在バンクーバー日本国総領事の岡田誠司氏

 

在バンクーバー日本国総領事館総領事 岡田誠司氏

「ターニングポイントにある日加経済関係ー友好関係から補完関係へ」

 

日本経済の現状

日本経済にとって2013年は、「大胆な金融政策」、「機動的な財政出動」、「成長戦略」という「三本の矢」を基本方針とするアベノミクスの一年だった。日銀による積極的な国債の買い入れを軸とした金融政策と大規模な財政出動によって、円安・株高が進み、日本経済は回復の兆しを見せている。成長戦略に関しては、今年が重要な年になるだろう。安倍内閣は好循環実現のための経済対策として、競争力強化策やインフラ整備などを進めており、その中の一つに農林水産業の活力発揮がある。日本にいる時は茨城県にある筑波山の麓で夫婦で農業に取り組んでいる岡田氏は、その時のエピソードをユーモアを交えて紹介しながら、成長戦略の一環である規制緩和の重要性について語った。

 

日加関係の変化

日本経済に関してもう一つ非常に重要なのが、エネルギー供給の問題だ。これは今後の日加関係にとって、大きな意味を持つ。日本とカナダは、自由、民主主義、人権などの基本的価値を共有する友好国だ。両国の間には政治問題も貿易問題もなく、文化交流も盛んである。しかし、日本の貿易や直接投資の統計を見てみると、世界の国々の中でカナダの占める割合は非常に小さいということに気付く。このため日加関係は、経済的・政治的なつながりではなく、「友好関係」と表現されることが多いのだ。  この関係が今、エネルギー分野における協力の可能性により、大きく変化しようとしている。原子力発電所の停止後、国内で必要なエネルギー輸入のために巨額の貿易赤字を抱える日本は、競争的な価格のエネルギーの安定供給を求めている。その一方で、シェールガス革命によりエネルギー産出量の拡大が期待されると同時に、米国という大きな輸出先を失いつつあるカナダは、新しい輸出先を必要としている。日本とカナダの間にエネルギーの需給関係が生まれれば、両国の関係は、友好関係から補完関係へと大きく発展する可能性があるのだ。

 

リステルホテルで企友会の新春懇談会が開かれ、約40人が参加した

 

LNG輸出に向けての課題

安倍総理は昨年9月オタワを訪問し、ハーパー首相と会談。首脳間で天然ガス分野での協力を強化することで一致した。10月には茂木経済産業大臣が来加し、オリバー天然資源相との間で「石油・天然ガスに関する協力声明」に署名した。このようにカナダのエネルギー資源、特に液化天然ガス(LNG)に対する日本の期待は大きいが、輸出実現に向けての課題は多い。天然ガスの輸出基地やパイプラインの建設に必要な莫大な費用を確保するためには、世界中から投資を呼び込まなければならないが、そのための法的枠組みの整備はできているのか。また、建設に必要な何万人もの労働者はどこから確保するのか。岡田氏はBC州首相をはじめ関係大臣および政府関係者との会談でこれらの懸念を伝えるなど、必要に応じて政府の責任者に働きかけながら、開発の進展を注意深く追っている。

 

総領事館の企業支援

エネルギー以外の分野においても、日本政府は経済政策の一環として日本企業支援を積極的に行っている。在バンクーバー日本国総領事館の役割の一つは、BC州で企業活動をしている人々と、BC州の政策責任者との間を取り持つことだ。昨年12月に開催した天皇誕生日祝賀レセプションでは、クリスティ・クラークBC州首相をはじめとする多くの政府関係者を招き、日系企業と協力して日本酒などの食文化や観光のプロモーションを行った。日本とカナダの間で成長が期待される産業は多く、総領事館は今後も企業支援に力を入れていく。岡田氏はBC州政府との関係などで総領事館として支援できることがあれば、積極的に支援を要請してほしいと呼びかけた。

 

バンクーバービジネス懇話会会長の林清隆氏

 

