ビジネス関係をより強固に
第2回日本カナダ商工会議所協議会シンポジウム「日加ビジネス関係の再燃」が3月21日、バンクーバー市で開催された。日加の政財界から約260人が参加。日加間のビジネス関係の現状報告と、将来に向けより活発で強固な関係を築いていくことが必要との認識を示した。
日本カナダ商工会議所協議会は2014年10月に設立。同年11月に第1回シンポジウムを日本で開催し発進した。今回はカナダ開催第1回。主催は日本商工会議所、カナダ商工会議所、グレーターバンクーバー商工会議所。在日カナダ商工会議所(CCCJ)、JETRO、日本‐カナダ商工会議所(JC-COC)協力。 シンポジウムは3部構成。第1部:成長の機会‐新たな可能性をつかむ、第2部:日本でのビジネス‐対日投資と地方再生、第3部:継続した関係を築く‐人と人とのつながり。各セッションではパネリストが独自の視点で日加ビジネスを築いてきた経緯や将来に向けての展望を語った。
会場の様子。午前中に行われた第1部
日加双方向ビジネス関係の再構築
日加商工会議所協議会カナダ会長スティーブ・デッカ氏は冒頭あいさつで、今回の会議の意義を、より多くの人々や企業が集まり、話し合うだけではなくこの会議で何かを掴んで今日から何かを始められる、大企業だけでなく中小企業にも積極的に参加してもらうことだと語った。
同日本会長槍田松瑩(うつだしょうえい)氏は、日加の経済交流をもう一度引き上げるのに必要なのは民間の活力と語り、新たな日加関係の構築期を迎え、今回のシンポジウムは小さく生んで大きく育てるという日加商工会議所協議会にふさわしい会となったと語った。
駐日カナダ大使マッケンジー・クラグストン氏は、日本の経済状況や構造が変わっていく中、今回のシンポジウムは日加の民間企業関係の発展のモデルとなるとともにこれから直面する新たな挑戦への指標となるだろうとあいさつした。
駐カナダ日本大使門司健次郎氏は、2000年を頂点に日加貿易は15年で5パーセント減少、2002年まではカナダにとって日本はアメリカに次ぐ貿易国だったが、2009年以降はアメリカ、中国、メキシコ、イギリスに次ぐ5番目になっている。旅行者数でも昨年は全盛期1996年の40パーセントにまで落ち込んでいる。しかし、この数字はこれからの可能性があることを示しているとも言える。「補足的」と表現される日加経済関係をそれ以上のものへと発展させることが必要と語った。
カナダでは昨年政権が交代し、自由党政権が発足した。日加両国首相はすでに昨年11月のG20で会談を行い、経済、安全保障、科学技術、文化面などで関係を強化していくことで合意しているとも語った。
第1部 成長の機会 - 新たな可能性をつかむ
第1部では、マッキンゼー・アンド・カンパニーのディレクター、ミコロス・ディエツ氏の基調講演に加え、5人のパネリストが日加関連での独自の経営展開を紹介した。パネリストは、レインメーカー・エンターテイメント社長兼チーフクリエイティブ責任者マイケル・ヘフェロン氏、メトロバンクーバー港湾会社社長兼CEOロビン・シルベスター氏、(株)カプコン代表取締役会長CEO本憲三氏、本田技研工業(株)渉外部担当部長村岡直人氏、日立ハイテクAWクリオ社長マーク・ボルダック氏。 ここではホンダ村岡氏とカプコン本氏のカナダでの取り組みを紹介する。
カナダ工場の重要性
「モビリティ」をキーワードに商品開発に取り組むホンダ。市場に近い所で生産することを原則として、最大市場の北米では北米販売の99パーセントを生産している。現地生産にこだわる理由としてできるだけ早く現地生産するということのほかに、部品産業の発展や雇用などで現地に貢献する、為替や関税の変動の壁を乗り越えるということがある。
カナダにはオンタリオ州に工場があり、アメリカ、日本、中国に次いで世界4番目の規模。カナダ工場の特長は、生産技術に優れていること、環境に配慮した工場となっていること。カナダでの販売数も昨年は過去最高を記録。カナダでの販売車の約5割はカナダで生産、カナダで製造している自動車の部品の約8割をカナダで調達している。カナダ販売車は「メイド・イン・カナダ」を強調している。
カナダ工場は1986年に稼働。ホンダのグローバルなオペレーションでは、シビックの生産工場として重要な位置にあり、今後シビックを生産する中国、トルコ、ブラジルなどでカナダから技術指導者を派遣し、シビック製造ではリードファクトリーの役割を果たしている。
人件費が高いカナダでいかにしてグローバルな競争力を確保していくかは挑戦であるが、30年間で培ってきた高い生産技術と、州政府の支援などによる新しい投資で、安い労働力に負けない競争力を維持していくことができると信じている。
カナダを世界を見据えた開発拠点に
