2013年1月の着任から早3年。岡田誠司総領事に2015年の出来事と今年の抱負、日加・BC州との関係、またバンクーバーの日系コミュニティなどについて話を聞いた。

 

 

在バンクーバー日本国総領事 岡田誠司氏

  

■姉妹都市提携

 2015年は横浜市とバンクーバー市、釧路市とバーナビー市がそれぞれ姉妹都市50周年、盛岡市とビクトリア市が30周年と節目を迎えた年であり、それぞれ関連イベントが行われた。

 BC州とユーコン準州には日本との姉妹都市が34。ユーコン準州ではホワイトホースと牛久市(茨城県)が姉妹都市で、毎年交流をしている。

 岡田総領事は昨年、これらの姉妹都市の他にアルバータ州に近いキンバリーと、その北のスパーウッドを訪ね、市長を訪問してきた。人口約6千人のキンバリーは姉妹都市の群馬県安中市と同様鉱山の町だったが、2001年に鉱山を閉鎖。現在は太陽光発電に力を入れている。スパーウッドは人口約4千人で、姉妹都市の北海道の上砂川町とは石炭鉱山でつながれていた。スパーウッドは現在もカナダ有数の石炭の露天掘り鉱山で日本にも輸出しているが、上砂川町はすでに炭鉱を閉鎖した。

 「お互いに町興しが課題です。非常に小さな地方自治体ですので毎年の交流はできませんが、それでも姉妹都市ということを認識しており、日本から語学留学の学生も来ています。政治・経済といったものは国と国とのレベルですが、姉妹都市関係は国民同士、人と人との交流が重要であり、そういった草の根レベル、市民レベルでの関係を、当館では側面から積極的に支援していきたいと思います」。  

 

 

■グローバル化とは

 外務省が行うカナダと日本の高校生の交換プログラム『かけはしプロジェクト』やJETプログラムのサポートなど、若い人たちとの交流に力を入れている。

 「日本とカナダの相互理解、経済促進を進める中で、若い人たち、これからの世代を担う人たちがきちんと相互理解するということが非常に重要だと思います」。

 岡田総領事自身、高校生のときにまだ珍しかった留学の機会を得た。「それまで飛行機にも乗ったことがなかったのですが、サンフランシスコの高校に行きました。自分の回りの日本社会とは違う世界でカルチャーショックを受けましたが、それがきっかけで今の仕事を選ぶことになったわけです。若いときに外国に出て日本との違いを経験し体感するというのは、その人の将来の生き方や考え方に影響するものだと思います。短くてもそこから得るものはたくさんあると思いますので、若い人にはぜひ外国に出ていただきたいと申し上げています」と話す。

 バンクーバーでの講演会ほか、一時帰国中にも高校や大学で『グローバライゼーション』をテーマに講演している。

 「実際、多くの日本の学校がグローバル教育に力を入れていますが、具体的にどのような教育をすれば良いのか模索状態だと思います。一番いいのは若い人が積極的に外国へ行ってみる。そうすると違いがわかって、それを認識することがまさにグローバライゼーションだと思うのです」。  

 

■スポーツ・文化交流

 2015年はカナダでサッカーのFIFAワールドカップが開催されたり、今日本で話題のラグビーチームの来加、デイヴィスカップ開催、ソフトボールのチームの来加があった。

 「こういったスポーツ交流というのは、国の状況に関わらず純粋なものです。FIFAワールドカップでは日本チームは1カ月も滞在して転戦しますので、特に後半戦で疲れてくるとやはり日本食が恋しくなるようです。日本食の差し入れをして喜んでいただけました」。

 総領事館では音楽・芸術という国境のない世界で、日本から文化関係者を招聘したイベントを開催した。

 「バンクーバーの素晴らしいところはたくさん日系人の方がおられて、たとえば総領事館で何か企画しますと、地元の方が積極的に協力してくださるところです。そういう意味ではすばらしいところですね。また、日本からお呼びしたアーティストが地元の方とコラボレーションをしたり、ここでワークショップを開くと地元の方が参加してくださったりします。外務省を通したこういった国の行事がきっかけとなり、アーティストの方が自分で企画して、またこちらに来ていただくといった自発的な交流がつながっていき、地元の聴衆からのレスポンスに感激され、地元の方々との交流が築き上げられていくというのは、バンクーバーという土地柄だと思いますよ」。  

