企友会創立24周年~道しるべのような存在に
講演会に先立って企友会の年次総会が行われ、昨年に引き続き、猪田雅公氏が、今年度の企友会会長に決まった。さまざまなイベントを企画し、ビジネス情報の交換や会員とその家族の親睦をはかる企友会は今年で創立24周年。挨拶の中で猪田氏は、カナダの先住民族が道しるべに使った石像イヌクシュクが、新しくデザインされた企友会のバナーに使用されていることについて触れ、企友会の目標の一つは、道しるべのような存在になることだと語った。
在バンクーバー日本国総領事 伊藤秀樹氏
「2011年以降の日・BC州経済関係への期待」
データで見る日本とBC州の関係
在バンクーバー日本国総領事として、日々、日本についての正しい知識の発信や日本・BC州間の経済関係の強化に積極的に取り組んでいる伊藤氏は、さまざまなデータを使いながら、日本・BC州間の今後の経済展望について講演した。
拡大を続けるBC州の日系コミュニティー
BC州在留邦人数は、1970年代から、右肩上がりで伸び続け、2009年には約2万6000人に達した。また、メトロバンクーバーにおける日系企業数は、2005年以降、増えてきている。伊藤氏はこの増加について、日本企業の支店や現地法人ではなく、多くの企友会会員のように、BC州で起業した人の数が伸びているという印象を持っているそうだ。
BC州の対日輸出~底堅い日本の需要
2009年には世界的不況で一時減少したものの、過去20年間にわたり、BC州の対日輸出は年間約40億ドル、あるいはそれ以上を保ってきた。毎年一定の底堅い需要が見込める、安定した輸出先としての日本の存在は大きい。
日本・BC州関係の見通しは明るい
伊藤氏は、さまざまな要素を考慮した上で、日本とBC州の関係は今後着実に良くなっていくだろうと語った。以下に、その理由のいくつかを紹介する。
BC州の天然資源、食糧供給基地としての重要性
まず、BC州の天然資源、食糧供給地としての重要性は明らかだ。世界全体を見た時、天然資源、食糧不足は深刻な問題であり、供給余力のある国や地域は限られている。BC州は国際的に重要な位置付けにある。また日本は、多くの天然資源をBC州から輸入しており、この関係は日本の経済成長とともに拡大していく。特に鉱物資源分野においては、昨年三件、そして今年に入ってからも一件、日本からBC州への新たな投資発表があったという。
BC州とアジア市場をつなぐ存在としての日本
日本はBC州にとって、アジア市場への窓口となる存在だ。日本の貿易の4割以上はアジアの国々との貿易であり、日本企業はアジア市場においてのビジネスのやり方を熟知している。日本企業のカナダでの活動も変化してきており、例えば日本の商社は、カナダ企業に投資し、そこでできた製品を日本だけでなく中国に輸出するなど、多国間の貿易に力を入れている。
ポップカルチャーなどの新たな分野の開拓
伊藤氏は講演の中で、自らが昨年「アニメ・エボリューション」で挨拶をした際、コスプレをした多くのカナダ人を見て衝撃を受けたという体験をユーモアを交えて紹介しながら、日本のポップカルチャーの力を経済関係の強化につなげることができるのではないかと語った。
その他、JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)に参加したことのあるカナダ人が今や、7600人以上いることや、BC州の34の都市に、日本の都市との姉妹都市交流があることなど、さまざまな面で日本とBC州には強いつながりがあると、伊藤氏は語った。
総領事館の課題は、日本の政府機関として、カナダ政府あるいはBC州政府との関係の中で、日系企業がビジネスをしやすい環境を作っていくこと。「日系ビジネスを支援するために、私たちでできることがあれば、どうぞご遠慮なくおっしゃって頂ければと思います」と 伊藤氏は聴衆に呼びかけた。
バンクーバービジネス懇話会会長 合田茂氏
「公開されている資料に基づくトヨタ生産方式の説明」
カナディアン・オートパーツ・トヨタ社
30年以上にわたってトヨタ自動車で活躍してきたバンクーバービジネス懇話会会長の合田氏は、現在、BC州デルタにあるカナディアン・オートパーツ・トヨタ社でコーポレート・アドバイザーを務めている。この会社は1983年に設立され、1985年に生産を開始。その後、順調にビジネスを伸ばしてきた。この工場で生産されるアルミホイールのほとんどは、北米にある他のトヨタの工場に出荷されているそうだ。
トヨタ生産方式について
トヨタ自動車の強さを支えてきた「トヨタ生産方式」。合田氏がトヨタに入社した1974年には、まだ世間でよく知られていなかったが、オイルショックの後にトヨタの業績があまり悪化しなかったことで、変動に強いこの生産方式が注目されるようになったという。ムダの徹底的排除と造り方の合理性を追求したこの生産方式は、今では、製造業ではもちろん、病院、銀行、役所などでも導入されている。今回の講演では、合田氏が実際にトヨタ自動車のホームページにアクセスしながら、このトヨタ生産方式についてわかりやすく説明した。
ジャスト・イン・タイム方式
トヨタ生産方式を支えている二つの柱は、「ジャスト・イン・タイム方式」と「自働化」だ。まず、「ジャスト・イン・タイム方式」は、必要なものを、必要な時に、必要な量だけつくることを意味する。例えば、寿司店で客がマグロを注文したら、それがすぐに出てくることが重要だ。もし注文がないのに作りすぎていてはムダになるし、反対に、注文を聞いた後にマグロを釣りに行っていては間に合わない。自動車の場合には、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておき、どんな注文が来てもすぐに造れるようにする。そして、使用された部品は、使用された分だけまた生産する。在庫をできるだけ抑えることが大切だ。
かんばん方式
「ジャスト・イン・タイム方式」を具現化するために用いられるのが「かんばん方式」。これは「スーパーマーケット方式」とも呼ばれ、スーパーマーケットでよく使われる、商品の情報が記載された管理用のカードを、トヨタの生産管理に応用したものだ。戦後、日本には市場しかなかった頃、トヨタの役員がアメリカでスーパーマーケットを訪れ、これを思いついたそうだ。トヨタではこのカードを「かんばん」と呼び、部品を調達する際に、どの部品が使用されたかを相手に伝えるために利用する。
自働化
次に「自働化」とは、品質や設備に異常が起こった時、機械が自ら止まり、不良品の発生を未然に防止することを指す。異常があれば、アンドン(異常表示板)が知らせてくれるので、従業員は安心して他の仕事をすることができるのだ。そして異常が起これば、処置するだけでなく、原因を追求し、突き詰めて対策をする。トヨタでは異常が起こると、5W1Hの中の、「なぜ」の部分の追求を5回繰り返すそうだ。合田氏は「これは大変苦しい、大変難しい作業だ」と語る。しかし、この対策をしてこそ、生産性を向上させることができるのだ。
講演後には活発な質疑応答が行われ、伊藤氏からは国際連合で日本の代表として勤務していた時の経験、合田氏からは現地の従業員とのコミュニケーションについてなど、参加者は非常に興味深い話を聞くことができた。毎年恒例の新春懇談会は今年も、和やかな雰囲気の中、講演者と参加者が意見交換をする貴重な機会となった。
(取材 船山祐衣)