日本からは2社が参加

ビジネスと環境を考える国際会議GLOBE 2016が3月2日から4日までの3日間、バンクーバー市コンベンションセンター東棟で開催された。1990年初めから続くこの会議は2年に1度、バンクーバーで開催されている。主催はGLOBEシリーズ。 会議は、講演者を招待しての講演会と企業や政府、研究機関がブースで製品やサービスを紹介する展示会の2部構成。約50カ国から企業や機関が参加、講演者は約250人、展示会には約250社が出展した。

今回はジャスティン・トルドー首相と全国州首相がバンクーバーに集まりコンベンションセンター西棟で環境対策会議を開催していたこともあり、多くの政府関係者が講演会に出席。連邦政府の取り組み、州政府の取り組みなどを述べた。さらに今回の特長として、昨年11月末からパリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)の後に開催される国際環境会議ということもあり、COP21を意識した講演内容が多かった。

 

 

中外テクノスのブースで。配管内詰まり診断や液レベル測定の説明も行っていた

 

オープニングはトルドー首相のスピーチ

 3月2日8時30分から始まるオープニング会場前には、ジャスティン・トルドー首相のスピーチを聞こうと長蛇の列ができていた。満員の会場でトルドー首相は、連邦政府が今後5年間でクリーンエネルギー研究への投資をこれまでの2倍にすること、市町村の公共交通機関のインフラ整備などに7億5千万ドルを用意していることなどをあげた。また、パイプラインも再生可能エネルギーもカナダには必要との立場を強調し、天然資源産業でよりクリーンで効果的な技術を開発することにより、カナダがこの分野で世界をリードし、同時に再生可能エネルギーへのシフトを実現していくことができるとも語った。

 

企業や機関の取り組み

 講演者は企業の最高経営責任者(CEO)や環境部門責任者が多く、それぞれの取り組みを紹介する講演会はどれも多くの人で埋まった。

 BASFはバイオポリマーの可能性を紹介。シアトル・マリナーズの本拠地セイフコフィールドとの協力で食物の生産から加工、ゴミ処理までの新たな利用方法の可能性を紹介した。他にも、バンクーバー国際空港やバンクーバー港湾会社の取り組み、ボーイング社の最新機787の効果など、運送機関の環境問題への取り組みが紹介された。

 2年ごとに開催されるため、テーマが世界の環境問題状況に合わせて変わっていく同会議。前回までは天然資源関連企業や金融機関が大きく取り上げられていたが、今回は中国、インド、ASEAN(東南アジア諸国連合)が講演を持つなど、アジアからの主張も目立った。

 

州政府、市長懇談

 州首相では、オンタリオ州キャサリン・ウィン、ケベック州フィリペ・クイラード、アルバータ州レイチェル・ノトリー、マニトバ州グレッグ・サリンジャー各州首相がステージで懇談した。注目はアルバータ州で、昨年保守党から現新民主党政権に交代し、それまでの環境対策消極政策から一気に積極政策へと転換、連邦、他州政府と協力してやっていくことをここでも改めて強調した。

 オンタリオ州は石炭発電廃止を強調。キャップ&トレード制度導入など、環境問題へ取り組む姿勢を示した。国内最大州であり、最大人口を有する同州のエネルギー問題は深刻で、最も多く原子力発電所を抱えている州でもある。オンタリオ州の動向はこれからも注目される。

 市長懇談では、バンクーバー市、フィンランドのヘルシンキ市、デンマークのコペンハーゲン市からそれぞれ代表が参加。バンクーバーのロバートソン市長は同市が目標としている2020年最もグリーンな都市の実現に向けての政策と高騰する住宅事情の問題を述べた。

 

カナダが環境政策で世界をリードしていくことが重要

 同環境会議中の3月2日、記者会見を開いたグリーン党エリザベス・メイ党首は、今回トルドー首相が同会議に参加することに「2005年の(自由党政権)ポール・マーティン元首相以来」と称賛を送った。首相が本気で取り組もうとしていることは理解しているとし、COP21への出席、そこでのキャサリン・マッケナ環境・気候変動大臣の言動、ようやくカナダが世界の舞台で環境問題について対等に参加できることを喜んだ。

 しかし課題は多いとも。政府が環境政策を発表するまでに6カ月を要することは賛成も、現在の温室効果ガス削減目標は新たにしなければならないと指摘。3月22日の予算案発表、4月22日アースデーが今後の環境問題の注目の日となると語った。

 

原子力発電はクリーンエネルギーか?

