日加ビジネス関係の再燃
バンクーバー市で3月21日に開催された第2回日本カナダ商工会議所協議会シンポジウム「日加ビジネス関係の再燃」。午前中の第1部:成長の機会‐新たな可能性をつかむに続き、午後からは、第2部:日本でのビジネス‐対日投資と地方再生、第3部:継続した関係を築く‐人と人とのつながりというテーマで日加ビジネス関係に焦点が当てられた。
(前号からの続き)
第2部の会場の様子
日加EPAの実現を -デレク・バーニー氏講演-
午後は第2部の開始前にデレク・バーニー氏の基調講演が行われた。バーニー氏は東京のカナダ大使館で7年間(佐藤栄作首相時代)外交官を務め、3年間駐韓カナダ大使を務めている。1987年から89年には進歩保守党政権ブライアン・マルルーニ首相時代に初代首席補佐官に就任、米加自由貿易協定に関わった。1989年から93年には駐米カナダ大使、北米自由貿易協定(NAFTA)合意に向けての交渉を担当した。93年以降は民間企業で活躍。現在はノートン・ローズ・フルブライト・カナダLLPで、シニア・ストラテジック・アドバイザーを務めている。
講演内容は、日加経済連携協定(EPA)の推進とアメリカ一国依存からの脱却の重要性を強調。自由貿易協定は現在、日本とカナダも参加しているTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)が進んでいるが、それとは別に日加2国間のEPAを実現することは両国にとって利益があると語った。
EPAはアメリカ依存脱却にも一役買う。カナダが、日本さらにはアジア・太平洋全体を重要な市場として目を向ける必要性は、現在天然資源の輸出先としてアメリカ一国に依存している体制を脱却することを意味する。そのためにもカナダ国内のパイプラインなどのインフラ整備を進めることが必要で、カナダ政府は国全体の利益を考慮し、強いリーダーシップで決定するべきと語った。
バーニー氏が紹介した資料によれば、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料の需要は2040年まで増加する傾向にあるという。カナダの豊富な天然資源をアメリカ以外の市場に運ぶためにはパイプラインは不可欠。パイプラインでなければ列車で運ばれ、より危険で、より不安定で、より費用がかさむ。天然資源の輸出は温室効果ガス排出量に影響するが、これを抑えるのは新技術を開発・利用することで解決を図る。ここにも日加で協力できることがある。これからは温室効果ガス排出量と化石燃料需要の増加のバランスをうまく取っていかなくてはならないと語った。
日加ともビジネスといえばアメリカを意識する。それは間違っていないが、日加両国関係が持つ可能性は大きいと思うと語った。
第2部
日本でのビジネス ‐対日投資と地方再生-
ジェトロ副理事長赤星康氏、茨城県国際課長清瀬一浩氏、ウェイクリー外国法事務弁護士事務所(東京)ウィルフ・ウェイクリー氏、JAL/CAEフライトトレーニング社ゼネラルマネージャー、クウェンティン・オマホニー氏が、日本でカナダ企業がどういうビジネス機会を見出し、成功できるかについて報告した。
日本で成功したビジネス例として、CAEが2015年から東京で展開している日本航空(JAL)とのジョイントベンチャー、フライトトレーニングが紹介された。CAEは1947年創設、モントリオールに本社を置きトレーニングシミュレーション技術を提供する。世界35カ国、160カ所、約8千人の従業員を有する業界トップ。商業用フライトシミュレーターを主に、軍事用、医療用なども手掛けている。
JALとは25年間取引をしていた信頼があり、東京にパイロット訓練用フライトトレーニングセンターを開設することは双方にとって利益が大きいと語った。韓国ソウルにも同様のセンターを開設し、両都市をアジアの拠点とし、他の航空会社からも受注する。日本でのビジネスの利点は、ビジネス環境が成熟していること、JALのような世界トップ水準の企業と組むことでブランドと質を確保できること、日本のような高い水準を求められる国で成功すれば世界のどこでも通用することをあげた。
これから期待できる分野への進出として、ウェイクリー氏はアジアで需要が急増しているインフラ整備をあげ、日本も例外ではなく、PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)/PFI(プライベート・ファイナンシャル・イニシアティブ)を利用したプロジェクトが注目されていると紹介した。日本では訪日外国人旅行者が急増し、宿泊施設不足が深刻になっている。しかし地方都市ではホテル建設は簡単ではなく、そうした時にPPPを利用したプロジェクトが生きてくると語った。例として、奈良県橿原市での市の土地に市役所に隣接した宿泊施設を建設した取り組みを紹介した。
清瀬氏はつくば市のR&D(研究開発)による海外企業誘致展開で、科学都市として知られるつくば市での取り組みを紹介し、地方都市だからこそできる取り組みを語った。
