震災がれき清掃活動報告会
‐東日本大震災に伴う洋上漂流物に関するシンポジウム‐
東日本大震災から4年。もうほとんどニュースにならなくなったが、太平洋の両岸では、今も震災起因漂着物‐震災がれき‐の清掃活動を続けている人々がいる。昨年10月「東日本大震災に伴う洋上漂流物に関するシンポジウム」が、2日間の日程で行われ、10月1日には、バンクーバー水族館で、同水族館とJEAN(Japan Environmental Action Network)の共催による現状報告会が開催された。参加したのは、日本と北米西海岸州の13団体・機関。日本から6人、カナダ・ブリティッシュコロンビア州から4人、アメリカのハワイ州、アラスカ州、ワシントン州、オレゴン州から5人が参加し、広範囲にわたる清掃活動の現状が報告された。一般公開されたこの日の報告会では、質問コーナーになると一般聴衆者からの質問も多く、関心の高さがうかがえた。
バンクーバー水族館での報告会の様子
震災がれき清掃の意義
「震災がれき清掃」と一言で言っても、ただ海岸線のがれきを拾って集めるというだけではない。清掃と同時に、がれきの分別、データ収集、生態系への影響、そして、可能な限り返却できるがれきは持ち主に返却するという作業まで伴う。
今回、清掃活動の現状を報告した団体のほとんどは、震災のがれきが北米に漂着する何十年も前から、海洋ゴミの清掃に関わってきた団体。東日本大震災が起こり、震災に起因する漂着物の清掃・分別作業が新たに加わった。
北米で清掃活動に関わっている代表者の報告の要点は、ほぼ同じだった。一つは、がれきの大きさと量に、津波の影響のすごさを改めて感じ、日本の被害者に改めて思いを馳せるきっかけになったこと。二つ目は、海洋ゴミ問題への関心を示す人が増え、人々に問題提起や現状を訴えるいい機会になっていること。三つ目は、清掃・調査活動はこれからも継続して行っていくこと。この3点だった。そして「我々は海でつながっていることを改めて実感した」と異口同音に語った。
震災起因漂着物は、北米関係者では、日本からの「震災がれき」という厄介ものの清掃が加わったとは捉えられておらず、震災は大きな悲劇を生んだものの、自然災害の恐ろしさを確認するとともに、海洋ゴミという普遍の問題に焦点が当たり、今後につながるきっかけを与えてくれたと前向きに捉えられていた。
日本から参加した「海をつくる会」の坂本昭夫さん。スキューバダイビング愛好者の集まりで、趣味と実益を兼ね、海や湖の清掃活動を行っている団体。現在は「海草『アマモ』場復活10年プロジェクト」などを行い、東北の「復幸」を支援している
浮かび上がる問題点
集められたがれきの量は、想像をはるかに超える。
バンクーバー水族館が、この日報告しただけでも、バンクーバー島北部で2014年7月に1 ・5トン、8月に2・5トン、9月に3 ・5トン。ユクルーレット(バンクーバー島西側中部、ビクトリアの北約300キロ)で10トン。最も多かったのはアラスカで、30日間360マイルで68トンや、ある地域では3マイルで96トンという数字が報告された。
それでもまだまだ清掃しきれていないという。これらの数字は、震災がれきだけの量ではない。海洋ゴミと合わせたものだ。今回報告された北米西海岸州では、人里離れた遠隔地が多く、陸路からアクセスできない場所もかなり多い。そのため、そこまでたどり着くのも困難だが、集めたがれきを運び出すにはそれ以上の運搬手段が必要で、ヘリコプターで運び出している写真も紹介された。
アラスカから報告した「アラスカ湾の番人」代表クリストファー・パリスターさんは、「まだまだ清掃できない海岸が何十キロも続いている。流れ着いたがれきやゴミは、すぐに回収しないと、今度はそれらが粉々になって石や砂に混じり、それらを清掃するにはさらに時間も費用も莫大にかかることになる」と語った。粉々に砕けた発泡スチロールが海岸に打ち寄せ、小石や砂の間に入り込んでいる写真が紹介された。
海洋ゴミの量は2012年から急増し、この頃から震災がれきが漂着し始めたと報告された。2012年は比較的軽いプラスチックなどが漂着、2013年に入ると木材や建築材などがみられるようになったという。
ユクルーレットでは生きた生物が付いたままの漂着物も発見された。北米大陸に生息しない種類なら生態系へ影響する可能性もある。震災がれきには、こうした調査も必要になるとも報告された。
2013年5月にオープンした「ゆりあげメイプル館」を紹介する櫻井さん
JLPからの報告
震災に起因する漂着物は、2014年にも多く漂着している。その一つが、Japan Love Project(JLP)が3月にユクルーレットで行った清掃活動でみつかった漁業用パレットだった。
