カナダ・ウェストコースト初の『キャラバン・メイト養成研修』

〜日本の厚生労働省が推進する「認知症を知り地域をつくる10カ年:認知症キャラバン」〜

 

講師 ファミリー・ドクター 田中朝絵さん

   カナダJAMSNET代表 傳法清さん

 

日本の厚生労働省が推進する「認知症キャラバン」の事業が、カナダ・バンクーバーで展開されることになった。日本及び、ニューヨーク・トロント・ドイツの日系コミュニティで、すでに486万人(うちキャラバン・メイトは9万6060人、2014年2月20日現在)を超える人が、認知症サポーターとして活躍しており、認知症の方を支え、地域の絆づくりに寄与している。世界保健機構(WHO)や国際アルツハイマー協会などでも高い評価を受けている。その「キャラバン・メイト養成研修」をカナダJAMSNET(カナダ邦人医療支援ネットワーク)代表・傳法(でんぽう)清さんと、ファミリー・ドクターの田中朝絵さんが講師を務め、9月21日、在バンクーバー日本国総領事館9階で開催。6時間を越える研修を終え、カナダ・ウエストコースト地域で第一期生のキャラバン・メイトが誕生した。その研修内容の要約をご紹介。

 

 

熱気に包まれた研修会場

  

 

<第1章> 認知症サポーターに伝えたいこと・・・

ファミリー・ドクター 田中朝絵さん

 

ファミリードクターの田中朝絵さん

 

●認知症とは・・・  

脳の細胞が死んでしまったり、働きが悪くなったために、さまざまな障害が起こり、生活するうえで支障が出る症状。全認知症の50〜60%、85歳以上の20%の人に見られる頻度の高い疾患。  しかし、発見が早ければ、予防や進行を遅らせたりすることができる。アルツハイマー病の前駆状態を意味する軽度認知障害(M.C.I.)は、新たな治療法の開発で、進行を遅らせたり、止めたりできる。認知症も早期受診、早期診断、早期治療が非常に重要だ。  ところで、「老化によるモノ忘れ」と「認知症によるモノ忘れ」が混同されがちだが、次のような違いがある。

 

 

 

 

●認知症の中核症状

1 記憶障害…正常な老化の場合、覚えるのに時間はかかるが、認知症の場合、覚えられない。進行すると、覚えていることを忘れる。

2 見当障害…時間や季節感に感覚がうすれる。進行すると、迷子になったり、遠くに歩いて行こうとする。自分の年齢や人の生死に関する記憶がなくなり、人間関係がわからなくなる。

3 理解・判断力の障害…考えるスピードが遅くなる。二つ以上のことが重なるとうまく処理できなくなる。些細な変化、いつもと違う出来事で混乱をきたしやすくなる。観念的な事柄と現実的、具体的な事柄が結びつかなくなる。

4 実行機能障害…計画を立てたり、予想外の変化にも柔軟に対応できないなど、生活に障害がでる。

 

●行動障害への理解(「徘徊」の原因から対応を考えてみる)

1 暗くなって帰り路、道に迷って夜遅く疲れ果てた姿で自宅に戻った→場所の見当識障害。明るいうちに帰れるようにうながす。

2 行っても帰り路がわからない→送り迎えのボランティアが必要。

3 行方不明になり、翌日思いがけないところで発見された→薬剤の使用を考慮。

4 人や物を突き飛ばして歩く→介護者の支援が必要。

 

●4大認知症

1 アルツハイマー病 60%…アミロイドという蛋白、さらにタウという蛋白が神経細胞の中に蓄積するようになり、神経細胞をこわしていき、脳の萎縮が進行する。原因は不明。  (アルツハイマー病+脳血管性認知症=40%もアルツハイマー病といわれる)

2 脳血管性認知症 20%…脳梗塞や脳出血などの脳血管障害を起こしたあと、その後遺症として発症する認知症。

3 レピー小体型認知症5〜15%…レピー小体が認知機能を司る大脳皮質にも広く見られる。記憶障害や、筋肉がこわばるなどアルツハイマーやパーキンソン病に似ているが、決定的に違うのは病気の初期から「幻視」が多く見られること。

4 前頭側頭型認知症 2〜5%…脳の前頭葉や側頭葉の萎縮が見られる精神疾患。ほとんど、65才以下で発症。性格変化と社交性の消失が初期から見られる。記憶障害は、目立たなく進んでいく。

 