バンクーバービジネス懇話会会長 林清隆氏

「カナダ東西のビジネス比較並びに米国他との関わり」


カナダ東西のビジネス比較

カナダの東部と西部は、大きく異なる産業構造を持つ。東部には、自動車産業、製鉄産業、航空・交通関連機器産業など、多様な重工業が集積している。それに対して重工業がほとんどない西部では、天然資源関連の産業が盛んだ。30年以上にわたり丸紅でプラント分野の事業に携わり、2012年4月から丸紅カナダ社長として活躍する林氏は、カナダ東西の違いをわかりやすく解説した。丸紅を含む多くの総合商社にとって、カナダへの輸入は人口の多い東部に集中しており、特に輸送機等の機械関連の輸入が多い。他方、豊富な天然資源に恵まれているが人口が少ない西部は、輸出するための物品の調達先としての役割を果たしている。

 

カナダと米国の密接な関係

国境を接するカナダと米国の間には密接な関係がある。カナダの経済規模と人口は米国の約10分の1であり、カナダ経済が米国経済に大きく影響されるものであることは間違いない。東部では、重工業における南北間の物流資本の移動が非常に活発だ。また、アルバータ州東部、サスカチワン州、マニトバ州を含むカナダの穀倉地帯では、穀物トレーダーによる穀物の取引が盛んであり、丸紅も米国の事業会社を通してこのビジネスに携わっている。さらに、アルバータ州は州内で生産されるエネルギー資源の80%〜85%を米国に輸出することで多大な収入を得ている。また、米国にとってもカナダは補完的な役割を果たしており、重要な貿易相手国であるのはもちろん、物品の輸送ルートとしてカナダの港湾を使用したり、政治的な背景から米国企業がビジネスをしにくい国においてカナダ経由でビジネスを行ったりするケースも見られる。

 

世界の国々とカナダの関係

カナダには世界の名だたる企業が集積しているため、多くの情報が行き交っており、豊富なビジネス機会に恵まれる場所だと言える。特にバンクーバーとカルガリーは世界の窓口のような存在だ。カナダは豪州と比較されることが多いが、情報集積地としては、豪州よりも優れていると言えるだろう。また、カナダには他国のパートナーとしての魅力もあり、第三国において、日本企業とカナダ企業が協力関係を構築することも可能だ。一例として、独立行政法人日本貿易保険とカナダ輸出開発公社(EDC)は再保険協定を結んでいるため、輸出契約を結ぶ日本とカナダの企業が共に保険に加入することができるという利点がある。また、カナダと世界の関係に関して興味深い進展としては、地球温暖化の影響で海氷が減少し、北極海の航路利用がより現実的になったことが挙げられる。実用化が進めば、輸送コストが低減し、カナダにとっては貿易の大きな助けとなるだろう。

 

今後のBC州でのビジネス機会

今後BC州がシェールガスをLNGとして輸出する「エネルギー産出州」に生まれ変われば、それは大きな人の動きをもたらす。そうなればそれを支える航空産業などが伸びるのはもちろん、BC州におけるビジネスコミュニティの拡大に伴い、あらゆる周辺産業が成長するだろう。しかしそのためには、まずBC州のLNGが実際にアジア市場への輸出で成功しなければならない。米国、ロシア、豪州など、競争相手は多い。林氏は講演の中で具体的な数字を挙げながら、エネルギー市場における価格競争力の重要性を強調した上で、「LNGに関しては、今後2、3年間が重要な時期になると確信している」と語った。また、バンクーバービジネス懇話会に目を向けると、会員数は増加傾向にある。バンクーバーを中心としたカナダ西部地域の経済活動が今後より一層活発になることに期待したい。

 

講演会に先立って行われた2014年度年次総会で企友会会長に選任された松原雅輝氏は「皆さんと一緒になって、企友会と日系コミュニティを盛り上げていけたらと思います」と挨拶し、企友会主催のイベントへの積極的参加を呼びかけた

 

(取材 船山祐衣)

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