40キロの荷物を持ちながらアイスロード
(冬の間、凍結を利用した臨時道路)を歩く関口さん
―関口さんにとって冒険とは?
100パーセントできるとわかったら冒険ではなくなってしまうので、自分の中で出来ないと思うこと。もちろん100パーセントできないとわかっていることに突っ込むのはただのバカになってしまうので、本当に自分の限界を出し切って妥協することなく挑戦して、それでやり切れること。もちろん過程を大事にしているけれど結果も重要視していて、難しい課題を克服して成功するというのが大事だと思うんですよね。
―なぜこういうことをしようと思いましたか?
高校生のときにあまり目標もなく、ただなにか冒険や旅をしてみたいなあというのがあって、ちょっと興味を持って図書館で冒険関連の本を読んで、初めて植村直己という人を知りました。最初は少し憧れただけでしたが、本を読む中で自分でもやってみたいなあって変わっていきました。18歳で高校を卒業してすぐに日本を歩いて縦断したんですよ。北海道から沖縄まで。
―冒険中に自分を奮い立たせる言葉などはありますか?
影響を受けたのが田中幹也さん(カナダでの冒険の軌跡により2013年度の植村直己冒険賞を受賞。田中幹也さんのカナダの冒険については、過去に何度かバンクーバー新報誌上でも取り上げている)本当にいろいろな言葉に影響を受けたんです。
例えば自転車冒険で幹也さんが言っているのが「自転車なんてこげば進む。壊れたら押せばいい」。なんかものすごくシンプルで、冒険の極意だと思うんですよ。逆に自転車壊れたらそこで終わりっていう人はそれなりの記録しか出せない。逆に、何があろうがなんとしてでも成し遂げるという精神が大事だと思うんですね。
幹也さんからの影響がものすごく大きくて、それまでオーストラリアとかまでは普通の時期に行くという感じだったんですけれど、結局これって時間をかければ誰でもできるよなあと思ってしまって。そのとき、たまたま幹也さんのHPをみて衝撃を受けて自分の中でもっと「厳しいところに行きたい、自分もそういうことをやりたい」という風に変わってきました。厳冬期の北極を見据えてトレーニングをするため、2011年、北海道から始めました。
若き冒険家、関口裕樹さん
―最終的な目標は?
北極点・南極点。これは場所として物理的な目標であって、ただ根本的には厳しい自然に挑戦したいとか自分の限界を追及したいというという精神的な目標があります。物理的、精神的、どちらが上かというと精神的な目標の方ですね。
―今回植村直己さんの足跡に出合ったということですが?
アイスロードは地元の人がよく通っていて、そこでアニーとソフィーという人に出会い、アニーのお父さんがエディー・グルーバンというタック(ツクトヤクーツク)では有名な方らしいんです。その方が植村さんの北極圏12000キロの冒険をサポートしていて、そのアニーから「直己を知っているか」って聞かれて、「彼は僕にとってスーパースターなんだ」と話したんです。そうしたらタックに着いたら、エディーの家に泊まりなさい、と言ってくれました。エディーに会って話をして、エディーの娘さんのパティーが経営しているB&Bに泊めてもらいました。
ツクトヤクーツクに向けて
―アイスロードを歩いている人がいないなか、みんなが声をかけてくれて、極北の人達の暖かさを感じましたか?
そうですね。なので正直なところ、冒険のレベルとしてはあまり高くないんですよ。車も通っていましたし。SOS機器を持っていなかったんですけれど、実際はSOSを出すこともありそうな状態なんです。もしこれが誰にも会わずにという冒険だったら、冒険としてもレベルは高いかもしれないけれど、多分心に残らなかったんじゃないのかなって。ただ苦しいだけ。今回、人がいたおかげで冒険としてのレベルは低くて、これは極地冒険って言っちゃダメなんじゃないかなと思うけれど、でもものすごい冒険ができた。旅ができたと感じられます。人とのふれあいもあって、さらにカナダ特有のツンドラといった雄大な自然が目の前にあった。
永久凍土にみられる特徴的な地形ピンゴをバックに |
自分の息が吐いた途端に凍りつく |
—南極だと人は通っていないだろうから、SOSのライフラインを確保しますか?
うーん。そこは難しくて、さっきも極点という物理的な目標と、厳しいことに挑戦するという精神的な目標とがあって、どちらかというと精神的な目標のほうが上なので。SOS機器というのは今の極地冒険に欠かせないものになってきているんですけれど持たずにやれたら…。本当にこれは理想ですが、もしそれができれば本当に最高に気持ちいいんだろうなって思います。
—次のデスバレーに対しての意気込みは?
今回の冒険とは対極のように思われがちですが、ただ根本では厳しい自然に挑戦したいというのがあるので。最近回りから極地冒険家だと言われるようになって、それはとてもありがたいんですけれど、冒険家であって極地冒険家ではないんです。次の計画は題名通りで、自転車で真夏の砂漠デスバレーを走ります。やり方はいつも通り、現地の気象条件が最悪になり冒険の成功率が最も低くなる時期に単独で突っ込みます。
現時点で、最大気温差100度の冒険ができるのは関口裕樹さんしかいない。ここ数年精鋭的な冒険を求めるあまり、楽しむ心を忘れていたが、今回のカナダが冒険の楽しさを教えてくれたと語る関口さん。
今回のインタビューはバンクーバー市内の某ホステルでおこなった。関口さんが最後に「田中幹也さん、多分今日はバンクーバーのどこかにいるはずなんですよね」と一言。メールなどで田中さんからいろいろアドバイスをもらっていたが本人には会ったことがないという。「意外と近くにいたりして」と、ホステルのフロントで聞いたら、「泊まっているよ」とのこと。関口さんがとても影響を受けた田中幹也さんが、まったく偶然にも同じホステルにいたという奇跡のような出会いもあった。人が人を呼ぶ。関口さんは今後どんな冒険に挑戦していくのだろう?
若き冒険家関口裕樹さんを心より応援したい。
(取材:野口英雄 写真提供:関口裕樹)
バンクーバーで偶然、田中幹也さん(右)と出会う
名 前:関口 裕樹(せきぐち ゆうき)
生年月日:1987年8月16日
出 身:山形県山形市出身、東京都日野市在住。
スポンサー:モンベル
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関口裕樹さんの冒険の軌跡:
2006年 徒歩日本縦断 2715km 109日間
2007年 自転車日本一周 9051km 83日間
2008年 韓国縦断 720km 29日間
2009年〜10年 自転車オーストラリア大陸一周(自転車によるコジアスコ登頂・滑降) 21075km 233日間
2010年 自転車日本横断 265km 20時間28分
徒歩台湾縦断 569km 31日間
2011年 自転車厳冬季北海道走行 1320km 21日間
2012年 1月 自転車厳冬季アラスカ縦断(失敗)778km 21日間
2月 徒歩行厳冬季アラスカ 200km 6日間
2013年 自転車厳冬季アラスカ縦断 1400km 32日間
徒歩日本横断 250km 7日間
2014年 厳冬季カナダ北極圏マッケンジー河400km踏破
2014年夏 「自転車で真夏の砂漠デスバレー走破―最大気温差100度への挑戦」。