メンタルヘルスも風邪同様、こじらせないのが大切という、臨床心理カウンセラーの加藤さん |
新報の連載「お薬の時間ですよ」でも活躍している、薬剤師の佐藤さん |
カナダと日本の保険制度
BC州医療保険制度(MSP)について解説を行ったのは、日本とカナダで薬剤師の資格を持ち、サンシャインコーストのギブソンズにあるロンドンドラッグズに勤務する佐藤厚さんだ。日本の医療保険制度と比較しながら説明した。
日本の医療保険では、市町村国保などの保険に加入して保険料を支払う。これにより病院や処方箋薬、歯科治療の窓口負担は通常30%(後期高齢者医療制度では10%の場合も有)で、残りは保険者の支払いとなる。
カナダの公的健康保険は州の管轄で、各州に皆保険制度がある。名称もBC州ではメディカルサービスプラン(MSP)、オンタリオではオンタリオヘルスインシュランスプラン(OHIP)というように、州ごとに異なる。カナダで最初に皆保険制度が生まれたサスカチワン州では保険料を支払う必要がないなど、内容も様々だ。
BC州の健康保険にはMSP、ファーマケア(Pharmacare)、民間保険の3種類がある。MSPがカバーするのは診察・診療、検査、手術等で、基本的に毎月、保険料を支払うと、クリニックや病院での窓口負担はない。ただし、MSPでは歯科と薬局の薬代は負担対象とならず、これらをカバーするのが会社や個人で加入する民間保険だ。歯科医療の場合、例外的に政府からMSPの保険料の補助を受けているならば、治療費がカバーされることがある。そして、薬局の薬代の保険を運営する部門は、ファーマケアだ。フェアーファーマケア(Fair Pharmacare)に登録(無料)しておくと、免責金額を超えた分は条件付で一定の割合をカバーしてくれる。フェアーファーマケアに毎月の保険料の支払いは基本的にはない。「最も一般的なフェアーファーマケアというプランには2年前の収入に基づいた免責金額があり、その額を超えたら政府の支払いが始まるというもの。MSPよりは少し話が複雑です。」と佐藤さんは話した。また、薬代は会社などが加入している民間保険も利用でき、保険料を支払うことで処方箋薬の費用はカバーされることがあるが、この詳細はプランにより異なるそうだ。
セミナーを熱心に聞き入る参加者の皆さん
MSPの加入資格と保険料
MSPには、市民権・永住権を持つ人、さらに条件付で一時滞在者が加入できる。旅行者や訪問者には加入資格はなく、例外はあるものの、BC州の居宅に6カ月滞在している必要がある。
ワーキングホリデービザで滞在している場合は、ワークパーミットの残存期間が6カ月以上で、BC州に6カ月以上滞在している、そして最低でも毎週18時間働いていることを条件にMSPに登録が可能。
MSPには会社などの団体あるいは個人で加入でき、自分で登録手続きを行う場合はウェブサイトで申込書をダウンロードして郵送する。申し込み後、2ー3カ月の待機期間がある。例えば、7月にBC州で生活を始めて、すぐにMSPへの加入手続きをした場合、10月1日から有効になる。「待機期間中に緊急に医療保険が必要になった場合、MSPに電話をして交渉してください(604ー683ー7151または1ー800ー663ー7100)」とのアドバイスがあった。 保険料は家族の人数により決まり、2014年は一人世帯69・25ドル、夫婦二人では125・50ドル、3人以上の家族は一律138・50ドルだ。収入によってはプレミアムアシスタンスという補助がある。申請用紙はMSPのウェブサイトからダウンロードできる。
MSPの負担の範囲
例えば出産時の費用は日本では出産育児一時金が出るが多少なりとも自己負担が発生する。これに対し、BC州ではMSPが全額負担するため病院の窓口では一切費用はかからない。佐藤さんは「不妊治療はMSPではカバーされない部分が多いので、費用は事前に専門のクリニックに相談し、確認してください」と呼びかけた。不妊治療の費用負担は、州によって異なるそうだ。
