丁寧でわかりやすい講義を行う杉原義信先生

 

女性更年期のセミナーに聞き入る参加者

 

じわじわと続く男性更年期障害

「『一日一生』とすると思春期は太陽が東から昇る朝の10時頃の朝日。そして太陽が南へ向かう25歳頃ピークを迎え、やがて西の優しい光がさしてくる」杉原先生はそんなたとえを用いて話しはじめた。男性ホルモンも思春期から急上昇するが、20歳代を頂点として減り始め、40〜50歳代で更年期障害を発症しやすくなる。男性の場合は、生理という節目がないことからあまり自覚症状がないのが特徴。統計によると男性更年期の発症時期は平均年齢54歳であり、症状が出る割合は50代で全体の12・5パーセント、60代で20パーセント、70代で30パーセント、80代で50パーセントといわれるが、個人差がある。症状の持続期間も長く、女性よりもじわじわと夕日の時間が続くといった感じだ。疲労感や倦怠感、不安、抑うつ感など内向きのエネルギーを感じる反面、ちょっとしたことでイライラしたり、怒りやすくなったりする。記憶力や集中力低下、骨、筋肉、関節機能障害、骨粗鬆症に加え、動悸、発汗などの自律神経症状なども見られる。特に性機能の低下による勃起障害(ED)は高血圧、糖尿、高脂血症、狭心症、心筋梗塞などにも関連することから、医療機関の受診は考慮すべきことだという。

 

セミナー第一弾は男性の更年期障害について

 

はっきりしている 女性更年期障害

一方、女性ホルモンは25歳から減少し、45歳頃に急に減少する。一般に、生理のなくなる閉経期の51歳、その前後45〜55歳の約10年間を女性更年期という。急激なホルモン減少により約20パーセントの女性が更年期障害を訴えるそうだ。一生を一日に置きかえてみると、女性の場合は夕日がかたむいてくると、まず精神的症状があらわれる。朝、起きるのがつらいという疲労感、面倒くささ、些細なことに怒ったり、イライラしたり、不安になったりする。また何もしていないのに動悸、頻脈、のぼせ、顔のほてりがあったり、汗をかいているのに寒かったりと、環境とマッチしない自律神経症状が出る。さらに下痢、便秘、皮膚乾燥(かゆみ)、知覚過敏(暑い・寒い)、しびれ、腰痛などの身体的症状もあらわれる。また閉経後は、骨、筋肉、靭帯、関節機能が鈍くなり、保湿性低下によって皮膚の乾燥やシワも増えるのが特徴だ。

 

時間はとりもどせるのか

治療法としては男女とも注射、飲み薬、貼り薬などによるホルモン補充療法(HRT)があげられる。しかしこれらは依存性が高く、長期になると前立腺(男性)や乳腺(女性)への副作用も充分に考慮すべきである。バイアグラ、精神安定剤、抗うつ剤、漢方薬なども臨機応変に用いられる。しかし薬で「夕暮れ時を前の時間にもどす」ことは多難なのである。
そこで予防策も兼ねてストレス軽減、気分転換が有効であるという。ストレスは自信喪失にもなるので心身をいたわることが大切だ。映画、音楽などの趣味や、散歩、ハイキングなどの軽い運動を心がけると良い。地球にもどるとしばらく歩けない宇宙飛行士がいるように、骨の細胞には刺激が必要だという。適度な運動をすると痛みがなくなる例も多いそうだ。ただ男女とも階段の上り下り、特にすべらないように注意してほしいという。栄養バランスのとれた適度な食事も欠かせない。

 

思いやりが大切

本人に自覚症状がないと周囲の人にも影響が大きい。特に短気などはそれを病気ととらえずに性格や人格と誤解されがちだ。杉原先生は、「これらの言動は性格、人格、人間性の変化ではなく、ホルモンの低下による疾患なのです」と語る。そして油が足らなかったらさせば良いというように、治る病気だと自覚してほしいという。周りが「あなたらしくないよ」とそれとなく気づかせたり、一緒に散歩でもして「最近調子どう?」、「化粧のりはいい?」というように聞き出してみるのも大事だとのことだ。特に女性は自覚すると自分でコントロールができて早く元にもどりやすい。また母性本能から男性の更年期障害にも優しくなれるそうだ。しかし男性は本人の自覚症状がなく、場合によっては暴力的な言動になることもある。離婚など夫婦の重大な決断を下す前に、更年期障害のせいかも?と疑ってみることも大切かもしれない。

 

セミナー参加者と杉原先生

 

人生の新たな出発点

杉原先生は、更年期障害の「こう」は年齢の高い「高」でなく更新の「更」であると説明してくれた。夫婦が男女の性を超えて、仲良く笑いながら油を注ぎ合うというような、新しい人間同士の関係になれるという。そして「更年期障害は人生の通過点でもあるが、同時に様々な病気の出発点でもある。本人の自覚、予防、そして周りの思いやりが大事になってくる」と締めくくった。講習には夫婦や友達同士での参加も目立ち、先生は更年期以外の質問にも気軽に応じてくれた。座談会では、参加者の体験談や参考例について、いろいろな意見がとびかった。ある男性は、奥さんが冬の寒い日に暑い、と言って窓を開けた時、更年期だと知らずいじめてしまったのを悪く思っている、と感想を述べた。平均寿命が伸び、更年期以降の人生も長くなった今、過ぎた時間を元にもどそうと努力するよりは、西の空の美しさを大切にしたいものだ。 (取材 ジェナ・パーク)

 


 

質問に答える杉原先生

 

杉原先生よりひとこと

更年期障害の症状は多岐に及びます。症状が類似していても重大な疾患や緊急を要する場合もあるので、医療機関の受診は十分ご配慮いただきたいと思います。
更年期障害を理解し、症状に気が付けば、ご自分での制御(コントロール)も可能になって、苦悩からも解放されることと信じております。快適に更年期と付き合いましょう!

 

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