1月29日にバンクーバー公演
パフォーマー内田依利さん
新潟県佐渡島を拠点に活躍する太鼓芸能集団『鼓童』が1月29日、クイーン・エリザベス劇場で『鼓童ワン・アース・ツアー〜神秘』を公演する。これに先がけ、カナダ留学の経験を持つメンバーの内田依利(えり)さんに話を聞いた。
内田依利さん(写真提供 鼓童)
坂東玉三郎演出『神秘』
今回上演する『鼓童ワン・アース・ツアー〜神秘』は、芸術監督・坂東玉三郎演出による第2作めで、民族芸能が持つ神聖さや祈りの中に潜む『神秘』を舞台上に再現し、闇と光の交差する幻想的な空間を表現した作品。 歌舞伎役者である坂東氏の演出について鼓童パフォーマーの内田依利さんは「これを舞台でやるんですか?みたいなことや、急に『叫んでみて』とかあり、そのおもしろいアイディアが形になっていって、最終的には、ああこういうことだったのか、とわかったことがとても刺激的でした」と話す。
『神秘』芸術監督・坂東玉三郎氏(撮影 岡本隆史)
たくさんの女性団員が活躍するのも『神秘』の特徴だ。歌舞伎との直接の関わりはないが、細かく決められている演出の中で、坂東氏が持つ「美しい」というものの感性を自分たちの体に入れると、自分たちが思っていなかった世界が広がっていくのだという。 坂東氏は(作品について)「見終わったときに、何か清められたような気持ちをお持ちいただけたら幸いでございます」とコメントしている。
太鼓によるつながり
中学卒業後にカナダ留学が決まっていた内田さんは、何か日本らしいことを身につけておこうと地元愛知県内の太鼓グループに入った。 「太鼓によって人がつながっていくことがすごく楽しくて、北米でも太鼓は人気と聞いていたので期待していました」
当時ケローナに太鼓グループはなかったものの、通っていた公立ハイスクールの先生から半年後にある男性を紹介された。
「ワイン樽に皮を張って太鼓を作っていた人です。太鼓を始めたいのだけどやり方がわからないと言うので、何人かで集まって『やまびこ太鼓』を結成しました。「英語は嫌いだったし、しゃべれませんでしたけど(笑)、ケローナにいた3年間、このグループで太鼓を叩いていました」。
そのころバンクーバーで『鼓童』の公演を見た内田さんは「すごくかっこいい。日本人がここまでできるものなのか」と感動し、帰国後いくつかの太鼓グループを見学して回り、入団準備を始めた。
鼓童 ワン・アース・ツアー〜神秘より『chit chat』(右から2番目が内田依利さん)(撮影 岡本隆史)
佐渡での合宿生活
『鼓童』の本拠地は新潟県佐渡島。ます試験を受けて研修所に入所すると、2年間衣食住をともにしながらトレーニングを受ける。この間2度の選考を経て準メンバーになると鼓童の舞台に立つことができて、さらに1年後に選考を経てメンバーになれるという仕組みだ。
朝は4時50分に起床。体操、掃除、ランニングを終えてから朝食。夕方まで団体稽古、米や野菜を作る農作業をし、夜も個人稽古がある。禁酒・禁煙・男女のけじめ(交際禁止)の規則があるだけでなく、自ら携帯電話を持たないなど、それぞれが稽古に集中するために自分に厳しくするのも特徴だ。
内田さんは2007年に研修所に入所、後2010年にメンバーになり、現在は太鼓と踊りのほかに、学校公演での演出や作曲も手がけている。 「(太鼓には)体力は大事ですが、むしろどれだけオープンで、自分で考える力があるか。体力と根性と気持ち。それさえあれば技術はついてくると思います」。
鼓童 ワン・アース・ツアー〜神秘より『霹靂』(撮影 岡本隆史)
鼓童 ワン・アース・ツアー〜神秘より『霹靂』(撮影 岡本隆史)
海外では木が痩せる
公演に向けてはまず、太鼓ほかの機材を佐渡島から船に乗せて送ることから始まる。 「太鼓は日本が一番いい状態で、いい音が出ます。海外では皮が乾燥します。乾燥で木が少し痩せるので湿らせるまではしませんが、入念にカバーをかけたり、革を締める強さを調節したりします。最終的には打ち方やバチで調整します」
今回の北米公演では、ワシントン州ベリングハムの次に行うバンクーバーがカナダツアーの皮切りとなる。鼓童と北米の太鼓グループをつなぐ非営利団体『Kodo Arts Sphere America』による佐渡でのワークショップを通して鼓童村を訪ねたことのある太鼓奏者や旧友が見に来てくれるなど、北米在住経験のある内田さんにとってバンクーバーは楽しみな公演地でもある。
「海外のお客さまは反応が大きいですね。北米では特に感情を表したり、立ち上がったりしてくださいます。今回ユーモアのあるシーンも多く、日本独特の「間」によって全体の雰囲気が変わることもあり、それが北米のお客さまにどう受け入れられるか、新鮮な気持ちがします」。
鼓童 ワン・アース・ツアー〜神秘より『Color』(撮影 岡本隆史)
太鼓で音を奏でるような
「玉三郎さんが入ってから、ピアニッシモのような小さな音のバリエーションが広がったと思います。今までの『鼓童』というのは、ものすごく大きくて芯のある一発の音を研究して大事にしていました。それは太鼓の最大の魅力だと思いますが、それと反対の一番小さな太鼓の音の幅が広がったわけです」。
音を耳で楽しむものが多かった『鼓童』に、太鼓で音を奏でるというようにメロディーのある曲が増えた。さらに幕が開いてから降りるまで、まるでひとつの物語を見たかのような視覚的要素も加わったことが『神秘』の魅力であるようだ。
『鼓童』が坂東玉三郎演出作品をバンクーバーで上演するのは初めて。「お客さまが持っていた『鼓童』に対する今までの固定概念をはずして、新しい発見をして楽しんでいただけたらいいなと思います」。
太鼓芸能集団『鼓童』
太鼓を中心とした伝統的な音楽芸能に無限の可能性を見いだし、現代への再創造を試みる集団。新潟県佐渡島を拠点とし、前身の「佐渡の國 鬼太鼓座」としての約10年間の活動を経て、1981年ベルリン芸術祭でデビュー、以来これまでに47カ国で5,500回を超える公演を行っている。バンクーバーでの公演は、2011年以来で7回目となる。
鼓童 ワン・アース・ツアー〜神秘
1月29日(木)
クイーン・エリザベス劇場
7時会場、8時開演
チケット:$69, $59, $49
http://northerntickets.com/events/kodo-drummers-mystery/
電話(855)551-9747
内田依利(うちだ・えり)プロフィール
1986年生まれ、愛知県一宮市出身。
2007年研修所入所、2010年よりメンバーとして活動。主に太鼓、踊りを担当。
「Kaguyahime 輝夜姫」「アマテラス」や「交流学校公演」など国内外で様々な舞台を経験。芯が強く、先輩からも頼りにされる存在。中性的な雰囲気で、どんな演目にも幅広く参加。2013年「晴れわたる」「CHIT CHAT」など作曲に取り組み、演劇的な表現にも挑戦。2014年「鉱山祭」「交流学校公演」で演出を務める。
(取材 ルイーズ阿久沢)