東日本大震災発生から5年目となった11日、在バンクーバー日本国総領事館とカナダ赤十字社の共催で、総領事公邸で5周年追悼レセプションが開催された。震災発生から日本へカナダ赤十字社を通じて義援金を送る活動など、支援を行ってきた個人や組織に感謝するとともに、復興の状況、義援金の使途の報告のためのものだ。カナダ赤十字社理事長サラ・ジョン・ファウラー氏、日本赤十字社国際部国際支援統括監・粉川直樹氏や、ブリティッシュ・コロンビア州ナオミ・ヤマモト大臣(緊急時準備担当)をはじめ約50人が出席した。

 

 

右から在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏、寧子夫人、BC州ナオミ・ヤマモト大臣、カナダ赤十字社理事長サラ・ジョン・ファウラー氏、BC・ユーコン担当部長キンバリー・ネムラバ氏、日本赤十字社国際部国際支援統括監・粉川直樹氏

 

岡田総領事が カナダからの支援に謝意

 震災犠牲者への黙とうの後、スピーチを行った在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏は、未曾有の大震災に見舞われた被災者の人たちのために、「ファンドレイジングをしてくださった皆さんに感謝します」と述べた。自身が米国および英国からの災害救助隊とともに岩手県の大船渡市と釜石市を訪れ、10日以上滞在した岡田総領事は、被害を目の当たりに見て哀しかった一方、世界各地から届いたさまざまな形での支援によって、自分たちだけではないと感じることができたという。

 震災では、ハーレーダビットソンのオートバイや漁船をはじめ、大量の瓦礫が太平洋に流出して、カナダ西海岸に漂着した。岡田総領事は2013年に寧子夫人とともに参加した、日本人学生のボランティアグループ、JAPAN LOVE PROJECTが企画した、津波による瓦礫の清掃についても言及。岡田総領事夫妻も学生たちとともに、バンクーバー島で日本から流された家屋の一部や漁業用品などの瓦礫の清掃を行った。震災瓦礫については、「日本政府から100万カナダドルの助成金がカナダに対して出て、さまざまな組織に送られました」と説明した。

 さらに、2016年にはG7伊勢志摩サミットの財務大臣会合が仙台市で開催されるほか、2019年にはラクビーワールドカップを再び東北地方で開催し、そして更に2020年には夏のオリンピックが東京で開催され、聖火が東北地方を走り抜けることを期待してやまない。

 

カナダ赤十字からの義援金は4800万ドル

 カナダ赤十字社理事長サラ・ジョン・ファウラー氏も、カナダ赤十字を通じて義援金の寄付を行った人たちに、まず感謝の言葉を述べた。5年前、村や町がまるごと津波にのみこまれるという、恐ろしい光景に胸が張り裂けそうだったという。震災生存者も家や家族を失い、その上、飲料水や食べ物、医療品が十分でないという状況の下、自制心をもって、立ち向かう日本人の姿に世界が驚いたと当時の気持ちを振り返った。

 カナダ赤十字を通しての義援金は4800万ドルに達している。「個人や企業、団体からの義援金は、過去5年間、被災者支援に使われてきました。日本赤十字を通じて、生存者が元の生活に戻るためなどに用いられています」と説明した。

 「(福島県)久之浜で小さな食品店を営んでいた遠藤利勝さんも、支援を受けた一人です。震災前、遠藤さん一家は店の2階に住居を構えていましたが、津波により建物は全壊。全てを失ってしまいました。みなさんの寄付のおかげで、赤十字では『救済パッケージ』を送ることができ、遠藤さんはお店を再開することができました」

 カナダ赤十字の資料によると、義援金の一部は被災者への家電セットを送るために使われている。13万3000戸以上が、電子レンジ、炊飯器、魔法瓶、冷蔵庫、洗濯機などを受け取った。そのほか、震災で被害を受けた幼稚園の園舎を新築するための支援などにも充てられている。

 カナダ赤十字は国際活動だけでなく、火災をはじめとする国内での災害被害者へのサポートも行っている。ファウラー氏は災害に備えることの重要性についても説いた。私たちが緊急時に備えるための救急アプリも用意しているそうだ。

