5月9日、バーナビーの日系プレースで日本での出版デビューと日本での相続の問題解決に関するテーマで『出張セミナー』が開かれ約40人が参加した。今回はその概略を紹介する。
相続について講演した泉三紀夫さん
現在日本で『相続診断士』として仕事をする泉三紀夫さんがこの資格を取得したのは、2012年2月。以来毎月20から30件の相続の相談を受けている。税理士、弁護士といった有資格者よりも、お客様からは「敷居がひくく相談がしやすい」と好評を得ている。
今後は海外(バンクーバー含む)相続の相談窓口を広げていきたいと考えている。
争相続と笑顔相続の事例
(1) 争相続
80歳の父が亡くなり70歳の母が残り、40歳の長男と35歳の長女が相続人。怖い父親で長男に暴力を振るい、長男は18歳で家を出ている。父親は遺言(ゆいごん)書を書いていなかった。母と長女は20年も前にけんかをして家を出た長男に遺産は渡したくないと考えていたが、長男は親戚から聞いて葬儀に出席。「自分は親の援助なく大学を出て働いた。妹はマンションを買ってもらっている。同じ兄弟なのにこんなに差があっていいのか。だからもらうものはもらう」と主張した。 弁護士を交えて調停へ行くと長男の主張が全面的に認められ『法定相続分』に近い遺産分割(母が2分の1、長男と長女が4分の1)が行われた。 しかし母が勝手に3千万円を引き出したのが長男の弁護士によって見つかり、母と長女もけんかし、最後には家族がばらばらになった。母は「私の人生何だったの?」と言い、現在ひとりで暮らしている。
(2) 笑顔相続
父はすでに死去。母が96歳で亡くなり、68才の姉と58歳の妹。姉は結婚して子どももいる。妹は独身で母と同居し、介護をしていた。 母が自筆の遺言書のような手紙を書いていた。それは法的に認められるものではなかったが「家と土地(6千万円相当)は妹。残った財産(4千万円相当)は姉妹で半分ずつにしてください」という母の意志を尊重した。 ここで泉さんは『遺留分』(最低でも法的にもらえる権利)について説明した。例えば、夫に愛人ができて遺言書で「全財産愛人にあげます」となった場合、妻と子どもは困るが、4分の1は法的に認められている権利だ。この家族の場合、姉が『遺留分』を主張せず、母の遺言のとおり円満に分けた。 この例には後日談がある。姉の子どものひとりは妹と一緒に住んでおり、ゆくゆくはこの家は甥に譲ることになっているという。
遺言書の 大切さ
遺言書、エンディングノート、手紙など亡くなる前に自分の意志がきちんと書いてあるかどうか。日本では遺言書を書いている人は、6パーセントほどにすぎない。 自殺する前に書くのは遺書(いしょ)で、混同されるケースが多い。日本で死後の話をすると縁起が悪いと思われるため、子どもから親に遺言書を書いてほしいとは言いにくい。そこで、相続診断士などの第3者が入って進めることが望ましい。 公証役場で専門家に遺言書作成を頼むとひとり10万円ほどで、諸費を含むと20万円くらいかかる。「それくらいの財産がないと依頼できないが、20万円のコストで相続の手続きが円満に済むのであれば、遺言書は必ず書くべきです」と泉さん。
エンディングノートの勧め
エンディングノートというと終末ノートみたいで嫌な感じがあるので、泉さんは『笑顔相続ノート練習長』を作成した。亡くなる方の想いが残っていると相続がしやすい。「先祖代々の土地なので長男にもらってほしい」というのは「売らないでほしい」という希望が込められている。 エンディングノートは若い人も書くべきである。何も残さずに突然亡くなると、まわりの人は死をきちんと受け止められない。日本でもブリーフケア協会がある。 「大切な人は誰ですか、事故に遭い意識不明になり10秒だけ意識が戻ったら誰に何を言いますか」などの質問をしながら、家族が一緒にエンディングノートを記入していくことが望ましい。 弁護士によると、今、子どもが親を強制的に自分の家の近くの老人ホームに入れる、いわゆる拉致のようなことがよくあるそうだ。3人兄弟で親を奪い合う。これは自分の相続分を少しでも増やし有利に運ぼうとするものだ。
遺言書とエンディングノートを書くときの注意
税金のことや相続のことをきちんと理解して遺言書を書くこと。子どものいない家庭の場合、もしご主人が亡くなるとどうなるか。ご主人の親が亡くなっている場合、兄弟で遺産分割になる。その兄弟が亡くなっている場合、話をしたこともないその子どもたちと相続の争いになる。「全財産を妻に渡す」という簡単な遺言書を書いてもらうだけで、無駄な相続争いを避けることができる。
『僕の死に方 エンディングダイアリー500日』金子哲雄著(小学館)。流通ジャーナリスト。闘病生活中に自身の葬儀での挨拶を書きすべてをプロデュースして亡くなった。「涙なくしては読めない本」と泉さん
相続に関する相談の現状
和解がうまくいかず、身内同士で訴える調停にもっていかれたケースが増えている。こうした『遺産分割』での係争は昨年、約1万5千件あった。一昨年まで家庭裁判所に相談する案件で一番だった離婚問題をぬき、一番多くなった。その相談件数は年間約18万件あり、これは10年前の約2倍である。 90歳の父に70歳の相続人の場合、会社もリタイアして先行き不安なため、もらえるものはもらおうとする。また、1次相続(例えば父が死亡した場合)には関心を示さなくても2次相続(父が死亡後、母が死亡した場合)だとこれが最後だという思いから、兄弟でもめることが多い。
トラブル防止のために
消費税が5%から8%に引き上げられ、5千万円+1千万円 X 法定相続人の数=基礎控除となる。奥さんと子どもふたりだと8千万円まで控除金額があるが、来年の相続税改正後は、4千8百万円までしか控除がない。 来年非常に大きな改正が行われるため、12月31日か1月1日で亡くなるかによって、相続税が変わってくる。東京都のように土地が高いところでは、税金の負担も多くなる。相続税の申告をしていないので土地の名義を変えていないケースも多い。 見えないことにおびえている人が多いが、きちんと相続診断を受け、自分の財産がどれだけあって評価がどれくらいか、税金がいくらかかるかを把握し、トラブル防止の早めの準備をすることが大切であると泉さんは語った。
(左から)セミナーを共催したNaxon Trading of Canada Ltd.のミッチ中村さん、相続について講演した泉紀夫さん、出版について講演した中野博さん
(取材 ルイーズ阿久沢)
泉三紀夫(いずみ・みきお)
株式会社トライマックス代表取締役。1961年京都舞鶴市生まれ。東洋大学文学部卒業。経営コンサルタント会社役員を経て独立。2006年株式会社トライマックス代表取締役就任。2011年7月、一般社団法人 相続診断協会設立準備室に参画。2011年12月、一般社団法人 相続診断協会設立企画推進部部長就任。
多くの日本人の悩みを解決するために、日本で初となる『相続診断士』を立ち上げ、2014年6月1日現在、相続診断士13000名を超えるほどの人気となる。今年度より、世界中で活躍する日本人が故郷で相続のトラブルにあわないように情報を提供する活動をスタートした。
Gocoo & Naxon共催セミナーへの質問並びに今後のセミナーに対する希望などはカナダの相談窓口ミッチ中村さんまで。メール: This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.