染』することだろう。
(取材 笹川 守)
館内のいたるところで気軽に声掛けする五明さん。受付で
日系文化センター・博物館。日系プレース基金も入居
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