荻島光男さん(以後、O):子育て支援セミナーは「一人で悩まないで」そして「Knowledge is Power(知識は武器なり)」のメッセージを込めて始めたものです。領事相談員の仕事をしていて、一人で悩み、苦しんでいらっしゃる当地の在留邦人の皆さんが多いことに気付きました。問題があっても、こういう援助団体がある、手助けをしてもらえる、という知識があると、解決の糸口になることもあります。セミナーは在留邦人の皆さんに、知識を提供していきたいという願いを込めて行っています。

 1月17日に開催する次回の子育て支援セミナーは、前回の出席者にアンケートを行い、希望が多かったBC州医療保険制度(MSP)とメンタルヘルスについてお話しすることにしました。

田中朝絵さん(以後、T): MSPはとても広い範囲なので、特に何をお話しましょう?

O: たとえばケアカードでどこまで診てくれるかなど、一般的なことについても、知らない人もいるようです。時間の制約もありますので、概要をお話いただいて、詳細については配布資料で、出席した皆さんが家に帰ってから、読んでいただくという形式を考えています。子育てセミナーという名称ですが、男性や子育て世代でない方もぜひ、来ていただきたいですね。

 総領事館に薬をきらしたと相談にこられる方もいらっしゃいます。薬は3か月分以上は送ることはできません。それ以上欲しいということで、日本から家族や友達が来た時に持ってきてもらう人もいます。

T:薬は日本と違う場合があり、カナダの一般的な医師の場合、日本の名前を言っても分からないことがあります。ですから、私はそういうときは、日本語のできる薬剤師を紹介しています。次のセミナーのスピーカーは、サンシャインコースト在住の佐藤厚さんという薬剤師の方です。もう一人、ダウンタウンのPharmasaveにも日本人の薬剤師がいらっしゃいます。

O:ダウンタウンのPharmasaveに日本人の薬剤師がいらっしゃって、そこに処方箋を持っていくと処方して、日本語で説明してもらえるというのは知りませんでした。

T:日本とカナダは薬局の使い方が違うんです。カナダでは、例えば風邪薬や咳止めなどの処方箋は書きません。病気になった人はまず薬局で薬剤師に相談します。薬剤師はこれを使って3日経っても、症状がよくならない場合は医師のところに行ってください、というような指示をします。医師は既に薬局で相談して、薬をもらっていると思います。だから、処方箋の必要な薬の処方しかしません。逆にいうと、風邪で辛いというときは、医師のところに行く前に、薬剤師に相談できるということです。

O:そういう情報はありがたいですね。
 それから次回のセミナーのもう一つのテーマは、特に冬になると相談が増えるメンタルヘルスについて。冬季うつ病は多いので、タイムリーな話題と思っています。
 でも「私はうつ病です」と相談にいらっしゃる方はまずいません。ご本人ではなく、友達や家族から相談がきます。また、もともと日本でもともとうつ病などで苦しんでいて、転地療法のような形でカナダに来た方もいらっしゃいます。

T:日本で既にうつ病だった人は多いですよね。

O:でも、残念ながら場所は変わっても、心の中は変わっていないんですよね。

T:カナダに来ることで、一時的に気分転換にはなっているんですけど、旅行に来るだけならともかく、ここで暮らすというのは、苦しいこともあります。

西洋医学で考えるとき、身体が変化を感じ、変化に適応しなければならないことを『ストレス』と言います。例えば、気候や食べ物の違いも変化で、適応しようとすることでストレスを受けています。そういうことの積み重ねが、とても大きくなります。

O:正確な統計は取っていませんが、冬場になると確実にメンタルヘルス面での相談が増えます。

T:冬季うつ病は、日照が減る、そして天気が悪くて外に出られないというSAD(季節性情動障害)と、ビタミンB不足によるものと、どちらが多いと思われますか?

加藤夕貴さん(以後、K):うつ病の問題のルーツを見ると、トラウマがあったり...と、もともと心理的な課題を抱えている方が多いと私は思います。その他、日常ですでに様々なストレスがあり、その上天気によってストレスを発散する事が難しくなると、体調と同じく心のバランスが崩れるとい事も多々有ります。どちらにせよ、多くの場合、天候やビタミンB不足はトリガー(引き金)に過ぎないと思います。

O:うつ状態で、自分で医師に会いに行こうという人は、まずいません。友達や家族といった周囲の人はどう対処したらいいでしょう。

K:心配しすぎたり、助けてあげなくてはと強く思って行動する事は、本人にとってプレッシャーとなる事があるので、なるべく避けた方がいいかもしれません。無理やり医師のところに連れて行ってもダメです。うつというと、落ち込み、食欲減退、不眠、また引きこもってしまってやる気がない等の症状が一般には知られていますが、暴力やアルコール依存(もしくは他の依存症)も、実はうつのサインだと言われています。どこでフラグを上げるべきかが問題になってきますが、何か実際に起きてからのことが多いのが実情です。セミナーで、本人や家族が利用できるチェックリストを用意するといいかもしれませんね。

T:うつの人は、まずファミリードクターに連れて行くのも一案です。眠れない、食欲がない、というなら、ホルモンの問題かもしれない、あるいは癌だったら怖いね、と、医師にみてもらっては?と勧めてみてください。

 日本だと食欲がないと内科に行きますが、カナダではファミリードクターはメンタルヘルスの教育も受けています。精神科だとハードルが高いですが、ファミリードクターなら比較的気軽です。ウォークインクリニックでも大丈夫です。

K:私の知り合いのカウンセラーはドクターとつながっていて、治療が必要な人に紹介を受けるようになっています。

T:そして、家族が同行する場合は、できれば医師とのアポイントメントの際に、「うつの疑いあり」と紙に書いておいて、本人に分からないように渡してください。

インタビューでは、カナダで暮らしている上で役立つ、MSPやメンタルヘルスについてのさまざまなヒントが、話題に上がった。セミナーは最初の90分がスピーカーによる話で、その後、質疑応答の時間も用意されている。スピーカーはMSPについてが、本紙でも『お薬の時間ですよ』を連載中の佐藤厚さん、メンタルヘルスは加藤夕貴さんが行う予定だ。

(取材 西川桂子、写真 松永眞奈美)

在バンクーバー総領事館・日加ヘルスケア協会・隣組共催
子育て支援セミナー(男性や子育てと関係のない方の出席も歓迎)
BC州医療保険制度(MSP)&メンタルヘルス
1月17日(金) 午後6時~7時30分
在バンクーバー総領事館 領事待合室
入場無料(事前登録不要)、幼児室・乳児室準備

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