 

■日加・日BC州の経済関係

 総領事館によると在留邦人の数は、岡田総領事が着任した3年前の約2万9千人に比べ現在3万2千人ほどで、日本から来る人の数も進出企業の数も増えている。それだけ人の行き来が活発になっているということがわかる。

 「まず日本とBC州の経済関係を見ると、一番大きなものはエネルギー、天然ガスです。ちょうど3年前、クラーク首相の元でBC州の今後の経済の柱をどこに置くかということで、天然ガスというものが挙げられたわけです。一方、日本では2011年3月11日の東日本大震災の影響で、エネルギーの供給源の多様化が課題になっているわけです。大きく進展していかなければいけない関係の中で、それから3年経っていますが、なかなか現実につながっていません。これはいくつか要因があり、ひとつは天然ガスを含めたエネルギー価格のコストが安くなっている中で今は投資の時期なのかという判断と、カナダ・サイドにとってみると手続きの問題もあり、なかなか進まないといった状況があると思います」。

 「西の天然資源、東の製造業という2つが一緒になってカナダの経済全体を動かしているわけですが、ここ数年でみるとカナダはマイナス成長になっていますし、アメリカのマーケットにも大きく影響されます。そういう中で新しいトルドー政権がカナダの経済をどう動かしていくかということに注目していかなければならないと思います」。  

 

■日本の産物を促進

 日本経済は数字的には回復に向かっているが、地方経済や国内の農業が苦戦しているという。そのようななか、北海道の網走市が特産物の長芋を持ってバンクーバーに視察訪問した。

 「きっかけは茨城県でした。日本政府はお米農家を守るために輸入は一切認めないという高い関税政策を取ってきましたが、お米が採れる量よりも消費される量のほうが少なくなったのです。茨城県がお米を持ってバンクーバーに来られ、公邸で試食会を開いたことをきっかけにバンクーバーにお米の輸出が始まり、実際茨城のお米が日本食料品店でも売られていますし、お寿司屋さんでも使われています。そのような取り組みが外務省のホームページに載り、網走の方たちがいらしたのです。国内で難しければ海外に打って出てみよう。そういう発想そのものが、大きな発展だと思います。長芋の評判がいいので、近い将来輸出が始まるのではと思っています」。  

 

 

■2016年の抱負

 プライベートでは当地の音楽家と一緒に演奏したり、シーカヤックでキャンプに行ったり、ライフワークともいうべき畑作も充実した成果をあげたようだ。

 「サレーで借りた畑には月2回ほど行ってじゃがいも、大根、かぼちゃを収穫しました。きゅりやトマト、なすのような夏野菜は毎日収穫しないといけないので、公邸のベランダでプランター栽培しました。春菊、ほうれん草のような葉っぱものは、公邸の庭の一角で作りました。前任地のアフガニスタンやケニアでもいろいろな野菜を作りましたが、その土地ごとに気候も土の状況も違うし、そういう中で試行錯誤しながらやっていくことは大変ですが楽しいことです。

 我々の外交の仕事というのは、今すぐに成果が表れるというよりも、将来の日本に影響していくというものですが、畑は小さな種を撒くと、そこから芽が出てたくさんの実をつける訳ですが、その生命力に驚かざるを得ないわけです。私たちの仕事の中ではそのようなことはなかなか実感できない訳ですが、野菜は自分が撒いた種が結果として見えるということがやりがいがあるという感じですね」。  

 総領事の任期は3年前後といわれているなかで、気になる人事。

 「おおむね3年経っていますからいつ連絡がくるかわかりませんが、私の心境としては、過去3年間で培かってきた交流というものをさらに大切にして、日本とBC・ユーコン準州、そしてカナダとの関係を良くしていくということです。今までどおり同じスタンスで、当地のコミュニティの人たちとのつながりを、これからも大切にしていきたいと思っています」。  

(取材 ルイーズ 阿久沢)

 

釧路市・バーナビー市が姉妹都市50周年記念を迎え、釧路市から公式訪問団が来加。バーナビーマウンテン・パークが釧路パークと命名された

 

サレーの畑で大根を収穫する岡田誠司総領事と寧子夫人(写真提供 岡田誠司総領事)

 

茨城県立下館第一高校の生徒と歓談する岡田誠司総領事

 

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