1月25日、企友会(バンクーバー日系ビジネス協会)の年次総会と新春懇談会が、リステルホテルで開催された。ことしも新春懇談会は企友会とバンクーバービジネス懇話会との共催。約70人が参加し、名刺の交換をして互いの交流を深めていた。講演は、在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏がTPP協定交渉について説明し、懇話会会長の中村諭吉氏が紙とパルプについて語った。

 

 

紙パルプのビジネスに長く携わってきた中村諭吉氏

  

在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏

「TPP協定交渉について」

GATTとWTO

 世界の国々の経済連携を理解する上でまず重要なのは、GATT(関税貿易一般協定)、WTO協定(世界貿易機関を設立するマラケシュ協定)、FTA(自由貿易協定)、EPA(経済連携協定)など様々な呼び名の協定の違いを理解すること。かつてニューディール政策など国内に目が向けられ、それが過度に進み世界経済がブロック経済化し、第2次世界大戦を引き起こした原因の一つとなった訳であるが、この反省を踏まえて作られたのがGATTである。

 このGATTがその後、WTOへ受け継がれた。WTOには「最恵国待遇」と「内外無差別」という大きな原則がある。「最恵国待遇」とは、貿易の相手国とその他の国とを差別せず、最も有利な待遇を与えるというものである。たとえばカナダが日本、中国、韓国などから車を輸入する際、各国の製品にかける関税に差をつけてはいけないということだ。「内外無差別」は、輸入品が国内産の同種のものと差別されないということ。たとえば、酒類には国内で販売する際、酒税がかけられるが、この税率は輸入品であろうと国内産であろうと、同じ税率がかけられなくてはならない。

 WTOには160カ国以上が加盟しており、現在、ドーハ・ラウンドが進められているが、貿易、農業、鉱工業など主に8つの交渉グループに分かれている。これらのグループがすべて合意に達しなければ交渉成立とはならない。どの国も自国に有利になるような条件や要求を提示するため、合意に至るまでは時間がかかる。私自身、交渉に携わったウルグアイ・ラウンドは5年という当初の予定が9年かかって合意に達した。ドーハ・ラウンドは、途中で凍結状態である。そこには、先進国と途上国との対立というものがあり、交渉がまとまらないという現状となっている。

 

TPP協定のゆくえ

 こうした中、新たな経済連携が生まれてくる。FTAは、2カ国以上の国や地域が関税などを撤廃・削減することを定めた協定だ。FTAが物やサービスの流通に関する協定である一方、EPAは、投資、知的財産権などのさらに幅広い分野にわたる。WTOの加盟国が多く交渉がまとまりにくいため、もっと狭い範囲の地域で協定を結ぶという動きにつながっている。

 TPPには12カ国が加盟しており、交渉の範囲も21の分野にわたる。5年の歳月をかけて大筋合意に至ったが、その条約テキストは600ページにも及ぶ。この協定に対して2月4日に署名式が行われ、その後は各国で批准される必要がある。つまり、国会で審議、承認されて発効という手続きを踏むということだ。カナダでは、ハーパー前首相政権によって結ばれたので、現政権のトルドー首相は内容の見直しをまず行うということである。ただ、大筋合意となった今となっては、交渉の再開は実質的に不可能と思われる。このまま受け入れるか、または受け入れられないと判断した場合は、TPPから離脱するより他には方法がないだろう。日本では安倍政権のもと、すでに過半数を超える賛成が得られているので、国会の審議が終われば批准されるであろうと思われる。

 

TPPのメリットと問題点

 TPPのメリットとして、カナダと日本について例をとると、ビジネス関係者の入国簡素化が挙げられる。これにより加盟国間のビジネス関係者の移動が容易になると考えられる。それから、カナダは連邦政府と州政府とで規制の内容が違うことがある。WTOの規定は州政府まで及ばないが、TPPの規定では州政府の規制ルールがTPPのそれと相違している場合は、正される必要があるとしている。また、TPP加盟国では投資のルールが統一される。たとえば、投資家に対する特定の措置履行の要求(技術移転要求など)を禁止することなどが規定されている。さらに、TPP加盟国間での投資に関わる紛争処理のための手続規定が策定されており、当該規定に即して、仲裁手続きが行われる。総体的に見て、日本にとってもメリットも多い経済協定であると考えている。

 TPP協定では、加盟する12カ国の中で関税を撤廃または削減することを規定。こうした優遇はTPP加盟国だけが受けることになるが、それはWTOの「最恵国待遇」という原則に反するものといえる。ただし、WTOは特定の国家間の自由貿易協定等も認めており、同協定に違反するものではない。理想としては、WTO加盟国間のラウンドで合意に至ることであるが、実態としては、WTOの交渉が暗礁に乗り上げて進まない状況のもと、経済的な相互発展を目指す連携が世界でいくつも生まれてきている。この状況は、第2次世界大戦前のブロック経済の状態になってきているといえ、運用を間違えると危険なことになるとも考えられる。特に心配だと思われるのは中国の動向で、同国が独自のブロック経済化を進めることがないか懸念される。TPP加盟国は中国にも参加を促していたが、中国側ではメリットを感じることができないようで、参加に至っていない。