国外やBC州外で受けた医療サービスについては、BC州の標準に照らし合わせて政府が償還する。「旅行保険に加入して、子供と里帰りした女性が日本で乳腺炎となり、治療を受けることになった。乳腺炎は旅行保険の適応外だったものの、MSPでは補償されて治療費が戻ってきた」という例で説明されたように、BC州で保険が適応される標準的な治療に関しては、費用を償還してもらえるという。
また、子育てセミナーということで、子どもを対象としたプログラムの紹介もあった。BC ヘルシーキッズ・プログラム(1ー866ー866ー0800)はMSPの保険料補助を受けている世帯の19歳未満の子どもが対象で、MSPでは通常カバーされない基本的な歯科治療とメガネについて補助を受けることができる。補助については歯科または眼科の窓口で確認してもらえる。
冬に気になるメンタルヘルス
続いて、メンタルヘルスについて解説を行ったのは、BC州認定臨床心理カウンセラーの加藤夕貴さんだ。ストレスを受けたとき、喪失体験があったとき、ショックな出来事があったときに、心が風邪をひきやすい、つまり精神面で健康を損ねやすい。ネガティブな出来事に限らず、結婚や出産といった、周囲から見て嬉しいこともストレスになりうるという。
風邪をひきやすい、ひきにくいというのは、筋肉や栄養バランスなどが関係してくるが、心の筋肉や栄養バランスに相当するのは、経験値、順応性・柔軟性、解決していないトラウマ体験の有無、家族、友人やコミュニティのサポートだ。例えば、異国での生活はストレスになりうるが、過去に海外で生活するなど経験があり、対処法を知っていると経験値が高くなり、ストレス対策ともなる。
心の不調は、気分が落ち込む鬱(うつ)、躁鬱などの気分障害、様々な場面で不安を感じる不安障害、他人が自分に悪だくみをしているなど、妄想が中心的な症状である妄想性障害のような思考障害と、大きく分けて3つに分類することができる。不安障害には、対人恐怖症、脅迫観念神経症、パニック障害などがある。また、思考障害には現実と非現実の境界を見失い、妄想や幻覚が特徴的な統合失調症もある。
対策については、「『今までどおりの生活を送ることができない』、『精神疾患の病歴、または未解決のトラウマがある』場合は、ファミリードクター、精神科医、地域の援助団体、または心理カウンセラーに相談してください」と呼びかけた。精神科医などは、ファミリードクター、または心理カウンセラーから紹介してもらえるそうだ。
一方、『普段の生活に支障はない』、『自分でストレスマネージメントをするものの効果少』、『サポートが少ない、または未解決のトラウマがある』、『家族、夫婦、恋人、友達との関係性で問題を抱えている』場合は、ファミリードクター、地域の援助団体、または心理カウンセラーへ。
『普段の生活に支障がない』、『落ち込みが一時的なもの』なら、運動したり、友達と話をするなど、自分でできるストレスマネージメントを。加藤さんは、「何をしたら、落ち込んでいた気持ちをアップさせることができるのか、自分なりのケアの仕方を知ることも大切です」と語った。
メンタルヘルスも風邪同様、こじらせないのが大切だ。「気になる症状、また気分や心の変化が続く場合、ご家族、またファミリードクターや心理カウンセラー、専門機関になるべく早目に相談しましょう」と締めくくった。
セミナー最後のQ&Aコーナーや、MSPやプレミアムアシスタンス申し込みのためのウェブサイトアドレス、メンタルヘルスのチェックリスト、支援団体の連絡先などの資料も充実しており、参加者から好評だった。
(取材:西川桂子 写真:松永眞奈美)
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BC州医療保険制度(MSP)についてのお問い合わせは:This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.
佐藤さんは、弊紙コラム「お薬の時間ですよ」で連載中。
(www.v-shinpo.com/index.php)
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