カナダの医療について知識を身につけよう
約70人の参加者が、BC州の医療への理解を深めた
日本との違いは多いが、カナダは世界的に見ても医療水準の高い国だ。そして国民皆保険制度により、誰もが平等に医療を受けられる。BC州では、公的保険MSP(医療サービスプラン)によって、病気の治療に必要な医療サービスはすべてカバーされる。これを活用するためには、まずBC州の医療制度についてよく知ることが重要だ。
プライマリードクターとは
カナダでは、医師はプライマリードクターと専門医(スペシャリスト)の二種類に分かれる。プライマリードクターは、患者を最初に診察する医師のことで、ファミリードクター(家庭医)、ウォークイン・クリニックドクター、エマージェンシードクター(緊急医)が含まれる。専門医は、プライマリードクターがさらに専門的な検査や治療を受けるべきだと判断した患者のみ受診できる。これに対して、日本には専門医しかいない。つまり日本から来た人は専門医に行くことに慣れているので、カナダでなかなか専門医に会えないことに戸惑ってしまう。だが、その必要はない。プライマリードクターは一般診療のすべてを行うことができるからだ。ファミリードクターである田中氏が日々さまざまな患者を診療する中で、専門医に送る割合はおよそ20人に1人だという。
ファミリードクターとウォークイン・クリニック
カナダに短期間しか滞在しない人は、必要な時にウォークイン・クリニックに行くと良い。しかし予約を入れることはできず、待ち時間が長い場合が多いので注意が必要だ。カナダに長期的に住む場合には、ファミリードクターがいることが望ましい。ファミリードクターは、患者とパートナーシップを築き、家族全員の健康を長期にわたってみる医師だ。病気を治療するだけでなく、日頃の健康管理にも気を遣いながら、患者をより良い方向に導く。心の問題や子育ての悩みを相談することもできる。
ユーモアあふれる語り口で、ファミリードクターとして経験してきたことや、病気を予防することの重要性について話す田中朝絵氏
ファミリードクターの探し方
ファミリードクターを見つける一番良い方法は、友人や同僚に良いドクターを紹介してもらうことだ。または、College of Physicians and Surgeons of British Columbiaによる医師のリスト(www.cpsbc.ca/physician_search)を利用して、自分で探すこともできる。新規の患者を受け付けているかどうかに加え、その医師が医学を学んだ大学なども確認すると良い。気をつけなければならないのは、常に新しい患者を募集している医師は、評判が悪い可能性があるということ。時間に余裕がある場合は、このリストを定期的にチェックして、新しく患者を受け入れ始めた医師を見つけ次第、すぐに連絡を取ると良い。
カナダの医師との付き合い方
日本と比べると、カナダでは医師と患者のやりとりをより重視するため、患者は自分の症状や意見を医師にしっかりと伝える必要がある。だが正しい英語で話す必要はない。身振り手振りで表現すれば、プロである医師は理解してくれる。日本人の悪い癖は、医師の言うことがわからない時や同意できない時に、黙っていたり、笑顔でうなずいたりしていること。これでは伝わらない。わからない時には、わからないと言うこと。医師の意見に同意できなくても失礼にはあたらないので、遠慮せずにそれを伝えることが大切だ。
検査について
カナダ在住の日本人からは、「検査が受けられない」という不満が聞かれることが多い。日本との違いは、カナダではすべての病院は公的な機関であり、検査についても政府が管理しているということ。しかし当然、検査を必要とするような症状がある場合には、検査を受けることができる。患者として心がけなければならないことは、「なぜ検査を受けたいのか」ということをはっきりと医師に伝えることだ。必要と認められた検査はMSPでカバーされる。また、血圧測定、尿検査、血便検査、コレステロール、AIDS検査、前立腺癌・乳癌・子宮頸癌の検査など、症状がなくてもできる検査もあるので、医師に相談することを勧める。
パネルディスカッションでは参加者の質問に答える形で、BCケアカードや病院などについて話し合った
911と811
緊急時には911に電話して救急車を呼ぶことができるが、その場合、救急医療隊員が最も適切と判断した病院に行くことになる。911に電話せず、自分で救急外来へ行けば、病院を選ぶことができる。また、緊急ではない場合には811に電話をかければ、24時間無料で健康相談をすることができる。911と811のどちらも、「ジャパニーズ・プリーズ」と言えば、通訳を通して話せる。
子どものために知っておきたいこと
バーナビー市にある子どものためのウォークイン・クリニック「ケンジントン子供診療所」では、小児科の専門医の診察をすぐに受けることができる。ファミリードクターに小児科に紹介してもらう時に、このクリニックを選ぶこともできる。
Kensington Medical Clinic 6548 Hastings Street, Burnaby (604) 299-9769
また、歯科検診や聴力検査など、地域の子どものために自治体が無料で行っているさまざまなサービスがあるので、病院やコミュニティの新聞などで情報を得て利用すると良い。
薬剤師にも相談しよう
日本とカナダでは、薬剤師の役割が大きく異なる。カナダでは体の具合が悪いと、まず薬局に行き、薬剤師に相談することが多い。予約は不要。どの薬局でもレベルはほぼ同じなので、自分の行きやすい場所にある薬局に行けば良い。いつも同じ薬局に通い、薬剤師と顔なじみになれば、より自分に合った薬やサービスを紹介してもらえる。今回のイベントでパネリストを務めた薬剤師のトム・キン氏は現在バーナビー市メトロタウンのT&Tの中にある薬局に勤務しており、日本語で相談可能。また、薬に関して気をつけるべきことは、日本で買った薬をカナダで買いたい時には、その薬の商品名ではなく一般名が必要だということだ。自分が使っている薬の一般名を日本にいる間に聞いておくと良い。
(左から)薬剤師のトム・キン氏、メディカル・オフィス・アシスタントのミナ・マッケンジー氏、医師の田中朝絵氏
人生を楽しむことで病気を予防
運動不足や西洋化された食事、冬の少ない日光、乾燥した空気などから、日本からカナダに来て病気になる人は多い。できるだけ健康的な日本食を食べ、よく歩くことを心がけよう。カナダの大自然の中で、スポーツを楽しむのも良い。また、ストレスは多くの病気の原因となる。人生を楽しむことで病気を予防しよう。パネリストとして参加したメディカル・オフィス・アシスタントのミナ・マッケンジー氏は、一日24時間は、8時間仕事をして、8時間家族や友人と遊び、8時間睡眠をとるためにあると参加者に語りかけた。 今回の講演会では、BC州で豊かな経験を持つ田中氏、キン氏、マッケンジー氏から参加者へ、本稿で書ききれなかった多くのアドバイスがあった。日本とは違うところが多いBC州の医療制度だが、この三氏のように日本語のわかる医療関係者がいることは心強い。また、日加ヘルスケア協会のウェブサイトには役立つリンク集があるので利用することを勧める。
日加ヘルスケア協会
カナダの医療システム 関連リンク集
www.nikkahealth.org/ pg128.html
(取材:船山祐衣)