ANA バンクーバー〜羽田線就航

  カナダ・日本・アジア間流動の今後の展望」

 

8月26日、バンクーバー・ダウンタウンのターミナル・シティ・クラブで、日本・カナダ商工会議所の第11回年次総会と講演会及び懇親会が開催された。一般に公開された講演会では、全日本空輸(ANA)バンクーバー支店長の松橋慶典氏が3月末に新たに就航したバンクーバー〜羽田線や日加間流動の今後の展望について語り、聴衆約70人を引き込んだ。

 

 

ターミナル・シティ・クラブの会場には約70人の参加者が集まった

  

日加商工会議所   

 第11回年次総会〜会長に小松和子氏  講演会に先立って行われた年次総会では、小松和子氏が会長に選任された。小松氏は挨拶の中で、日加商工会議所発足時から現在までの約10年にわたる歩みを振り返り、多くの人々の惜しみない協力が活動を支えてきたことを強調した。会員数は増加を続けており、さらに今年は日系社会で活躍していく若者のためのJC-COC YOUTH(ユース部)が新しく設立されるなど、活動の幅が広がっている。日本とカナダの関係の発展のため、今後も日加商工会議所の活動に積極的に参加してほしいと小松氏は呼びかけた。

 

「ANA バンクーバー〜羽田線就航 カナダ・日本・アジア間流動の今後の展望」

全日本空輸(ANA)バンクーバー支店長 松橋慶典氏

 今年バンクーバー〜羽田線が就航するまで、カナダ市場はANAにとって遠い存在だった。1月にバンクーバー支店長に就任した松橋慶典氏も、25年間ANAに勤務してきた中で、カナダ線開設が過去の路線計画に登場したことはなかったと語る。これが実現したことは、エネルギー分野における協力関係を含む日加経済関係の発展の象徴であり、グローバルな航空会社としてのANAの成長の証でもある。

 

 

ANAバンクーバー支店長の 松橋慶典氏

 

バンクーバー〜羽田線就航の経緯

 昨年10月、羽田空港の国際線発着枠の新規割り当てがあり、日本側に16枠、相手国側に15枠の計31枠が配分された。日本側では日本航空の5枠に対して、ANAが11枠獲得。この11枠のうちの1枠がカナダ路線だった。ANAは1996年から1999年まで、エア・カナダとバンクーバー〜関西国際空港線を共同運航したことがあったが、この路線の運航の主体はエア・カナダだった。ANA本体の運航としては、今回のバンクーバー〜羽田線が初めてのカナダへの国際線定期便の就航となる。

 

就航都市にバンクーバーが選ばれた背景

 就航都市については、バンクーバーの他にトロントも候補に挙がったが、その時点での保有機材の稼働や航続距離、需要動向などを総合的に勘案した結果、バンクーバー線就航に決定した。現在は、ボーイング767型機で運航しているが、ローンチカスタマーとして世界で初めて50機発注したボーイング787型機への近い将来の変更も想定している。また、産業都市であるトロントの方がバンクーバーよりビジネス渡航は多いが、バンクーバーには在留邦人やアジア系移民が多く、流動の規模が大きいという魅力もあった。

 

ANAの北米線ネットワーク

 ANAの国際線規模は年々拡大しており、日本と北米を結ぶ太平洋路線のネットワーク強化も進んでいる。カナダ路線に加えて、現在日米間ではロサンゼルス、ニューヨーク、シカゴに1日2便、シアトル、サンフランシスコ、サンノゼ、ワシントンDCに1日1便の週70便を運航。さらに、ジョイントベンチャー(共同事業)を行っているユナイテッド航空の週70便と合わせると、計週140便の規模だ。首都圏では成田空港と羽田空港のデュアルハブを活用し、成田空港ではアジアと北米間の接続需要、羽田空港では日本と北米間の単純折り返し需要獲得に力を入れている。

 

