〜結婚50周年を迎えて〜

自らの広島での被爆体験を綴った「忘れないでヒロシマ」とその英語版「Hiroshima : Memoirs of a Survivor」を出版したランメル幸さん。 夫のチャールズ(チャック)さんと、スコーミッシュで行われた英語版の出版記念でも息の合った朗読を披露。結婚50周年を迎えた今も、変わらず仲の良いご夫妻に話を聞いた。

 

 

チャールズ・ランメルさん、幸さんご夫妻(写真提供 ランメル幸さん)

  

— 去年(2015年)が、ご結婚50周年ということですね。何かお祝いをしましたか?

幸さん(以下、幸) 金婚式ということで、5月から6月にかけて1カ月間、ドイツとスペインに行ってきました。

チャックさん(以下、チャック) スペインが長かったですね。地中海に近くて暖かいし、天気も良かったですね。

 そこからモロッコとジブラルタルにレンタカーと船で行ってきました。言葉も分からなくて大変でしたが、楽しかったです。

チャック ドイツでは主にミュンヘン、それとバーデンバーデンに行きました。有名な温泉地ですね。そこで17も温泉がある施設に行きました。みんなアダムとイブの姿で入って、タオルで隠すこともないんです。日本では手ぬぐいで隠しながら…ですが、あれは日本独特の手ぬぐい文化ですよね。

 

— ドイツの方も意外と開放的ですね(笑)。他にも思い出は?

 ドイツで一番大きいという2千人入れるビアホールに行ったんですけど、ウェイトレスが1リットル入ったジョッキを3つも抱えて運んでくるのにびっくりしました。ビールを注文すると、1リットルより小さいサイズがないんです。

チャック 最高で9つ持っている人もいましたよ。

 それは気がつかなかった。ドイツの人は本当によくビールを飲みますよね。

 

— 結婚生活が長く続く秘訣は?

チャック うーん、なんだろう?沈黙?

 『2人の会話は英語ですか、日本語ですか?』と聞かれると、『沈黙語です』って答えるんです(笑)。それはともかく、やはり、相手の領域に踏み込まないで、距離を持って相手の文化を尊重し、違いを認めながら生活していくことでしょうか。うちの場合、夫が親日家で日本の文化に興味を持っていたことは大きいでしょうね。結婚生活は日本でスタートしましたしね。長屋みたいなところに住んで、周りも気さくな人たちで楽しかったです。

チャック 10年以上日本に住みましたね。こっちに戻ってきたのは失敗だったかな(笑)

 チャックさんは、19歳の時に東京大学に留学。滞在中は北海道礼文島や、東北地方、九州の離島までさまざまなところへ旅行した。いったんカナダに戻った後、再度日本を訪れ、福島県在住中に「温泉文化経済研究会」を発足、会長として活躍した他、東北のテレビ局で露天風呂や秘湯などを巡る番組にも出演した温泉愛好家でもある。

 

— チャックさんは結婚してからも1人で旅行に行ってましたか?

 もう私なんかついていけないところに行っちゃうんですよ。

チャック 幸は、あまり地理のこととか分らないしね。方向オンチで途中で迷子になることもあるから、行ってもあまり楽しくないかもね。

 

— チャックさんが1人で出かけるのは何とも思いませんでした?

 行動範囲が広いからついていくのが大変なんですよ。

チャック お互いにフレキシブルにしているんです。2〜3年前に日本に行ったとき、幸は(故郷の)広島へ行って、私は東北へ。途中、軽井沢で合流しました。

 うちはいつもベタベタしてないですね。程よい距離感を持つことも(結婚生活が)うまくいく秘訣の1つかもしれませんね。

 

— チャックさんは日本では外国人もいないところに行っていたので、そこの人たちにびっくりされたのではないですか?