●認知症の予防法

認知症の60%(脳血管性認知症)は、予防によって軽くできる。その最も重要なことは、「高血圧」「心臓疾患」「脳卒中」「糖尿病」「高コレステロール」などの生活習慣病を改善すること。

<食生活>

・魚…魚油に含まれるw―3系の長鎖不飽和脂肪酸は、血栓予防、抗炎症作用、降圧作用、インスリン感受性への作用など多くの効果を有している。

・野菜類…色とりどりの野菜を。

・和食中心の食事…(きのこ、海草、大豆)血液中のコレストロール濃度を低くして動脈硬化のリスクを下げる。

・ハーブ類、ナッツやたね類、ベリー類、ダークチョコレート

<動>

・運動は、脳血流の増加作用が考えられアルツハイマー病の防御に働く知見がある。

・毎日30分、汗ばみ、ちょっと息苦しい程度の有酸素運動を。

<話し>

・人とのかかわりが大事。会話は脳を活性化させる。

<健>

・タバコ、お酒の飲みすぎ、夜更かしは避ける。高齢者の喫煙は認知症になる危険性が2倍になるという最新報告がある。

<頭>

・囲碁、将棋、チェス、マージャンなどのゲームや文章の読み書き、音楽を聞いたり演奏したり、スマートフォンの詳しい使い方を学び使うなどいつまでも若々しくいることが大切。

<楽>

・毎日出かけたり、おしゃべりしたり、日々の生活、老後を積極的に楽しむことが大切。

 

<第2章> 認知症サポーター養成研修・・・

カナダJAMSNET代表 傳法清さん

 

カナダJAMNET代表の傳法清さん

 

 「認知症サポーター」とは、認知症について正しく理解し、偏見を持たず、認知症の人や家族を温かく見守る応援者。自分のできる範囲で活動し、友人や家族に学んだ知識を伝える活動をする人。その養成研修を受講した人には、『認知症の人を支援します』という意思表示を示す「オレンジリング」と「修了証」がわたされる。第1章で、田中ドクターにより認知症を医学的な側面から講座が行われたが、第2章では、傳法先生の指導による具体的な行動のための「グループワーク」が行われた。

 

●グループワーク1

こんなとき、どうしたらいいのか考えてみよう!

 まずは、ロールプレイ。「日系シニア・ヘルスケア&ハウジングソサエティ」の渡瀬容子さんと「隣組」の有馬正子さんが扮する認知症のおばあさんと娘役を演じた小劇をビデオ上映。カレーライス用のジャガイモ1個を切っておくように依頼された母親が手順をわからず失敗してしまう。それを見た娘が感情的になっていき、母親が困り果てていくというストーリーを批評したり、建設的な意見をグループで発表するなど、実感しながら身につくグループワークであった。

 

●グループワーク2

協力してもらえそうな機関や人などはどこだろう

 例えば、よく行くコーヒーショップやコンドミニアムの管理人さんなど、それぞれの身近な所や人をリストアップ。さらに、コミュニティ機関などもリストアップ。この日、受講した人たちが関係する「日系シニアズ」「隣組」「日加ヘルスケア」「桜風会」「コスモス・セミナー」「家族の会(家族を支える会)」「日本語学校」が社会資源としてリストアップされ、次のグループワークに進んだ。

 

 

●グループワーク3

社会資源ごとに分かれてサポーター養成のカリキュラムをつくる

 対象となる機関を選んだ理由、講座対象者、講座協力者、開催日時、開催場所、さらに、講座内容の時間配分、内容、伝えたいことを具体的に記入して発表。    この一連の講座を終え、カナダ・ウエストコースト初、52名第1期生の「認知症サポーター、キャラバン・メイト」が巣立った。  

 

 

<受講後感>

コスモス・セミナー主宰  大河内南穂子さん 

 

グループワークで発表する大河内南穂子さん

 

 「明日のわたくしのためだから」と認知症の心得を学んでおこうと参加してみました。日曜日だというのに会場は熱気に包まれていましたね。朝の9時から5時まで、分厚いテキストを前に頭が満杯になる程の養成講座だったので、キャラバン・メイトとしての自覚がいつの間にか生まれました。今回は寸劇のおまけ付きで、爆笑の連続でしたし、とても和やかな雰囲気で愉しく受講できました。知らなかった情報交換もでき、実り多い刺激を受けたので、認知症サポーターを増やしてサポートしていきたいです。

 

*この催しは在バンクーバー総領事館開館125周年記念の一環として、総領事館、日加ヘルスケア協会、隣組、日系シニアズヘルスケア住宅協会の共催で行われた。

    

(取材 笹川守)

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