自らに課したチャレンジをアルツハイマーの研究のために
毎年体を使っての力試しに挑んできたフクシマさん。今年はまだ訪れたことのないカナダ平原部や大西洋部を見てやろうと自転車でのカナダ横断を計画した。当初はただの自分の楽しみとして。しかしあるとき、旅行の計画にある思いが重なった。昨年から認知症の症状が色濃く現れてきていた祖母。その姿に感じていたもどかしさだった。何か自分にできることはと、このカナダ横断をアルツハイマーの研究費の募金活動につなげることを思い立ったのだ――。
フクシマさんは旅の途中、何度もインターネット上のブログに旅行記をアップ。そこには多くの人々からの励ましの声が寄せられた。ブログ上には寄付の窓口を設置。現代らしい募金活動の姿である。そうした旅の記録をもとに、今回の自転車カナダ横断の旅、計画発起から完遂までの話をフクシマさんに聞いた。
「ライド・トゥ・リメンバー」の企画を思い立った時の家族の反応は?
家族は初め驚いていて、私が自転車でカナダ横断をするなんてとんでもないことだと思っていましたね。でも私が真剣だということがわかってからは、誰もやめさせようとはしませんでした。それどころかこの企画に協力してくれるようになりました。ただ母はかなり心配していたようですが……。
BCアルツハイマー協会にフクシマさんが話をしてから、まもなくスポンサーが現れたそうですね。スポンサーが付いたという展開を迎えた時点で、企画遂行へのプレッシャーを感じたであろうと思いますが、実際どのように感じていましたか?
ただのアイディアにスポンサーが付いたことで弾みがつき、現実のものとなって、もう後戻りはできないと感じました。
過去にもこのような体力を使うプロジェクトに挑戦してきたのですか?
似たような経験としては、昨年テコンドーの黒帯取得の試験を受けるに際してのことですね。試験をパスするためには、とてつもない準備が必要で、私としてはとても自信がありませんでした。
最初の試験は50分以内に10キロの完走と腕立て伏せや腹筋運動をこなさなければならず、それに続いて板割りなどを数時間行うことが課せられています。そして最後に練習試合を続けて行うのですが、とにかくかなりの体力を必要とするものでした。自転車旅行中、精神的にきついことが何度かありましたが、この経験が踏ん張る力につながりました。
横断ルート設定にあたって、事前にたくさんの情報を参照したとブログに書いていましたね。最終的にはどのように選定したのですか?
実は走り始める前はさほど準備しませんでした。というのも、数日だったらまだしも、長期の旅行でしたから、先々まで前もって考えるのはあまりに大変だったからです。それで、ほとんどは道々友人や知り合ったサイクリストと話をしながら決めていきました。
ちなみにこのサイトはとても参考になりました。http://www.canadabybicycle.com/
その日その日のゴール地点の決め方についてはどうですか?
日々、どれだけ進むことができるかは天候が大きな決め手となりましたね。1日1日、長ければここまで、短ければここまでと事前に設定しておき、より長い方のゴール地点まで進めるようにと思いながら走行しましたが、強風や嵐に遭って短い距離で1日を終えることもありました。
旅のなかで食料を調達するのには問題がなかったですか?
食料を調達するために町に行ける行程にしたり、サイクリスト向けのサイトに載っていた手順でキャンプ用の食料を前もって準備したりしました。でも何度か、町に着いた時にはもう店が閉まっていたこともあって、そんなときにはレストランの人に頼み込んで特別に食べ物を用意してもらったこともありました。出会った人たちがみんなとても親切にしてくれたおかげで、はらぺこにはならずにすみました。
何泊くらいテントに泊まったのですか?
旅行中の半分はテントで泊まりました。かなり雨に降られたのですが、そんな時にホステルや安価なモーテルを利用しました。親切な友人たちが一緒にステイしてくれることもありました。
フクシマさんのパッキングの写真を見ると、装備はかなり絞り込んでいるように思いましたが、旅を終えてみて、十分な装備だったと感じていますか?
十分でしたね。他にも持ってくればよかったと感じることはほとんどなかったです。
逆に、持ちすぎているような気がして、いろんな場面で使えないものは途中で家に送りました。わたしたちはわずかな物があれば生きていけて、それでハッピーなんですよね。
長時間の自転車走行で体を壊すことはありませんでしたか?
最初の1週間にほとんどのダメージが集中しました。筋肉や関節の痛みです。でも次第に体が慣れてきて、残りの2カ月間は脚力も強くなって痛みを覚えることもなく、怪我もなく乗り切ることができました。
日頃、体力をつけるトレーニングをしていましたか?
通常の自転車走行とマウンテンバイクに乗ることはしていました。また、武道やアイスホッケーをしていたおかげで心肺機能が高まったり、足の筋肉が強くなったりしたのですが、旅行中、特に集中してエネルギーが必要だった場面ではその力が大いに助けになってくれたと思っています。
旅立ち前に実際に直面する天候や路面状況、人々との出会いなど、あれこれ想定したイメージがあったことと思いますが、予想外だったことはどんなことでしたか?
バンクーバーから離れてこんなに雨に遭うとは思いませんでした。BC外の州から来た人たちはだいたいバンクーバーの天候に文句を言いますから、ひとたびBCを離れたら、とても晴天に恵まれるものと思っていたのです。でもカナダ横断中、バンクーバーで経験しないほど雨や嵐に遭遇しました。それは自分にとって非常にショックでしたね。
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予想外だったことの一つは、カナダ横断のチャレンジを完遂して「喜びがしだいに寂しさに変わっていったこと」と語っていたフクシマさん。応援してくれる家族や友人たち、道すがら出会った人々の好意、表情を変えるカナダの風景、旅行中の旅の思い出がぎっしりつまったフクシマさんのブログはこちらから見ることができる。http://adrenalens.ca/blog/ 現在(10月末)は個人的な理由でインドをバックパッキングでの長期旅行中。挑戦し続ける彼の姿もウェブサイトhttp://adrenalens.caでアップ中だ。
(取材 平野香利)
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