 福島では事故から5年を迎え、日本ではいまだ大きな問題となっているが、同会議でほとんど議論されることがないのが原子力発電。メイ党首は、グリーン党としては原子力はクリーンエネルギーとは捉えていないと記者会見での質問に答えた。

 カナダは現在、オンタリオ州、ニューブランスウィック州で原子力発電がおこなわれている。そのほとんどがオンタリオ州で、今回展示場でブースを出していたカナダ原子力産業機構のロン・オバース代表によると18基が稼働しているという。同氏は原子力はクリーンエネルギーの未来だと思っていると語った。これまでこの会議で注目されなかったが、次回にはもっと強調していきたいとも語った。GLOBEシリーズCEOマイク・ジャービス氏は、化石燃料からクリーンエネルギーへの転換の一つの選択肢と語り、次回以降要請があれば取り上げる可能性があると語った。

 

常にその時のトレンドを捉えつつ

 会議もほぼ終わりに近づき、ジャービスCEOに話を聞いた。今回がCEOとして初めてのGLOBE。「参加者からはいいフィードバックをもらった」と安堵の表情を見せた。今回は特別なものがある。COP21のすぐ後に開催された環境国際会議。ジャービス氏自身もパリまで行き、GLOBEをパリから続く次のステップと宣伝した。

 毎回テーマが微妙に変わる同会議は、常にその時の最先端の問題を捉えるよう心掛けてテーマが決められるという。「今回もエネルギーの貯蓄、供給連鎖、金融、炭素バブルなどさまざまな角度から環境問題について議論されました」。

 トルドー首相をはじめ、多くの州首相らが参加したことについては、「素晴らしい付加価値となった」と喜んだ。自由党政権になりカナダ全体が環境問題について積極的に取り組んでいこうとするエネルギーが会議全体にも伝わったという。「この問題についてカナダが取り組んでいこうとする姿勢が大事」と語った。

 

日本からは2社が参加

 展示会には日本から、中外テクノス株式会社(広島市)、日立化成株式会社(東京)の2社が出展した。両社ともCCS(二酸化炭素の回収と貯蓄)に関係する技術で出展。GLOBEは今回が初めて。

 中外テクノスは、現在サスカチワン州電力会社サスクパワーが行っているCCSプロジェクトに参加。地上モニタリングシステムを提供している。同プロジェクトは連邦政府、州政府の支援を受け、当初の予定より半年遅れの2014年10月に開始、世界で初めての試みとして注目された。火力発電所から排出されるCO2を地中の滞水層に貯留するという技術で、大気中に排出されるCO2を削減する。

 同社はその地上へ影響を測定するために8カ所にCO2地上漏えいモニタリングシステム装置を設置。地中に貯留されたCO2が地上に漏れていないかを測定し、関係者や近隣住民などに安全性を理解してもらうことを目的としている。同社取締役副社長福間聡之氏は、装置の設置は漏えいを測定するという以外に、地上に漏えいするのではないかという不安を監視装置が付いていることで安心してもらえるという役割も果たしていると説明した。

 この共同実証実験はすでに最終段階で、今後は最終報告後に商業レベルという次のステップに進む。福間氏はCCSの最大の難点はコスト高と説明。炭素税などの規制が厳しくなれば普及する可能性はあると語った。

 日立化成はCO2吸着剤・回収装置の開発を進めている。今回は西部技研との共同開発となる装置の小型版を展示し、訪問者に説明していた。

 日立化成新事業本部の中村英博氏は、カナダがCCS開発にとって魅力的な国の一つとして、エネルギー自給率が高いこと、炭素税を導入していることなどをあげた。早い段階からCCSに積極的なアルバータ州政府を通し、オイルサンド会社ともコンタクトを取っているという。アルバータ州のオイルサンド産業がCO2を大量に排出することは知られており、同州は天然ガス産業も盛んでそこでも需要があるのではと語る。「特にカナダはCCS標準化の議長国でもあり、この分野でリーダーシップを取ってほしい」とこの技術導入でのカナダへの期待は大きい。

 現在はまだ開発段階だがなるべく早く実用化し、「最初は小さい規模で始めスケールアップしていくのが理想」と中村氏。今回ブースでの反応もよく「また参加したい」と語った。

(取材 三島直美)

  

 

GLOBEオープニングであいさつするトルドー首相。カナダの積極的な参加表明に会場からは拍手が沸いた

  

 

オープニングであいさつした BC州クラーク州首相

  

 

GLOBEシリーズCEOジャービス氏。オープニングでもあいさつした

  

 

環境問題を党の最優先事項とするグリーン党メイ党首。北米初のグリーン党国会議員で、環境問題については自由党と協力している

  

 

マッケナ環境大臣も講演会でスピーチした

  

 

市長懇談会。左からヘルシンキ市サウリ市長代理、コペンハーゲン市ジェンセン市長代理、バンクーバー市ロバートソン市長

  

 

日立化成のブース。調光フィルムや産業用リチウムイオン電池も展示していた

  

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