厚生労働省は2025年に認知症の高齢者が約700万人になると推定。65歳以上の人の5人に1人が認知症になると予想されている。

隣組では毎月第2水曜日の午後、『認知症の人を支える家族の会』を開き、アルツハイマー病や認知症患者の家族を介護する人たちがそれぞれの経験や気持ちを日本語で話し、お互いに支え合える環境を提供している。

 

 

隣組が発行する認知症関連の資料

 

認知症患者徘徊による 鉄道事故の例

 2007年、愛知県で徘徊症状がある認知症の男性(当時91)がJR東海の線路内に入り電車と接触した死亡事故で、JR東海が遺族らに振り替え輸送の費用など損害賠償を求めた訴訟で、名古屋地裁は介護に携わった妻と長男(別居)に約720万円の支払いを命じていた。男性はその時点で『認知症高齢者要介護4(常に介護が必要)』と診断されており、妻も『要介護1』だった。

 2014年、2審の名古屋高裁は同居の妻のみを『監督義務者』と判断した上で、賠償額を360万円に減額。JR側、妻側双方が上告していた。

 3月1日の判決で、最高裁はJR側の上告を退けた上で妻に賠償を命じた2審の判決を取り消した。これにより、今回のケースでは認知症患者が起こした列車事故で「家族に賠償責任はない」との判断が確定した。

 

カナダだったらどうなるか

 『認知症患者を支える家族の会』では、2012年からボランティアをしている蜷川由樹子さんがファシリテーターとして、この事故の経緯について説明した。

 「介護者が抱える現実と現行の法律がかけ離れているところに問題がある気がします。法律が介護と介護者の実態にもっと歩み寄る必要がありますね」

 カナダでは2013年に成人健常者(22)が鉄道事故を起こし、遺族は50万ドルの賠償金を要求された。カナダのほうがきびしい現実をかかえているといえる。

 

同居者に問われる管理監督責任

 蜷川さん自身、義父が認知症と診断され3年前に脳梗塞で亡くなった。義母は遠距離介護だった。また同居していた母親が認知症と診断され帰国。蜷川さんは遠距離介護をしていたが、その後母親は施設に入居した。 

 「患者は認知症(メンタルヘルスの類)と診断された瞬間から法律に問われることはありませんが、同居している家族(介護者)には管理監督責任が負わされるのです。それを避けるには、アシステッド・リビング型の施設に入居させるより他に選択肢がないのが現状です」

 若い人が家族の介護をすることは、自分のキャリアを捨ててしまうことにつながる。そういう意味でも、患者を施設に入れることは決して冷たい決断ではないといえる。

 

早めに認定テストを

 アルツハイマー協会公認ファシリテーターのガーリック康子さんは、母親の発病がきっかけで認知症の遠距離介護にかかわるようになった。1年半ぶりに帰国した際、母親の様子が『なんか変だな』と思ったのが始まりだった。

 「その人によって症状は違います。日本に1カ月滞在したときには、本人(母親)は気がついていませんでしたが、身の回りのことができなくなっていました。認定テストを受け、支援がどのくらい受けられるかを知ることが大切です」

 ガーリックさんは下記の情報と提案をあげた。

*日本には大きな病院に「物忘れ科」というものがある。

*認知症の進行を遅らせるための薬『アリセプト』は、早いうちに飲み始めないと効かない。

*介護施設のウエイティングリストに登録し、空きができた場合は断らずにとりあえず入居してみることが大切。一度断ってしまうと、また空室待ちの最後になってしまう。

 

支えあうことの大切さ

 バンクーバーでは3月6日夕方、アルツハイマー患者で日系人とみられる男性(71)が行方不明となったが翌日発見され、無事家族の元に戻ったと報道された。

 隣組で行われている『認知症の人を支える家族の会』の重要性について、蜷川さんは次のように話す。

 「『認知症』といえば、まだまだ特別な病気だと思われ、家族に認知症患者がいらしても、それを誰にも言うことができずに、介護者がそのご苦労のすべてを抱え込んでしまうケースが多々あります。家族の健康と長寿を願えば、その先にある誰もが向き合わなければならない現実、それが認知症です。『認知症』は誰にとっても身近で当然の現実であり、そのご苦労をカナダにいながら日本語で『人と話す』こと、『同じ境遇の他人と分かち合う』こと、『行政から受けられるサービスを知る』ことによって、介護者の心を軽くできたら…そういう思いが当会という形になりました。

 ご家族に認知症患者がいらっしゃる、または以前いらした、という方なら、患者のいる場所がカナダか日本かを問わず、どなたでもご入会いただけます。見学も大歓迎です。完全にコンフィデンシャルな環境で運営していますので、皆さんのご事情が外に漏れることはありません。お一人で抱え込まれる前に、頼れる場所があることを知っていただきたいと切に願っています」

(取材 ルイーズ 阿久沢)

 

認知症とアルツハイマー病
『認知症』は病名ではなく、認識したり、記憶したり、判断したりする力が障害を受け、社会生活に支障をきたす状態のこと。この状態を引き起こす原因にはさまざまなものがあるが『アルツハイマー病』もそのひとつ。発症すると記憶障害の症状が見られ、進行にともなって場所や時間、人物などの認識ができなくなる症状が現れる。身体的機能も低下して動きが不自由になったりする。アルツハイマー病の根本治療はまだないが、抗認知症薬で病気の進行を遅らせることができる。

『認知症の人を 支える家族の会』
毎月第2水曜日の1時半〜3時開催。参加・見学大歓迎。詳しくは隣組の磨理子さんまで。
電話(604)687-2172

 

 

 

アルツハイマー協会発行の資料。隣組では資料翻訳ボランティアを随時募集中

 

 

『認知症患者を支える家族の会』ファシリテーターの蜷川由樹子さん

 

 

アルツハイマー協会公認ファシリテーターのガーリック康子さん

 

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