カプコンは北米ではアメリカ以外に、バンクーバーとトロントに会社を設立。10兆円といわれるゲームソフト市場の北米でのソフト開発拠点としている。
同社代表作はバイオハザードやストリートファイターなど。ゲームタイトルの15本がミリオンセラーとなっている。
バンクーバーには2010年にカプコン・ゲーム・スタジオ・バンクーバーを設立、同年ブルーキャッスルゲームズを完全子会社化した。現在230人のスタッフを有し、バンクーバーではEA、マイクロソフトに次ぐ規模。トロントはビーライン・インタラクティブ・カナダ。
カナダにソフト開発会社を持つ理由としては、バンクーバーは世界で最も住みやすい町としての評価があり、トロントは日本の投資パートナーシップとして理想的なロケーションであること、トップクラスの開発人や業界をリードする人材にアクセスしやすいこと、テクノロジー分野に貢献するトップクラスの大学が多いことがあげられる。また、為替も米ドルやユーロに比べ弱いことも効率がいい。
カナダでは新しいテクノロジー人材を育て、新しいコンテンツ技術を埋めるような環境を作っていきたい。マーケティングは全てアメリカのサンフランシスコにあるカプコンU.S.A.で行っているが、開発生産拠点はカナダに置いている。カナダではアメリカに比べ、ゆっくりと人材を育てられるし、ゆっくりとモノづくりをすることができる。特にバンクーバーはマイクロソフトやインテルがあるシアトルが近く、環境がよく人が集まりやすい。バンクーバーはこれからも投資するにはいい場所だと思っている。
日加はもっと幅広い分野でビジネス交流ができる
シンポジウム前日には在バンクーバー日本国総領事館岡田誠司総領事公邸で、日本からの参加者を招いてのレセプションが行われた。
日加ビジネス関係について槍田氏は、「日本とカナダではもっと幅広い分野でビジネスの交流ができるのではないかという問題意識を持っている」と語り、1日の会議では議論は限られるが回を重ねるごとに領域を広げていければいいと語った。「正直言って日本のビジネスから見るとカナダの認識はどうしてもアメリカ経由になってしまう」と槍田氏。「カナダ自体がもっとダイレクトに日本との関わり合いを通じていろんな認識が深まった方がいいと思っている」と述べた。また、メディアの役割も重要とも指摘。現在、日加には一人も記者の駐在がいない。「なるべく早いタイミングで1社くらいは置いてくれると」と語った。
政治的な面での協力はできる限りしていくという門司大使。「日加の可能性は非常に大きいと思う」と言う。カナダは政権が交代し、日本ではG7開催が近い。この会議はいい時期に行われたと語った。G7の最大テーマのひとつは世界経済。新興国の経済に陰りが見え始めた今こそ先進工業国の役割は大きいと語り、「カナダはG7で主要メンバーでもあり、アジア・太平洋に位置して、TPPメンバーでもあるので、いろんな分野で関係を発展させていきたい」と、特にゲームなどのほか、科学技術、医療関係、ライフサイエンス、宇宙産業など関係が広がっていくことを期待していると語った。
3月23日に帰国が迫っていたレセプション主催者の岡田総領事。これまでの3年2カ月の在職期間を振り返り、「日本も含めてアジア太平洋のビジネスを促進するというBC州の政策の中で、日本が大きな位置を示す今回は良い機会だと思う」と語った。カナダ駐在は3回目。「カナダ通」としてBC州と日本の経済を見て、BC州クリスティ・クラーク州首相がアジアに目を向けた経済政策を打ち立てるのは正しい選択だと思うし、中国以外のアジア諸国に目を向けた場合、日本との関係をもう1回強化したいと思うのは必然で、その時期にこの会議がバンクーバーで開かれることに大きな意味があると思うと語った。
JC-COC会長小松和子氏は、こうした会議の開催こそがJC-COCとしての大きな目的だったと思うと語り、日本企業との交流を通じて、バンクーバーの日系ビジネス全体をあげていくことができるのは非常にいいと語った。
(次週に続く)
(取材 三島直美)
クラグストン駐日カナダ大使。カナダ政府としてもできるだけ両国の経済関係に協力すると語った
大使就任11カ月で7回目のバンクーバー訪問とシンポジウムでの冒頭あいさつで語った門司駐カナダ日本大使
バンクーバー商工会議所会長兼CEOイアン・ブラック氏。午前中の司会を担当。バンクーバーにとって日加のビジネス関係は非常に重要と語った
レセプションであいさつする槍田会長。発足に貢献した経団連と日本商工会議所が協力していければ活動はさらに広がると語った
離任前の最後の大イベントとなった岡田総領事。「密度の濃い仕事ができ、3年2カ月楽しんで仕事をすることができた」と笑った
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