『香道』を伝承している宇野京子さん
貴重な香木

香道とは、正直あまり聞かれない伝統芸ですね。

そうですね。昔からあまり、広げようというつもりがなかったのでしょうね。香木(こうぼく)そのものが日本ではまったく採取されないものらしいです。昔、南蛮と言われた東南アジアの島々、インド(佐曾羅)、スマトラ(寸門多羅)、タイ(羅国)、ベトナム(伽羅)など暖かいところで採れるのだそうです。
日本には中国や朝鮮半島を経たり琉球貿易などで、平安時代あたりから少しずつ渡ってきたのです。最初は仏教の儀式に使っていました。香木を粉にして香料や蜂蜜と混ぜて練りまして、小さなお団子状態にして薫物(たきもの)として使っていたようです。


香木とはどういう過程で出来るのでしょうか?

昔、木が倒れたり朽ちたりして長い間地中の中にあったものが、樹液とか樹脂が何らかの化学反応によって固まり、香木というものが出来たわけです。ですからそれを採り出しますと空洞があったり朽ちていたりして、香木として使えるものは少しなのです。
 古代から中国では仏教で使われていたようです。焚くととてもいい香りがするということで、やはり貴重なものですから、世の権力者たちが競って集めたということです。


身分の高い人たちの間で使われたということですね。
よく源氏物語などでお香が出てくるのですけれど、丸めた薫物を焚いて衣に焚き染めたり、お部屋に焚いておいてその香りが移るようにしたとあります。
平安時代に貴族たちが自分の香りを出すために調合し、それを競ったりしました。鎌倉時代に貿易が盛んになると、香木がたくさん入ってくるようになり、力でもって香木の収集が始まりました。


庶民には手の届かないものだったのでしょうか?
いろいろな文献を見てみますと、室町時代にも庶民の中に香りというものが広がっていたようです。えらい武将が持っていたものとはレベルの違うものだったかもしれませんが、南宋貿易などで香木自体がたくさん渡ってきたようで、町民も庶民もお香を楽しんだようです。“寄り合い”をするゆとりが出てきて、その中のひとつがお茶であったりお香であったりしたわけです。
香木を細かく切ってお香やさんが調合なさって香りを合わせたものが、現在の匂い袋です。


香りの
楽しみ方

焚くことのほかに楽しみ方がありますか?
炭団(たどん)を熾(おこ)して灰を暖めておき、お香を灰の上に置くたくさんのお香が集まるようになると、ただ焚くのではなくて、ゲーム性を持たせ種類を当てるなどしました。これを闘香(とうこう)と言います。ひとつの主題を作りそれに合ったお香を香元(こうもと)さんが考えまして、小さな紙の中に入れトランプのように繰ります。鎌倉以降になって香木を使うようになってからの遊びです
八代将軍足利義政は文化・芸術を大切にした方で、和歌とか物語を鑑賞するときに、主人公ごとに香りを考えました。こうして東山文化時代に、香りが文学を主題にした芸術に変わっていったのです


香りが文化として発展していったのですね。
香について書かれた物が江戸時代にひとつのものにまとめられ、これが香道の起こりでもありました。
お香とお茶というのは仏教の儀式のためのもので、同じ頃日本に入ってきて同じように成長していきました。昔はお茶をされる方はお香もされていました。江戸時代にはお茶もお花もお香も、子女の教養のひとつとなされていたのです。


香りに
惹かれて

香道を始めたきっかけを教えてください。
今思い出しますと、祖母のたんすの中に匂い袋が入っていて、いい香りだなあと子供心に感じていました。祖母がお茶を教えていましたので、丸い薫物とか四角い香木などあるのを知っていました。お香の香りというものが、子どものころから何となく自分の中に入っていたのですね。
 たまたま知り合いが、お香をしているからと誘ってくださり、お香と聞いたときにふうっと匂い袋の香りとか祖母の思い出がよみがえってきて、すぐに参加させていただいたのが始まりです。
 私はそのときに、どういう流派があるのかを知らなくて、ふっと香ってくるそのもの、本当に香りに惹かれたのが最初でした。

それからお稽古を始めたのですね。
しばらくしてから、どうも古いお香があるらしいが、一般には買うことが出来ないらしい。それは昔から持ってらっしゃる方の間だけにしかないと聞き、その香りをどうしても聞きたくなりまして、違う先生のところに伺いました。どの流派も、組んであるものを聞かせていただく所作はだいたい同じなのですが、やはりその先生のところに参りましたら、古いお香を聞かせていただきました。
 日本の古い習い事というのは一度めぐり合ったらその流派をするというのが普通なのですが、どうしてもその香りに惹かれてしまったので、お許しをいただき流派を変わったのです。


奥の深さ

やはり段階があるのでしょうね。
初伝、中伝、奥伝があります。これとこれが出来たら初伝というものでなく、先生によってはまったくお免状をお出しにならない方もいます。奥伝というのは秘伝です。

初めての人がお香会で気をつける点とは?
お茶はお作法のやり方によってお手前が違いますので、それを覚えるのが大変ですが、お香は初めての方も私たちのように最後まで習った者も、基本的には同じです。
とても樹脂が強いお香とそうでもないお香がありまして、お香会では火を加減しながら一番良い状態で出すというのが香元の責任になってくるわけです。
 

お香の買い方というのがあるのでしょうか?
お香やさんとお話をしながら買わせていただきます。最初の頃は、6種類セットにした物が買いやすいです。お稽古をしているうちに大体自分で分かるようになり、それの繰り返しです。

バンクーバーで『お香の集い』を開かれたそうですが、その反響は?
バンクーバーでの『お香の集い』にて今回はお香の紹介という意味で、香りの違いというものを聞いていただきました。
 スティック状とか円すい形のお香を家で楽しんでいる方もいらっしゃったのですが、実際にお香木を昔ながらの焚き方で聞くとぜんぜん違いました、とか、肩の力が抜けました、リラックスしましたという感想をいただきました。香道としてのお香の香りを楽しんでいただけましたことは、何より嬉しいことでございました。

もうすぐ帰国されると伺っていますが。
2009年から主人の仕事で2年間の限定でバンクーバーに住んでおり、3月末に帰国いたします。最初の1年は英語学校に通い、2年めになってこちらに住む日本人の方たちとお会いする機会が出来ました。こちらに住みながら、日本のいいところを大事になさっている方というのは素晴らしいと思います。
香道というこんなに素晴らしいものを習わせていただいているのですから、きちっとしたものとして継いでいかなかったら、もったいないと思っています。基本を押さえながら、皆さんが楽しめるものにしていけたらいいですね。

バンクーバーは大好きなところですので、帰国後も年に2-3回はこちらに参りまして、お香に興味のある方や、日本人の方のお役に立てることがあればと願っています。

(取材 ルイーズ阿久沢)


うの・きょうこ: 神奈川県藤沢市出身。香道暦20数年。御家流。2009年から夫の典明氏の赴任(UBC客員研究員)に伴い、バンクーバーに在住。成人したふたりの息子さんがいる。


『伽羅の香』宮尾登美子著 (中公文庫) 980円 『伽羅の香』宮尾登美子著 (中公文庫) 980円

三重の山林王の娘が度重なる身内の不幸を乗り越え、日本の香道の復興に一身を捧げた話。
この主人公は宇野さんの先生の先生とのこと。

 

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