ゴードン門田実行委員長に聞く
〜多民族共存共栄を根底に解決策を〜
バーナビー市セントラルパークの慰安婦像建立問題について、長年にわたり日系人の地位の向上に努めてきたゴードン門田氏に話を聞いた。同氏は3月31日に発足した「期成同盟会」の実行委員長も務めている。期成同盟会はバーナビー市への慰安婦像建立に反対する日系団体のプラットフォームだ。
ゴードン門田氏
慰安婦像建立問題について、まずお聞かせください。
今回の経緯について、私は次のように理解しています。
バーナビー市と姉妹都市提携を結んでいる韓国の京畿道華城(ファソン)市の市長らが、1月にバーナビー市を訪れた際、バーナビー市長に女性の人権侵害を忘れないための像をバーナビーのセントラルパークに建立したい、また、そのための資金準備もあるとの提案をしました。
提案を受けた際、バーナビー市長は建立を検討すると示唆しただけで、同提案に対して承諾も否定もしていません。しかし、華城市の市長が韓国に帰国後、韓国のメディアが「セントラルパークに慰安婦像が建立されることが、来る4月末か5月に承認される」と発表したと聞いています。
この韓国での報道を日本のメディアが拾って、慰安婦問題について活動している日本のグループが、ウェブサイトやメールでカナダに住む日本人に署名運動をする活発な呼びかけがあったということで、建立反対の署名運動は日本から来ているようです。
私は当地の日系3世や4世の人たちともつながりがありますが、日系社会はそれなりに多様な背景を有する日系の集まりであり、中には100パーセント日系人の血を引いていない人もどんどん増えています。したがって私は日系社会は以前のように世代で分けるよりも、または国籍で分けるよりも、日本語で生活している日系、英語で生活している日系、さらには両語で日常生活している日系に分けられると思います。現在のところ、慰安婦像建立に関する署名運動に参加しているのは、『カナダに住む日本語で生活している日系』が中心です。英語で生活している日系の多くは、このようなことが問題になっていることも知りません。
3月初旬からバーナビー市での建立について反対運動が起こっていますが、カナダのメディアではほとんど取り上げられていませんから、日系も一般のイングリッシュ・スピーキングの皆さんもご存知ない方が多いでしょうね。
慰安婦像建立問題を門田さんはどうお考えになりますか? 個人的な意見をお聞かせください。
慰安婦問題については日韓両国内で、さまざまな意見を持つ人がいます。その論議は長年続いているものですし、今回は慰安婦問題についてはまずは横において、私たちが関心をもっていることはバーナビー市のセントラルパークに慰安婦像建立案があってそれがコミュニティ全体にどのような影響を与えるかについて考えたいと思います。すなわち、慰安婦問題と慰安婦像建立は別問題ととらえています。
バーナビー市は日系人から連絡があってはじめて、慰安婦像建立が大きな問題をはらんでいると知ったと解釈しています。韓国メディアが、華城市の提案をバーナビー市が受け入れたというような報道をしたことで、バーナビー市長も困惑しているのではないでしょうか。
また、慰安婦像をバーナビー市に建てるということには疑問を感じます。たとえば、第二次世界大戦当時、日系人を収容したヘイスティングパークには、その歴史を伝える碑がその場所にあります。慰安婦像についても、その不当行為があったとされる場所に建てるべきではないでしょうか。
一方、当地において日系社会と韓国コミュニティの対立は避けたいと考えています。私たちが感情的になることはよくないのではないでしょうか。バーナビーには日系センターもありますが、日系センターも同様の考えだと思います。
組織として反対運動を展開する「期成同盟会」発足
一部の日系コミュニティで、「慰安婦像設置反対署名」のメールがまわっています。
ネット署名のサイトに「日本人の名誉を守るカナダ邦人の会」とあったのが、気になりました。カナダは多民族国家です。多民族社会において、「日本人」「邦人」と特定することで日本人を区別することになり、場合によっては日系カナダ人もそこに含まれ、かつ対立に巻き込まれ、多民族多文化共存のカナダという国の精神に反することになると思います。
また、現時点で集まった署名の数を見ると、同じ人が何度もやっているのではないか、またカナダ以外から署名をしている人もいるのではないかと思えます。バーナビー市側に『当地で暮らす人たち』が慰安婦像建立に反対、あるいは代案を請願するため、地元市民で「期成同盟会」を発足させました。実行委員長をさせていただく私と、委員のバーナビー市在住の久保克己さん、その他の有志で立ち上げたもので、まず慰安婦像建立の反対あるいは代案を請願する地元の方々の署名を集めていきます。
これまで建立反対の声はあがっていますが、組織だったものではありません。一口で日系といっても、数は少なくなりましたが、二世のグループがある、三世、四世もいる……。三世や四世は半数以上が日系以外と結婚しています。新移民もいます。こうした、背景の異なる日系コミュニティの中から同じ目的に賛同する方々の署名をいただく運動をしていく必要があると考えました。
署名用紙には、英語と日本語で請願の内容が書かれているので、賛同する人はフルネームと住所(市)、日付を記入、署名をお願いします。
請願書には代案の検討を希望するとありますね。
正面衝突しても良いことはありません。
そして、正面衝突は相談、話し合いがないことで起こります。私は慰安婦像の建立を求める韓国系のグループととにかく話がしたいです。韓国側が応じてくれるかは分かりませんが、不当行為ががあった場所ではなく、あえてカナダのバーナビー市になぜ建てたいのか、その理由を聞いてみたいです。
話をすることで、両者が受け入れることができるような、良い代案がでてくることを期待しています。非公式で良いので先入観なしに韓国コミュニティの人と会って、解決法を探りたいと考えています。
妥協はすなわち敗北であるという考えをもつと、お互い譲らず、問題がなかなか解決しないということになりがちです。昨年の教員のストも、政府と教員側がどちらも譲らず、長引いてどちらも負けました。そういうことは避けたいと思っています。このままだと平行線で折り合いがつきません。ですから、請願書で、ただの反対ではなく、代案を考えませんかと提案しています。
韓国人コミュニティは近年、急速に拡大しました。アジアからカナダに来ると、まず玄関口のバンクーバーに住み着き、韓国系はキングズウェイ沿いに動いていく傾向にあります。日系センター周辺も韓国系の店が多くなっています。また、ローヒードハイウェイとノースロードが交差するあたりも、韓国系スーパーやレストランが立ち並んでいます。あの交差点のローヒード側はバーナビー市です。バーナビー市における韓国の存在が大きいことを考えると、市議会が建立に賛成する可能性も考えられます。しかし本件の解決は政治的な解決にしてはいけません。あくまでリーズニングと多民族共存共栄を根底に解決策を求めるべきです。
最後に日系コミュニティにアドバイスをお願いします。
視野を広げて、オープンマインド、そしてポジティブに取り組んでいきましょう。相手が悪いという対立した見方ではなく、どうやって解決したらいいか考えていきたいと思います。
ゴードン門田氏
ゴードン門田さん
全カナダ日系人協会初代会長として、戦時中の日系人への不当な扱いに対する補償を求めるリドレス運動で活躍したほか、1977〜78年の日系人移民百年祭の委員長、グレーター・バンクーバー日系カナダ市民協会会長、ナショナル日系ヘリテージセンター協会(現日系文化センター・日系博物館)理事長などを歴任。日系人の福祉向上に努めてきた。過去において旅行業と日加ビジネスコンサルタントの経歴を有する。2005年には旭日小綬章を受章している。
(取材 西川桂子)