開会の挨拶をするUBCのレベッカ・チャウ教授
開会の挨拶は実行委員会・共同議長のレベッカ・チャウ教授(UBC)。チャウ教授はカナダでBC州が唯一高校部門を設けていることに触れ、日頃から熱心に日本語を学習している高校生を労った。「ここにいるだけで一つの目標は達成されている。観客と結びついて弁論大会を楽しんでほしい」と和やかにスタートさせた。
純粋さが心に響く高校部門
高校生の初級スタートは2位になったジェイサン・アン君による「老人から学んだ生き方」。ある日高校から老人ホームのお年寄りの話相手に行かされ、そんなつまらないことをしたくないと思ったそうだ。しかしノースウエスト準州の元知事に会い、彼が家族全員を連れて厳しい現地に25年も移り住み、財産のほとんどを寄付して残りのお金で老人ホームに入っていることを知った。「僕は生まれて初めて正義のヒーローを見た」と興奮いっぱいに熱弁した。3位はケイトリン・ツァングさんの「夢の跡」。北京新体操でタイトルをもらっていたのに、怪我で体操ができなくなったが、今は前向きに次の夢をさがしていると話した。努力賞はウージー・シューさんの「世界を変える」で、自らてんかんを克服し、医者になって山中伸弥博士のように社会に貢献したいと語った。
そして拍手喝采となった初級1位はクリス・ジュー君の「職人魂」。日本職人の「毎日同じことをこつこつと真面目にして、普通より上をめざす」姿や「研究、開発での一人一人の精神」に日本民族の魂を見たという。「いくらお金を儲けたかが一番大事な中国人と全然違う」と笑いも誘い、「日本職人みたいに僕もコンピューターを極めたい」と目標を語った。高校部門初級は熱心さとレベルの高さで激戦だった。
高校中級部門も純粋な若い視点が目立った。1位になったユーリン・ツァンさんの「私が知らなかった世界」は、カナダで一番多いBC州のホームレス問題を取り上げた。地域の情報は一人一人が知らなければならない、そして自分は貧困問題に取り組む経済を勉強したいと熱弁した。2位のジェニファー・ハンさんの「こんな私でも出来ること」では英語ができなくて臆病だった自分が心理療法で勇気をもらったので、将来心理療法を勉強したいと語った。3位はアンディー・キム君の「僕のサンタクロース」。毎年フィンランドから届いたぎっしり書かれたサンタの手紙が実は父親が書いてフィンランドに送っていたものだと知り、自分は決して一人で大きくなったのではないと感じた。次は自分がサンタになって両親の一番ほしがっているものをプレゼントする。それは「僕が幸せになることだ」と茶目っ気たっぷりに話した。
高校オープン部門ではスピーチが3分から4分になった。3位のヨンホー・チョー君の「いつでも広告、どこでも広告」では、映画館や、インターネットでの過剰な広告量を指摘し、イメージや心理的興味をそそるだけでなく質のいいものを望むと語った。2位のウイリアム・キャン君の「日本人と納豆」では、まめまめしく勤勉に働く、人と人とのつながりが糸をひく、混ぜれば混ぜるほど粘りがでる、しかしいくら混ぜても本来の形が変わらない、と納豆と日本人の共通点を興味深く話した。そして1位のマンチ・ズォウさんの「私と漫画」では8才で日本へ移住した時、耳鼻科で初めて漫画を手にした。両親はいやがったが、漫画は自分にとって一生の宝物で、ぜひカナダで漫画を広めたいと語った。
閉会の挨拶をする岡田誠司総領事
メッセージ多様な大学生部門
午後の部は大学生部門の初級からスタート。3位はカーメラ・デ・トーレスさんの「まだ見つからなかった情熱を探そう」で、運動のできない自分がニコニコ動画で自由に踊り、後に大学のダンスクラブに入れたことから、情熱をあきらめないでほしいと話した。2位はジャオジン・ウーさんの「ファッションと生き方」。日本の服は質がよくて値段も高くない、そして着たら自分がとてもかっこよく見えたことから、日本旅行で自分のスタイルを見つけたうれしさを語った。1位はケティー・ツァングさんの「単純さの美」。カナダに来て一年目、ESLで小学生レベルの単語でスピーチをしたが、それがかえって説得力があると言われた。生活も複雑にする必要はない、単純な中に幸せを見つけようと話した。彼女のゆっくりとシンプルで、とても聞きやすいスピーチには「総領事アワード」も同時に与えられた。努力賞はイーミン・フーさんの「動物を守る」で、サメのフカヒレスープなど必要のない食べ物が多い中、動物にも家族がある、一人一人が動物の命を守ろうと勧めた。
中級は2位のみの受賞。ガンシェン・マーさんの「私の選んだ道」では、2つの道がある時は歩く人の少ない道を選ぶのがよい。それで自分は西洋文学や政治の勉強のできるカナダに来たと話した。上級・オープンでは3位が2人。ユンソー・チョーさんの「蛙の旅」では、小さい頃英語のキャンプに無理矢理行かされたトラウマから飛行機に乗れなくなった。ある日そんな自分がいやになり中東のバレーンへ一人で向かった。仲間と出会い、自分の恐怖に打ち克つ喜びを味わった。同じく3位はジョイ・ズーさんの「ロードを飾った音」。音楽嫌いの自分が小学校6年生の時ある男子生徒のエレキギターに魅せられた。見た目でなく希望を与える真のメッセージを送る、今もそんな音楽の意味を探し求めていると述べた。
2位はレベッカ・シャファーさんの「ここにいる理由・自信の力」。恥ずかしがりやの自分が日本に一年留学し、間違えてもいい、言葉が通じたらそれでいいと気持ちを切り替えた。間違いは失敗ではない、周りにこだわらず自分を信じてと訴えた。そして1位はエリカ・ソマビルさんの「ステレオタイプの脅威」。人は無意識にステレオタイプを受け入れる。高齢化が進みオリンピックの迫った日本はこれからも外国人が増えるだろう。それならステレオタイプにあてはめなくてよいという認識を深めてほしいと語った。
ほっとした表情の受賞者たち
スピーチが終って
在バンクーバー日本国総領事岡田誠司氏は、「全てのスピーチが素晴らしく、みなさんにアワードを差し上げたい。審査がとても難しかった」と感想を述べ、「英語も大変だが、自分は仕事で英語が必要です。みなさんの日本語を勉強しようという気持ちに敬意を表したい。これからも楽しく勉強を続けて下さい」と励ました。
高校部門審査員代表のリョウコ・マッコール先生(ナナイモ学区代表)は、濁音の「か、が」などの間違い、単語、文章のバランスを指摘し、今回憶えるだけでなく、観客の心に触れる素晴らしいスピーチもあったことを褒めた。大学部門審査員代表のシャラリン・オーボー教授(UBC)は審査の大事なポイントとして「1・観客を惹きつける力、2・文章の構成、3・自分の体験から生まれるメッセージ」をあげて次への課題と期待を表した。総評は実行委員会・共同議長の大前典子先生(SFU)で、ゆっくりと話す大切さに触れた。早く話すことが今のトレンドかもしれないが、「話すこと」と「スピーチ」は違い、スピーチにはメッセージを伝えるという役目があるという。審査にあたっては、努力過程が何より大事だと評価した。
会場では父兄と同じように生徒を見守り応援する日本語の教師がたくさんいた。全員に参加賞を与えたスポンサー側にも、細やかな配慮を感じた。今年もたくさんの参加者の笑顔で幕を閉じた。
参加者と審査の方々
(取材 ジェナ・パーク)