1月24日、コースト・コールハーバー・ホテルで、岩間ジョージ氏の特別講演夕食会が開催された。岩間氏は、2009年7月、ノーザン・ブリティッシュ・コロンビア大学(UNBC)の学長に就任。カナダの大学で初の日本人学長となった。さまざまな大学や研究機関で幅広く活躍してきた岩間氏の講演を聞くため、あらゆる分野から112人の参加者が集まり、非常に活気ある講演会となった。  

 

 コースト・コールハーバー・ホテルで岩間ジョージ氏の特別講演夕食会が開催された

カナダの大学で初の日本人学長となったUNBC学長、岩間ジョージ氏


さまざまな大学や研究機関で幅広く活躍

パシフィック・ウェスタン・ブルーイング社長で、UNBCの支援者としても知られる小松和子氏から紹介を受け、壇上に上がった岩間氏は、自身の幅広い経験を振り返ることで講演を始めた。1970年代に生物学者としてスタートし、魚類のストレスに関する研究結果を養殖業に応用するなど、当時から岩間氏は、研究の成果を社会に還元することの重要性を認識していた。魚類の循環生理学を専門とする動物学者として、1987年から2000年までは、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)で活躍。その後はカナダ東部に移り、カナダ国立研究機構(NRC)、海洋生物科学研究所所長を務める。そこでも、ハリファックスをバイオテクノロジーの拠点とすることを目標とし、研究機関と企業の協力関係を築くことに力を入れていた。その後は、ノバスコシア州のアカディア大学で理学部長・副学長、オンタリオ州のカールトン大学で理学部長を務める。小規模で伝統のあるアカディア大学では特に、学部生への授業を楽しみ、教育に対する情熱をさらに強いものにしたという。BC州から始まったキャリアは、その後岩間氏をカナダ東部へ導いたが、やがて「まるで鮭が以前いた川に帰るように」、UNBCの学長としてBC州に帰って来た。

会場には112人の参加者が集まった

 

教育に対する情熱
岩間氏は、自身は非常に専門性の高い研究に従事しながらも、一般の人にも科学の知識とそのおもしろさを伝えたいと考えてきた。そんな岩間氏が奨励しているのが、「サイエンス・カフェ」。科学を学ぶ学生たちと共にカフェに行き、そこにいる人たちに、専門用語を使うことなく、わかりやすい言葉で科学を説明するそうだ。衣類の素材に使われるナノテクノロジーなど、私たちの日常生活に深く関わっていながら、一般の人がよく理解していないことを、少しずつでも多くの人に伝えていく。これが学生にとっても、非常にためになる経験なのだそうだ。

若者は「未来」であるだけでなく、「現在」だ。日本人はよく「親の言うことを聞きなさい」と言うが、岩間氏は「子供の言うことを聞きましょう」と呼びかけているそうだ。世界は急激に変化しており、過去の価値観がいつまでも通用するとは限らない。今、活躍の場を広げているウェブ・デザイナーやソーシャル・メディア・コーディネーターは、かつては存在すらしていなかった。同じようにこれからも、若者は、新しい職種、そして新しい世界を開拓していく。古い考えに固執することなく若者の考えに耳を傾け、広い視野を持つことが、研究やビジネスをする上でも大切だ。

国際的な視野を持ち、教育に対する情熱に溢れた岩間ジョージ氏の講演に、参加者は熱心に耳を傾けた

 

気候変動について
社会に貢献する研究やビジネスをするための鍵は、世界的傾向を学び、視野を広げること。特に深刻であり、重要な傾向の一つが、気候変動だ。過去何万年間にわたって一定の範囲内で上下していた二酸化炭素の大気中濃度は、過去50年間に急激に増加し、地球温暖化は進んでいる。そして、溶け続ける北極の氷は、温暖化が誇張ではないことを示している。過去半世紀で倍増した地球の人口は、今後はそこまで著しくは増えないと考えられるが、人口増加よりも大きな問題は、所得増加によるライフスタイルの急速な変化だ。ブラジル、ロシア、インド、中国、メキシコなどの国々で、中間所得層が急増しているため、自動車の数は増え、電化製品などを買い替える頻度は高まり、多くのものが廃棄されている。これらの活動が、地球温暖化に拍車をかけているのだ。

過去に戻り、すべてを元通りにすることはできない。それでも私たちにできることはたくさんある。若い世代を教育することは、最も重要なことの一つだ。クリーン・エネルギー分野などの教育に力を入れ、これからの社会が必要とする教育・研究を促進していくことは、大学の使命だ。

岩間氏を紹介するパシフィック・ウェスタン・ブルーイング社長、小松和子氏

 

ノーザン・ブリティッシュ・コロンビア大学(UNBC)の魅力
BC州プリンス・ジョージに16年前に設立されたUNBCは、現在生徒数約4300人。地域の中に大学が設立されることを望んだBC州北部の住人約1万6000人が一人5ドルずつ出し合い、請願書を提出したことで設立が実現したこともあり、非常にコミュニティーとのつながりが深い大学だ。環境や天然資源、再生可能エネルギー、コミュニティー開発、医療などの分野に力を入れている。二酸化炭素排出量削減のため、地域の廃木材を使ったバイオエネルギーを利用し、大学施設全体の暖房を行うという画期的な試みも進めているという。

また、UNBCには学習院大学との協力関係があり、多くの日本人留学生を受け入れている。今後はそれに加えて、東京とプリンス・ジョージという遠く離れた地にいる学生と教員も高画質のビデオ会議でつながり、レベルの高い授業やリサーチを行っていく予定だという。UNBCは、日本とカナダの絆を深める役割も果たしているのだ。

社会のニーズに応えることの重要性
私たちの日常生活の中には、さまざまな優先事項があり、時に目先のことにとらわれて、大きな視野を失ってしまう。しかし、最も重要なことは、長期的な社会のニーズに応えることだ。知識と富には深い結びつきがあり、その二つをつないでいるのが研究と革新だ。富を使って研究し、研究を通して得た知識が革新につながり、革新が新たな富をもたらす。そして、その富がさらなる研究を可能にする。限りなく続くこのサイクルの中心にあるのが、大学と研究機関なのだ。優秀、最高を目指すことは重要だが、同じように重要なのは、実際的な価値を持つこと、そしてコミュニティーの需要に応えていくことだ。

日本カナダ商工会議所会長・バンクーバー新報社社主の津田佐江子を紹介する司会のゲーリー・マトソン弁護士(左)

 

創造性を育てるために
質疑応答の中で参加者から、創造性を伸ばすための秘訣を尋ねられた岩間氏は、「楽しむこと」と笑顔で答えた。コツコツと毎日続ける研究が重要であることは間違いないが、リラックスして楽しんでいる時に、突然ひらめくアイデアもまた、非常に重要だ。政府や企業は、研究に投資することで得られる明確なリターンの提示を求めることが多いが、数字では表すことのできない「創造性」を育てるためのゆとりも大切だと岩間氏は語った。

カナダのグリーン・ユニバーシティーとして大きな可能性を秘めたUNBC。国際的な視野と、高い志を持つ岩間氏のリーダーシップのもと、UNBCは今後さらなる発展を遂げるだろう。

岩間氏に花束を贈呈する日加商工会議所会長・弊社社主の津田佐江子


(取材 船山祐衣)

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