バンクーバー〜羽田線の利用メリットと課題

 バンクーバー〜羽田線を利用するメリットは、まず何よりも成田空港と比較した羽田空港の高い利便性だ。首都圏の各方面にアクセスしやすく、国内線への乗り継ぎも便利である。ただ、課題として挙げられるのは運航スケジュール。バンクーバー〜羽田線は現在、羽田空港への到着時間が遅く、同日接続で行ける都市が限られている。また、運航機材がボーイング767型機であるため、より新しい機材に比べると快適性の面で劣る。しかし、著名シェフとのコラボレーションによる機内食の提供やANA乗り継ぎ専用バス「ANA HANEDA CONNECTION」の運行など、質の高いサービスは利用者から好評を得ている。

 

ANAは なぜカナダに 就航してこなかったのか

 なぜこれまでANAがカナダに就航してこなかったかを考えてみると、やはり収益性の問題が理由の一つとして挙げられる。日本からカナダへは観光目的の渡航が多く、ビジネスでの渡航が少ない。航空会社にとっては、ビジネス渡航が少ないことは、収益性が高くないことを意味する。多くのビジネス客がスケジュールの柔軟性や快適性を優先して高価格の航空券を購入するのに対して、観光客は可能な限り低価格の運賃を求めるからだ。また、日本とカナダの間の人の流動を見てみると、年間を通して安定しておらず、夏場は多いが、冬場は大きく減少する。

 

 

今年度の日加商工会議所会長に 就任した小松和子氏

 

カナダの魅力を日本に発信

 日本からカナダへの旅行需要拡大のためには、オフシーズンにも人を引きつける要素が必要だ。カナダにはアピールすべき魅力がたくさんある。例えばBC州では、タラバガニやボタンエビなど新鮮な海の幸を使った料理が美味しいが、これが日本ではあまり知られていない。この背景には、日本の主要なマスコミがカナダに特派員を置いておらず、カナダのニュースがなかなか日本に届かないという事情がある。NHKの朝ドラ「花子とアン」の好影響からもわかるように、カナダがもっと日本で紹介されれば、旅行者は増加するだろう。カナダ観光局も積極的な誘致活動を行っており、10月には東京で日加両国のサプライヤーのための「Focus Canada Japan」というワークショップも開催する。

 

期待される航空需要拡大

 観光以外の分野における日本とカナダの経済関係の発展も、航空需要に大きな影響を与える。特に、カナダ西部における液化天然ガス(LNG)開発の進展は重要な鍵を握る。プリンスルパートなどのBC州の都市が、北米市場とアジア市場を結ぶ新たな物流拠点として成長すれば、人と物の動きが活発化するだろう。また、IT産業においてはシリコンバレーからバンクーバーに部分的になど、拠点を移す企業の動きも見られ、東京=バンクーバー=シリコンバレーのトライアングルの流動の増加も期待される。航空需要が拡大すれば、ANAにとっても、バンクーバーに続く、次なるカナダ路線就航への展望が開けることになる。松橋氏は今後もANAがカナダのネットワークを拡充することで、顧客の利便性の向上に努めたいと語り、講演を締めくくった。

 

新たな局面を迎えている日加関係

在バンクーバー日本国総領事 岡田誠司氏

 松橋氏の講演に続き挨拶した在バンクーバー日本国総領事の岡田誠司氏は、ANAのバンクーバー〜羽田便就航は、日加関係が新たな局面を迎えていることの象徴であると語った。昨年9月、安倍総理が日本の総理としては7年ぶりにカナダを訪れ、ハーパー首相と会談。この会談の中で、エネルギー分野における協力などに加えて、日本とカナダの航空会社の羽田空港への乗り入れが話し合われた。そして、その後すぐにバンクーバーで行われた航空当局間協議で、羽田空港の昼間時間帯の就航について合意に至ったのだ。これは日本とカナダの関係が大きく進展していることを示すきわめて明確なサインだ。

 

 

在バンクーバー日本国総領事の 岡田誠司氏

 

 講演会終了後は、夕食懇親会が行われ、参加者らはビールを片手に歓談しながら、夏の夜のひとときを楽しんだ。バンクーバー〜羽田線の航空券など豪華賞品の揃ったサイレント・オークションや2003年の日加商工会議所発足時からの会員への感謝状の授与も行われた。

    

(取材 船山祐衣)

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