発達障がい児のレジリエンスを引き出す関わり 〜思春期から成人へ〜

3月12日午前、バンクーバー市内、発達障がい者協会(Developmental Disabilities Association)で、思春期を迎える発達障がい児についての講演会が開かれた。講師は久留米大学病院小児科医師の大園秀一先生。

思春期の発達障がい児にはどのような心理的・社会的状況が起こりうるのか。それらに家族はどう関わっていけばよいのか。ケーススタディーをまじえた大園先生の話に、会場の15人の母親たちはじっと聞き入った。

 

 

講演中、参考になる出版物を紹介する大園秀一先生

 

 まずFirst Step実行委員の餌取千佳さんが開会の挨拶を行った。次に、会場となった発達障がい者協会アシスタント・マネジャーのテリー・シェンケルさんが、同協会のプログラムや催しを紹介。その後、大園秀一先生の講演が始まった。

 大園先生は、①発達障がいの診断、②思春期と発達障がい児、③薬物療法、④レジリエンスを高める関わりの4点から講演を進めた。その一部を紹介する。

 

1 発達障がいの診断

1 注意欠陥・多動症(ADHD)の特徴
・不注意 気が散りやすい、根気がない、忘れ物が多い。
・多動性 じっとできない、しゃべりすぎる。
・衝動性 思いついたら口に出す
・動く、順番が待てない、(結果的に)人の邪魔をする。

2 自閉スペクトラム症(ASD)の特徴
・対人関係の質的障がい
 視線が合いにくい、気持のやりとりができない、状況や場の空気が読めない。
・コミュニケーションの障がい
 一方的、話が飛びやすい、言葉を文字通りに受け止める、不自然なイントネーションや発声がある。
・こだわり
 特定の物や行動へ没頭する・博識である、予定の変更についていけない、思い通りにならないと気がすまない。

3 診断
 ADHDとASDの混在もよくある。しかし、診断とは具体的な問題を解決するために便宜的につけるもの。目標は、それら「問題の解決」。そのため家族、学校、医療機関などが、子どもを一人の人間として理解したうえで、ソーシャルスキルの獲得や薬物療法など、それぞれの特徴に合ったゴールを設定し、「問題解決」に取り組むことが必要である。

 大園先生は、「問題が起きても、両親から大切にされている、愛されていると子どもが感じ、立ち直るきっかけを作れるように接すること」と説明した。

 

2 思春期と発達障がい

1 思春期(12〜18歳)の特徴
 一般的に思春期の特徴は、身体的な変化、親の方を振り返りながらも外界へ広がる関心、「反抗」の芽生え、等である。心的には次のような変化が生じる。
・経験したことのない激しい感情をもつようになる。特に「怒り」。
・不安・落ち込みを、行動で表現することから言葉で表現することが増える。(発達障がい児の場合、言葉による表現が遅れ、特に「怒り」などの負の感情の表現に困難を感じることが認められる。)
・自分自身や親を客観視できるようになる。
・性への関心をもつ。
・「ほかの誰でもない自分」(アイデンティティ)という感覚をもつようになる。
・秘密を作るようになる。

 以上のような思春期の心の特徴と発達障がいの症状とでは、線引きが難しいこともある。要は、子どもの言うことに耳を傾け、感情を肯定してあげること。気楽なコミュニケーションを続けることが、その子にとっては気分の発散につながる。

2 問題行動の発生メカニズム
 問題行動は、「素因」と「環境」の相互作用で発症する。
・素因
 知能のむら、多動・不注意、過敏性、こだわり、自己中心など。
・環境
 子育て不全、迫害体験、虐待、メディアの影響、挫折体験など。
・問題行動
 暴力、物に当たる、暴言、下級生いじめなど。

3 生活環境の改善
 問題行動への対処として、生活環境を整えることが役立つ。
・物理的構造化
 遊ぶ場所と学習する場所を区別する。
・過剰な視覚や聴覚刺激の軽減
 パーテーションなどで場を区切る。
・時間的構造化
 スケジュールを絵や写真で示し、登園、登校時に示す。
・物を置く場所や立つ場所などの視覚的な指示。

 

3 薬物療法

1 ASDに対する薬物療法
・第一選択ではなく、ソーシャルスキル向上のための補助的療法とする。
・攻撃性、多動、衝動性、不注意、反復行動、不安・睡眠障害など、併存症への対処とする。
・本人、あるいは家族の生活に支障をきたす場合に必要となる。

 不安・強迫症状、気分障害、睡眠障害、過敏性などへの具体的な薬物が紹介された。

2 「怒り」のマネージメント
 子どもの感情にも、無意識に起こる不安、怒り、憎しみ、恐怖、悲しみなどがある。このようなネガティブな感情を意識的に内面に抑え、外面は元気、まじめ、素直にしていようとするが、抑えきれなくなる時がある。それが、しばしば、痛み、かゆみなどの身体症状として、通園や登校直前に発現したりする。さらに、ささいな刺激で意識・無意識の壁が破られると、感情が爆発する。このようにして起こった子どもの「怒り」には次のような対応を試みる。
・子どもの体からあふれるエネルギーを、無理に止めようとしない。
・「怒り」を向けられても平常心を保つように努める。
・(お互い)少し落ち着いたら、そばに行って声をかける。
・「怒り」を否定しない、叱責しない。  