チャック そうですね。一度、交番の中に温泉があると聞いて行ってみたくなり、突然訪れて「入ってみてもよろしいでしょうか?」と。交番の人はびっくりしてましたが入らせてくれて、警官の帽子を被って温泉につかったりしました。

 

— 日本での生活のあと、カナダに来たんですね。

チャック トロントが15年くらい、バンクーバーで20年くらいでしょうか。トロントではカナダ人と日本人の仲間と日加協会を立ち上げました。私は何年か会長を務めました。

 日本企業の駐在員の方たちなどと、「寅さん研究会」というものも自宅で開いてましたね。

 

— ところで、バーナビー市にチャールズ・ランメル・パークという公園があるんですよ。

チャック あの公園は私の祖父の名前を取ってつけられたんですよ。公園を作るときに土地を寄付したのです。私はその祖父の名前をもらっているんです。そこのコミュニティーセンターでバンクーバー剣道クラブが練習しているんですが、この間、他のクラブとのトーナメントがあり、その時に祖父についてお話しました。

 あの公園のすぐ側に住みたいなと思ったこともありましたけど、ご縁がなかったですね(笑)

 チャールズ・ランメル・パークは、ノースバーナビーにある25エーカーもの広さの公園で、野球場、プレイグラウンド、テニスコート、コミュニティセンターなどがある。付近は高級住宅街という閑静な環境に位置している。実は、記者自身の子供たちが、サッカーや野球の練習のためによく訪れた場所で、「偶然同じ名前なのかな」と思っていたが、チャールズさんが関係者だったことが今回分かってとても驚いた。

 

— お正月はどのように過ごしますか?

チャック 私はとにかく静かに過ごしたい(笑)。家族や親せきが多いので、集まるとにぎやかすぎて、話がゆっくりできないんですよ。

 今は娘たちも遠くにいるので、昔ほどきちんとはやらなくなりました。それでもやはり新年を迎えるにあたって、おせちやお雑煮を作り、お神酒をいただく、ということはしてます。こちらは、クリスマスの飾りを新年までずっと飾ってますよね。でもうちは、クリスマスが終わると全部取っちゃって、お正月の飾りに変えるんです。

 

— 2016年、または今後の抱負や願いは?

チャック まずは健康であることですね。カナダやアメリカなど身近なところで大きな事件がないといいと思います。さらに、世界が平和であることを願いますね。

 年を取るにしたがって、肉体とか容色が衰えてきてしまうのは仕方がないですけれど、心は衰えることなく、もっと清くなっていけたらな、と思うんです。毎日の生活をそういう気持ちで過ごしていきたいです。

 

— 広島での被爆体験などを伝えていく活動も続けていきますか?

 これからも図書館や学校で、語り部として被爆体験を語っていきたいと思っています。

チャック 私は福島にも知り合いがたくさんいて、(2011年3月の)東日本大震災のあとにも福島に行って様子を見てきましたから、その体験もお話できると思います。

 核のない、戦争のない世界にするにはどうすればいいか、ひとりひとりが真剣に考えてほしいです。私自身が広島で被爆しており、被爆者としての証を若い世代に語ることが、残された人生の使命と思うようになりました。

チャック そのためには健康で元気でいないとね!

 茶道に興味を持つ人たちに、茶道の紹介をしていきたいと考えている幸さん。一服のお茶を心をこめて差し上げたい、そして、シンプルで静なる日本の美、人への思いやりなど、茶道を通しても、平和を伝えていきたいと思っているそうだ。また、以前ほどはあちこちへ出かけなくなりましたよ、というチャックさんだが、近くの山に犬を連れての散歩は日常的にこなしているとのこと。お互いを思いやる様子が随所に見て取れたお二人。これからも仲の良い素敵なご夫婦でいてほしい、と思った。

(取材 大島多紀子)

 

バーナビーにあるチャールズ・ランメル・パークは付近住民の憩いの場所

 

交番の中にあるという珍しい温泉に入ったチャックさん(写真提供 チャールズ・ランメルさん)

 

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