 

 東日本大震災から5年を機にナオミ・ヤマモト大臣が訴えたのは、緊急時への準備だ。「日本のような地震多発地帯とは異なり、カナダは地震に備えることの大切さを考えさせられるような機会はありません。しかし実際は、ブリティッシュ・コロンビア州は地震が起きる可能性が高い地域にあります」

 1964年のアラスカ地震の際には、バンクーバー島のポートアルバーニを津波が襲い、甚大な被害を出した。政府では対応計画を作成して、大規模な地震に備えている。「その計画をテストするため、6月には警察、消防、救急らが参加する大掛かりな演習を予定しています」と語った。「災害に遭った人たちは『もっと準備しておけばよかった』と必ずおっしゃいます。だから、災害に備えてください」

 

物質および精神面で被災者をサポートしてきた日本赤十字

 日本赤十字社国際部、国際支援統括監、粉川直樹氏はまず、「大震災で私たちが学んだことを、カナダの皆さんとも分かち合いたい」と語った。東北地方は以前にも、1896年、1933年の地震と津波で大きな被害を受けてきた。1960年のチリ地震でも、津波が東北地方を襲い、約130人が命を落とした。「遠い場所で起こった地震により、バンクーバー周辺でも津波の被害を受ける可能性はあります」と警鐘を鳴らした。

 「日本は地震が多いため、災害時の訓練も普段から行っていたにもかかわらず、多くの人が東日本大震災で亡くなっている。そして震災から5年が経った今もなお多数の行方不明者がいるし、原子力発電所のあった福島では長期にわたり自宅に戻れないままの人たちがいるのが現状です」

 日本赤十字社が行ってきた被災者支援についても説明した。震災発生直後には医療チームが活躍したほか、被災者を物質面と精神面の両方でサポートしてきた。世界各地の赤十字を通して597億円(7億5千万米ドル)が集まり、49・1%にあたる293億円は、6点の家電製品セットなど被災者が生活を再開するために使われた。阪神淡路大震災では被災者の孤独死が問題となったことから、ノルディックウォークなどで精神面で被災者を支えるよう努めている。子どもたちの教育については、校舎の建設以外にも、北海道でのサマーキャンプも開催。特に福島の子どもたちは外で遊ぶことができないことから、屋内のプレイグラウンドの整備も行っているという。

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 最後にピアソンカレッジの学生、小杉山浩太朗さんと、濱田真帆さん、ベンジャミン・フイさんが、震災後、同校で行ってきた被災者に向けての活動についてプレゼンテーションを行った。ビクトリアにある全寮制のインターナショナルスクール、ピアソンカレッジでは、大きなホールを使っての学校イベント、『One World』で、義援金の寄付を募ったほか、被災者に思いを馳せて折り鶴を折ってきた。そして、ことしの『One World』でも日本人留学生が中心となり、世界各地からの学生たちと、被災者応援のためのチャリティーソング、『花は咲く』を日本語で披露しようと練習しているという。

 レセプションに出席した、アーティストのギラード依子さんは「2011年から今まで休まずサポートしてきて、震災から5年を迎えた今、カナダ在住の日本人としての責任感を考え直しています」と話した。「これまでは、被災者支援活動を行っている人たちとのコネクションを作るので精いっぱいでしたが、これからは自分が率先して何をしていくか考えていきたいです。カナダにいるからこそ、日本にいて、支援をしている日本人の人との懸け橋になることもできます。それだけでなく、被災者支援のために、自分の力で世界に発信していきたいと思っています」と決意を述べた。

(取材 西川 桂子)

  

 

特に福島の子どもたちは外で遊ぶことができないことから、屋内のプレイグラウンドの整備も行なっていると話す粉川氏

 

 

岡田総領事(左)とナオミ・ヤマモト大臣

 

 

(左から)ピアソンカレッジからプレゼンテーションを行った 濱田真帆さん、小杉山浩太朗さん、ベンジャミン・フイさん

 

 

レセプションの食事では東北からの食材も使われた

 

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