ジェトロの赤星氏は日本への投資の利点に、成熟した市場、世界トップクラスの技術力、ビジネスインフラ整備の充実、安全性をあげた。日本からカナダへの投資に比べ、カナダから日本への投資はその約10分の1と少なく、改善の余地があると紹介した。
第3部
継続した関係を築く ‐人と人とのつながり-
ブリティッシュ・コロンビア州国際貿易大臣テレサ・ワット氏、元駐日カナダ大使ジョセフ・キャロン氏、カナダインバウンド観光協会会長別所和雄氏、元駐日カナダ大使レン・エドワーズ氏が、良好なビジネス関係を築いていく上で人と人とのつながりも重要なカギであるとの視点から講演した。
キャロン氏は、主に日本でビジネスを展開している、もしくは始めようと考えているカナダ側に向けた内容で、日本でのビジネスの心得を紹介。カナダ大使館を有効利用すること、日本は西洋化されていても北米とはビジネス文化がまるで違うこと、カナダの多文化主義の恩恵を十分に生かした豊富な人材を活かすことなどをあげた。日本人にとってカナダ人とのビジネスは非常にいい印象があり、正直で人の話に耳を傾けるというカナダ人気質への信頼からきていると、ある日本人ビジネスマンの言葉を紹介した。
別所氏は観光業から日加間を分析。旅行を通し、文化、歴史、食、生活など、お互いの理解を深めるということでは究極の人と人のつながりと語った。海外留学生、ワーキングホリデー、JETプログラムは現在も人気が高く、若者の文化交流に一役買っている。一般旅行客でいえば、日本からの旅行者は、観光・ビジネスとも増加。日加間の航空便数が増加したのも要因の一つ。2014年羽田線就航に加え、昨年から関西国際空港線(エアカナダ)が、夏期スケジュールのみ復活したことも好影響している。
今後の傾向として、欧州情勢の不安定から、観光・ビジネスともに北米シフトがみられることに加え、カナダドル安もカナダにとっては追い風になるとみられる。観光を改めて重要な文化・経済活動とするため、航空運賃にかかる税の軽減や観光客への払い戻しなどで連邦政府の協力も欠かせないと語った。受け入れるカナダ側の課題として、宿泊施設やガイド不足があるが、官民学が協力して両国の観光促進を目指したいと締めくくった。
アメリカからの脱却
これまで日加両国ともビジネスといえばアメリカ、もしくはアメリカ経由という視点から脱却し、両国が直接的に双方向にビジネスを展開することが必要との言葉が何度も繰り返された。
日本カナダ商工会議所協議会カナダ会長スティーブ・デッカ氏は、インタビューの中で「日加独自のビジネス関係の新たな再構築の時期にきている」と語った。日加関係自体は友好なものだが、それだけに甘んじているわけにはいかないという。日加が経済でアメリカ・中国に目を向けるというのは当然のこと。しかしそれだけという視点を変える必要があると強調する。「日加はこれまで以上のビジネス関係を築ける大きな可能性がある。この協議会はそこを目指している」と語った。
大きな可能性のある分野として、第1部で講演したディエツ氏は、「エネルギー、テクノロジー、アグリフード」をあげた。バーニー氏は石油、石炭、天然ガスの需要が今後25年は増加することはあっても減少することはないとの数字を示した。カナダには豊富な天然資源があり、日本には最先端の技術がある。ここに非常に大きな機会があるとも。
ディエツ氏は日加ビジネス促進に必要な対策として、TPPなどの政策の他に、日加に精通した若いリーダーを育てること、そのためにワーキングビザの取得を緩和することも必要と語った。エドワーズ氏も若者の興味を引くことは長期的な関係を築く上で非常に重要と強調した。
別所氏によれば、日加の若者交流プログラムは非常に人気があるという。カナダはJET同窓会も活動が活発であり、カナダ政府移民相は留学生の永住権取得に積極的な姿勢を示したばかり。3月上旬にバンクーバーで開催されたGLOBE2016では、サスカチワン州、アルバータ州でのCCS(二酸化炭素の回収と貯留システム)プロジェクトに参加している日本企業も出展していた。両国に必要なカードは揃いつつあるようにみえる。
日本カナダ商工会議所協議会槍田松瑩氏は、今までの関係にとらわれず新たな発想による日加関係がさらに発展していくと確信。そのためには「民間企業の活力が必要」と改めて強調した。デッカ氏は、中小企業の積極的な参加が必要と強調し、貿易機会のその向こうにある関係を目指していきたいと語った。
(取材 三島 直美)
「日本に滞在していたのは佐藤栄作首相時代」とあいさつするバーニー氏。ジョークの通訳に困った話で会場を沸かした
デッカ会長。槍田会長同様「日加のメディアも関わることが必要」と語った
BC州ワッツ国際貿易大臣。LNG開発での日加協力を強調した
来年のカナダ建国150周年など日加旅行業界には追い風が吹いていると別所会長(メープルファンツアーズ代表取締役)
午後からの司会を務めたカナダ商工会議所会頭ペリン・ビーティー氏
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