 「怒り」の表出タイプには、爆発型、パニック型、じわじわ型、ねちねち型などあるが、それらに即した対応を知っておくことや、好ましい行動に変わるような支援計画(約束)を事前に立てておくことが有効である。

3 ケーススタディ 『Y君の薬物療法』
 大園先生は自らが診療したY君の症例を紹介した。初診時は6年生。心身症の問題を抱え、学校から紹介されてきた。その後7年間、薬物療法を交えた治療を進める。   

 怒りっぽさ軽減のための薬が処方された。しかし、高校生の頃、「朝が眠い」「太る」という訴えから薬を中断。このような場合には、「再開が可能であることを本人や家族に理解してもらっておくことが大切」と大園先生は言う。

 薬を中断した結果、利益と不利益の両方が認められたが、その後Y君は、犬を飼う、近くの神社参りをする、地域の作業所や職業訓練学校に通うなど、ソーシャルスキルを身につけながら現在も就職活動を行っている。

4 最適な治療法 「薬+心理療法」
 発達障がい(特にADHD)では、中核にある生物学的な症状に作用する薬物療法と、子どもや家族の気質や生き方に焦点を当てる心理社会的介入との併用が最も効果的である。

 ただし、食欲低下、腹痛、チック、睡眠障害、興奮・不安などの副作用の出現もある。そこで、子どもの具体的な困難に対して薬が必要かどうかを本人、家族、医療機関が話し合って見極めなければならない。  

 

4 レジリエンスを高める関わり

 発達障がい児の年齢や問題に沿った対処方法については各種の出版物がある。また、インターネットを通して、「子どもの家庭生活における問題尺度」(IRS:Impairment Rating Scale)というような問題評価方法などがダウンロードでき、学校や医療機関との相談に役立てることができる。

 困難な状況にあっても、うまく対処し回復できる力「レジリエンス」を発達障がい児から引き出すには、まず母親をはじめとする家族がレジリエンスを発揮することだ。それには、子どもの障がいの特性を理解し、それを受け止め、社会的支援を探ることが鍵となる。社会的支援には次のようなものがある。
・情緒的支援 共感、愛情、信頼。
・手段的支援 有形の援助やサービス。
・情報的支援 アドバイスや情報。
・評価的支援 自己評価のために有効な情報。

 これらの支援には、家族・親戚・友人などからによるインフォーマルなものと、病院・支援団体・公共機関などからのフォーマルなものとがある。両方から得られる支援や資源を、個々の状況にあわせ有効に利用することでレジリエンスは強化される。

 「何よりもお母さんが孤立しないこと」と大園先生は強調し、講演を結んだ。

 

5 気兼ねなく話す場

 講演終了後は、マフィンや果物、温かいお茶と共に、大園先生と参加者との交流会がもたれた。

 参加者の一人は、「発達障がい児への薬物療法や、思春期に関係した話は初めてで、たいへん役に立ちました。また、日本とカナダの学校での発達障がい児への対応の違いも興味深く聞くことができました」と感想を語った。

 一方、First Step実行委員の餌取さんは、「これからも、発達障がい児をもつ家族が情報を交換しあい、支えあえるよう取り組んでいければ」と言う。さらに、「気兼ねなく話せる場を」との餌取さんの言葉は、会場でうなずき合いながら思い思いに会話する母親たちの様子がそれを物語っていた。

(取材 高橋 百合)

 

大園秀一先生プロフィール
久留米大学病院小児科医師、日本小児科学会小児科専門医、『NPO法人にこスマ九州』(小児がん経験者のための支援団体)理事、等。ブリティッシュコロンビア大学発達小児科博士研究員として来加。  

First Step
2013年設立。発達障がい児をもつ家族のための日系サポートグループ。現在、60の家族と、発達障がい児の療育に関する専門家で結成されている。 言語療法士や自閉症コンサルタントの仕事内容など、発達障がい児をもつ両親らが知りたいと思う情報の提供に努めている。年に2回、講演会を兼ねた交流会を開催している。
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First Step実行委員の餌取千佳さん

 

 

発達障がい者協会アシスタント・マネジャーのテリー・シェンケルさん

 

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