 今後の円滑な世界経済の促進のためには、並存するいくつもの経済連携協定が、互いに対立することなく協調して運用されていくことが重要である。 

 

バンクーバービジネス懇話会 会長 中村諭吉氏

「紙・パルプについて」

 大昭和丸紅インターナショナルの取締役社長である中村氏は、紙パルプの需要と供給の現状と今後の見通しについて、ユーモアを混ぜてわかりやすく説明した。

 

 

紙市場の将来は安泰

 紙の起源は約5000年前の古代エジプトのパピルスまでさかのぼる。日本に紙の製造法が伝わったのは5世紀ごろで、本格的な製造が始まったのは7世紀ごろとされている。その当時は法律の文書または経典に使われていた。こうぞやみつまたという原料から和紙が作られ、浮世絵、屏風、障子、傘などに使われるようになっていく。明治時代になると洋紙(ようし)の製法が伝わり使用量が飛躍的に拡大した。

 紙の用途としては、新聞など情報を伝達するためのもの、ティッシュやトイレットペーパーなど家庭紙といわれるもの、段ボール紙など食品や衣料等の輸送に使われるものに分類される。世界で1年間約4億トンもの紙が使用されている。そのうち日本の年間消費量は約2700万トン。日本で年間消費される米が約700万トンなので、米よりも紙の消費量がずっと多いことが分る。国別にみていくと、中国が世界の紙消費量の4分の1を占めている。1人あたりの年間消費量を見ていくと、言うまでもなく先進国の方が発展途上国よりも多く、もっとも消費量の少ないアフリカのニジェールでは200グラムに対し、先進国では、日本も含め200キロ以上にもなる。昨今、電子媒体の発達もあって紙離れが進んでいるといわれており、文化圏ではその傾向が表れている。新聞の定期購読をしない、電子書籍を利用する人が増えており、この分野での紙の消費量は確実に減少していくだろう。一方で、人口の増加や途上国の生活レベルの向上により、段ボールや紙袋、家庭紙の消費拡大が予想される。紙市場全体として、2014〜2019年の5年間で6・9%の伸びが期待されている。

 

紙の製造と紙市場の今後

 紙の製造法を紹介すると、まず、紙の主原料である木材を細かくしてチップにする。次に、木の樹脂分を分解する薬品とチップを煮て、木質繊維を抽出する。それをシート状に形状を整えるとパルプという状態となる。このパルプを再び溶かし、薬品で繊維強度を持たせてシート状に加工したものが紙になる。製紙会社には木材を切り出すところから製紙まで行う一貫紙生産者と、パルプを購入して製紙する非一貫紙生産者とがある。大昭和丸紅インターナショナルでは、パルプを生産し後者のような製紙会社に提供している。

 今後、パルプの供給量が紙の需要量を下回るということはない見込みだ。環境保護の見地から、紙パルプの生産者は木を切り出し森を破壊するというイメージを持たれがちだが、実際はそういうことはない。主原料である木材は、植林材、間伐材(植林された木が過密にならないよう伐採された木材)、管理材(計画的に伐採場所を変え、伐採と自然再生を管理しながら森林を保全する)、及び製材の端材(廃棄部分の有効活用)を使用している。このようにして自然環境を維持しながら必要な木材の調達をし、半永久的に資源を再生し活用できる、環境にやさしい産業であるといえる。紙の将来は安泰といえるので、紙の無駄づかいはせず節約に努める一方で、積極的に紙を使ってほしい。

 大昭和丸紅インターナショナルは、BC州とアルバータ州に工場を持ち、年間100万トン近いパルプを生産している。中村氏はこぼれ話として、アルバータ州ピースリバーにある工場に駐在する日本人社員の夫人が、日本のテレビ番組「世界の村で発見!こんなところに日本人」で紹介されたことを話した。「当社の工場がある場所が『何もない極寒の僻地』と紹介されたのはちょっと…」と聴衆を笑わせたが、番組ではご夫婦の心温まる感動的な話が披露されていた。

 懇談会の締めくくりには、懇話会副会長の佐野亨氏(カナダ三井物産バンクーバー支店長)が挨拶した。カナダから日本へ輸出量の多い菜種油にちなんで、食用油業界で行われているという「油締め」で閉会した。

(取材 大島 多紀子)

 

 

TPP協定の交渉について説明した在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏

  

 

質疑応答も活発におこなわれた

  

 

企友会会長として4年間の任期を満了した松原昌輝さん(右)と、今年度会長となった澤田泰代さん

  

System.String[]

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。