5月27日、「第2回住宅セミナー」がバンクーバー・ロブソンのリステル・ホテルで開催された。日加商工会議所、建友会、企友会による共催、そして、日系ガーデナーズ協会、日系女性起業家協会、バンクーバービジネス懇話会が協賛した。また、在バンクーバー日本国総領事館開館125周年記念イベントでもあり、聴衆は約3時間にわたるセミナーに熱心に耳を傾け、活発な質疑応答が行われた。

 

K・イトウ&アソシエイツ代表の伊藤公久さん

 

●第一部

 

地球環境の保全

建築分野から環境、エネルギー問題にどう取り組むか、について話を進めていきたい。 世界人口の推移は、2013年が約73億人、今世紀末の2100年の最高推移は160億人、中間推移で100億人、最低推移でも60億人と予測されている。一方、CO2、温度上昇など地球環境の悪化が年々進み、深刻な状況にある。人口増と食糧生産の関係を考えると、はたして、地球上に人間は生きていけるのか、という議論までされるようになっている。  また、エネルギー問題はCO2の発生と密接な関係があるが、電気エネルギーの需要は経済発展とともに高まる。ブリティッシュ・コロンビア州では、1980年4万6000ギガワット、2013年が5万7000ギガワットだったものが、2033年には8万ギガワット必要になると予測されている。BC州は幸いにも水力発電が約98パーセントを占め、CO2の発生の心配は少ないが、環境、エネルギー問題は一地域だけのことではない。電気料金はカナダ内でもBCハイドロが2番目に安い(8・91セント/kw、1番安価はモントリオールで6・87セント/kw、日本は約28セント/kw)。そのために、無駄な使われ方も多いという。 そこで、BCハイドロでは、「MY HYDRO PROFILE」という各家庭での電気の使用状況、料金を毎月昨年対比で、見ることができるシステムを用意し、インセンティブも準備している。申し込みはオンラインで簡単にできる。また、電化製品、暖房、給湯機器などにも節電タイプへの買い替えインセンティブを設け、CO2削減に積極的な対策を講じている。

 

サステナビリティと建築の関連性、 建築産業の役割

サステナビリティとは、人間生活、特に文明の利器を用いた生活が、将来にわたって持続できるかどうかを表す概念。資源には限りがあり、廃棄物の処理にも現行のままでは限界がある。一方、経済発展には資源の大量消費がつきもの。相反する問題も多いが、「人間生活」と「経済」、「地球環境保全」がうまく調和し、子どもや孫の世代に受け継がれていく政策作りが重要だ。  建築分野は、人間生活の『質』の向上(社会)、経済、環境ともにサステナビリティの概念が重要視される。住宅構造やビルディングエンベローブの技術革新による安全性向上。コミュニティの確立、支援、警備システム、防災施設の設立などによる安心感の醸成。さらに、住宅性能の向上、都市計画、美観地域の計画などの快適性、そして、高齢者施設など健康な暮しを支える住環境づくりをサステナビリティに進めなければならない。また、建築分野のサステナビリティは経済性の向上につながる。木造建築の奨励(Wood First Act 2009)による森の育成、地場産業の育成、再生可能エネルギー産業の育成、省エネ化の費用対効果の検証と分析、市場に受けいれられる価格構成の構築などで経済を発展させる。

 

省エネ住宅のリノベーション

現状の住宅の消費エネルギーの用途は、カナダの場合、暖房63%、給湯18%、電化製品・照明17%、冷房2%と圧倒的に暖房の割合が多い。住宅のタイプによる一世帯あたりの平均エネルギー消費量は、一戸建てで138、タウンハウス101・1、アパート64・0、モバイルホーム126・5(単位はすべてGJ)。暖房効率と住宅タイプに密接な関係があることがわかる。

Ener Guide (評価値は、次のように定められている)

0~50 省エネ改修されていない古い住宅

51~65 省エネ改修された古い住宅

66~74 省エネ改修された古い住宅または典型的な新築住宅

75~79 省エネ住宅 80~90 高省エネ住宅(R2000住宅最低基準)

91~100エネルギーをほぼ使わない住宅

100以上 ネットゼロエネルギー住宅

Ener Guide Rating (エネルギー評価基準)