JLPは2011年3月12日、震災発生の翌日にバンクーバーの若者が中心となって立ち上げた団体。バンクーバーでの募金活動などを通して、日本の被災者を支援することを目的とした。その後、清掃活動への参加を通して貢献することになり、2013年3月と5月、2014年3月の3回実施した。
2014年3月の清掃で見つかったパレットは奇跡的に持ち主が見つかり、同年8月に本人に送り届けられた。その役割を果たしたのが、この日にJLP代表として報告を行った横田花子さん。清掃活動は、JLP活動に支援してもらった感謝の気持ちを行動に移したもの。しかし、この清掃活動を通して得たものの方が大きかったと語った。3月10、11日の2日間で集めたゴミやがれきは約6トン。それらはすべてを処分するのではなく、リサイクル、リユーズできるものと処分するものに分別する。そうした過程も勉強になったし、震災のゴミ問題が海洋環境にどれほどの影響を与えるかということにも気づかされた。
そして何より人々の協力あってこそのプロジェクト。「多くの人たちの協力がなければ実現しなかった。ほんとに感謝しています」と語った。
JLP横田花子さん。2014年8月、日本にパレットを持って行った時、日本のメディアの関心の薄さに驚いたと報告会の合間のインタビューで語った
今後に生かすために
シンポジウムを共催したJEANは、1991年に設立された海や川の環境保全に取り組む団体。ICC(国際海岸クリーンアップ)などとも連携し、活動を行っている。今回のシンポジウムに参加したJEAN代表理事、金子博さんは、今後の課題として正確な情報を提供することをあげた。がれきの問題は、早い段階から予測できたが、正確な情報が北米側に伝わっていなかったと反省点をあげた。今回のネットワークを通して、何ができるのかを考えていくと語った。
11月には宮城県名取市閖上「ゆりあげメイプル館」で同様のシンポジウムが開催された。ゆりあげメイプル館はブリティッシュコロンビア州からの木材提供により建てられた東北とBC州の絆を示す復興のシンボル。ゆりあげ港朝市協同組合理事長の櫻井広之さんは「支援してくれたカナダのみなさんに感謝の気持ちを伝えにきた」とバンクーバーのシンポジウムで報告した。そのメイプル館での報告会に出席したJLPの横田さんは、北米の震災起因漂着物の現状があまり知られていないようだったと語った。
お互いの現状を報告し伝えることが、震災がれきの現状だけではなく、海洋ゴミ問題を考えるためにも必要だとの認識は強かった。バンクーバー水族館は今月、2014年の清掃活動内容をウェブサイトにて報告した。清掃活動には、たくさんのボランティアも参加している。決して無関心というわけではない。
アラスカから報告されたように、まだ清掃ができていない場所が多くあり、そこに生物が漂着していれば、知らないまま生態系が変化していくこともあり得る。こうした問題を伝える手段が必要だということも明らかになった。
一方で、連帯感が強まったとの声もあった。漂着物アーティストのピーター・クラークソンさんは「震災による漂着物には、それぞれに物語があり、我々にとっては日本との絆を深める新たなきっかけにもなった」と語った。その絆がこれからの活動への力になるに違いない。
宮城県名取市閖上「ゆりあげメイプル館」。11月15日に一般公開の「名取シンポジウム」が開催された(写真提供 JLP横田花子さん)
講演者一覧
小島 あずさ
一般社団法人 JEAN 事務局長
三枝 隼
環境省 水・大気環境局水環境課 海洋環境室
櫻井 広之
ゆりあげ港朝市協同組合理事長
坂本 昭夫
海をつくる会
横田 花子
Japan Love Project
ブリティッシュコロンビア州
ピーター・クラークソン
トフィーノ・漂着物アーティスト
ケイト・ルスーフ
バンクーバー水族館
震災起因洋上漂流物(津波がれき)担当
カーラ・ロビンソン
ユクルーレット・環境緊急対応マネージャー
トレント・モラエス
ハイダグアイ・ハイダグアイ
津波がれき委員会
米国アラスカ州
ケイティ・ガベナス
アラスカ沿岸研究センター
クリストファー・パリスター
アラスカ湾の番人代表
ワシントン州
ジョン・シュミット
ワシントン コースト
セイバーズ・コーディネーター
オレゴン州
ジョイ・アービー
SOLVE・プログラム
コーディネーターICCコーディネーター
ハワイ州
ミーガン・ラムソン
ハワイ野生生物保護基金
(ハワイ島、マウイ島)
藤枝 繁
鹿児島大学水産学部教授
金子 博
一般社団法人JEAN 代表理事
(講演順・敬称略)
(取材 笹川守)