72 現在の新築住宅平均値

77 2008年BC州基準値

80 2008年バンクーバー基準値

85 2015年目標値

90 2020年目標値

95 2025年目標値

100 2030年ネットゼロエネルギー(カーボンニュートラル)

以上のような目標値を定め、カナダ政府は、さまざまなプログラムを策定している。

 

ECOENERGY RETROFIT PROGRAMの概要

カナダ資源省(NRCan)がビジネス適応性を考慮して住宅エネルギー評価、ランク付システムとして開発。低層住宅(木造)の室内環境、耐久性の向上をはかりつつ省エネルギー化を目指し、さらに、住宅産業の経済活性化を目指している。  NRCanが、『エネルギーアドバイザー』を認定。アドバイザーは、現場で建物外皮の検査、気密測定、暖房設備機器、給湯器の検査を行う。費用は300ドル。  主な改修工事の内訳は、Energy Star(省エネモーター使用の97%エネルギー効率)の暖房機器への交換、Energy Starの窓やドアへの交換、地下室や天井裏への断熱材の追加、ソーラーパネル給湯器の導入、ジオサーマルヒートポンプの冷暖房機の導入。一般的には、1棟あたり、2改修項目以上が実質施行。  こうした省エネのための改修工事には、連邦政府、州政府ともに補助金制度を設けている。

 

3時間を超えるセミナー・パネルディスカッション。熱心に聞き入る参加者

 

 

●第二部

 

パネルディスカッション

セミナー参加申し込み書に事前に書き込まれた質問書の一部に、パネラーが答えた回答を紹介する。

 

Q:断熱材の特質について

吉武政治さん:断熱材は熱の伝わりを遅くするだけ。グラスウールや発泡スチロールの断熱材は、外気からの熱をいったん吸収するが、時間がたつと放熱する。それで、夜、気温が下がっても暑いという現象が起きる。空気の逃げ道を作るなどの施工上の工夫が必要になる。

 

 

Q:断熱効果を上げるうえで、気密性能が重要。シングルガラスから、ペアガラスなどの窓に変える場合の施工は?

 

大岩敏行さん:もともと、カナダの家の窓は後付けなので、簡単に交換ができる。気密性をあげ、断熱効果をあげるポイントは窓なので、ペアガラス、トリプルガラスなどの窓に早く交換すべき。施工時間も短く、コスト的にも案外お手頃だ。

 

 

Q:断熱材を入れる施工上の問題点について

 

柴坂直樹さん:壁の構造によって、断熱材を入れる難易度が大きく変わる。壁の厚みや、真柱の入り具合など外から見ただけでは判断できないケースもある。全部の壁をはがす必要があれば、コスト的にも大きく異なる。

 

 

Q:省エネ住宅へのリノベーションへの金融面のサポートは?

 

浜野ハイディさん:不動産を担保に融資を受けることが可能(OAC)。オプションとして現在の低金利を利用してモーゲージを組み替えるか、不動産を担保にLine Of Creditを設定する方法がある。金利、限度額など金融機関によって差はあるが、金利的には現状況は有利といえるので、リノベーションをして不動産価値をあげるチャンスだ。条件面など比較検討し選択することが大切。ぜひ、ご相談していただきたい。

 

 

Q:インテリアの面で省エネにつながることは?

 

清水嗣保子さん:バスタブは小さいサイズにすべき。底を狭く、上部を広くした逆台形のデザインなら小さいサイズでもゆったりできて快適。シャワーヘッドは小さいロー・ブロー・タイプに変えると水量は格段に違う。トイレも最新のものに変えるなど、節水=省エネができる住宅機器が多く発売されている。「エナジースターのマーク」付なら補助金がつくので、ご確認を。

 

  

(左から)吉武政治さん(省エネアドバイザー)、浜野ハイディさん(住宅ローン金融)、柴坂直樹さん (施工)、大岩敏行さん(施工)、清水嗣保子さん(インテリアデザイン)

  

以上は、さまざまな省エネへ向けたリノベーションのポイントの一部に過ぎないが、 『お得情報』も数々ある。ぜひ専門家への相談をおすすめしたい。

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

「建友会」は、建築・建設及びその周辺産業に従事するプロフェッショナル集団。2012年11月カナダ・バンクーバーで設立。現在会員数50名。メンバー同士が切磋琢磨し、クライアントの要望に協力して総合的に対応できる集団を目指す。ご相談は、This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. まで。

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。