―JIFHでは海外でどのよ うな支援活動を行っています か。
飢餓や貧困に苦しむ人たち の地域で、その地域を熟知し ている団体と協力して、「善隣 共生」―よき隣人として共に 生きていこうという精神で活 動しています。内容は食糧や 技術支援だけでなく、心の面 もという、物心両面の飢餓に 対しての支援です。どんなに 豊かになっても奪い争いをし ていれば貧しさに終わりはあ りませんから。 3年前からは「ハンガー・ 「前にご飯を食べたのはいつだったの?」 エチオピアで出会ったやせ細った少女 に田村さんが声をかけると、しばらく考 え込んだ後、少女が語ったのは「ひと 月くらい前……」の言葉だった。世界 の飢餓人口約9 億人。5 秒に一人の子 供が飢餓で亡くなっている。その同じ 地球の上に飽食三昧の私たちが生きて いる。 ―「善隣共生」の精神で、物心両面の 飢餓対策を推進― 貧困国の現状を目の当たりにした日 本人女性が1981 年に自宅の一室で 始めた支援活動。それが発展して現 在の日本国際飢餓対策機構(Japan I n t e r n a t i o n a l F o o d f o r t h e Hungry—以下JIFH)がある。イエ ス・キリストの精神に基づいて活動す るこの組織で、田村治郎さんは日本国 内の啓発部門のリーダーを務めている。 9 月半ばのシアトルでの講演会に先立 ち、バンクーバー在住でJIFH に勤務 経験のある村松勝美牧師のもとへ立ち 寄った田村さんに話を聞いた。 新報インタビュー 世界の飢餓−私たちのできることとは 一般財団法人・ 日本国際飢餓対策機構 田村治郎さんに聞く ケニヤ、スラム地区ソウェトの子供たち( 写真提供JIFH) 平和を作っていく 人財の育成です。
―平和を願うの ではなく、平和 を作っていく…。
今広島に赴任 して暮らし、事務 所がある沖縄に もよく行き、沖 縄の歴史を学び、 それぞれの地域 での種々の平和活 動に接しますが、 平和活動という 名のもとで、自分とは違うイデオロギーを拒絶 し叩いている姿を見るたびに、 そこに平和が実現するのだろ うかと疑問を感じます。 自分とは違う他者を糾弾す るのでなく、他者を受け止め 学んでいく―そんな人財の育 成者を私たちは支援していま す。食糧・技術支援ももちろ ん大切ですが、飢餓貧困の解 決の鍵は﹁人﹂だと思ってい ます。どんなにいいシステム や方法が生まれても、悪用さ れてはそれでおしまいですか ら。 もちろん現状の飢餓貧困に は複合的な要素や人の欲望が からみあっています。その現 実をばっさりと切るのではな く、解きほぐしていく。それ をピンポイントでやっていく。 そうした活動を不毛と言う人 もいるかもしれませんが、実 際変わっていますからね。人々 の変化した瞳を見たときに私 たちは希望を見出します。
―日本国内ではどのような活 動を?
世界の現実を伝えて国内の 人たちに援助者となってもら うだけでなく、世界の貧困は 私たちの生活と無縁ではない との理解を深めてもらいたい と思っています。例えば日本 の食料自給率は 40 パーセント を切っているように、食糧を 海外から大量に輸入する一方 で、年間 1950万トンも食 糧を廃棄しています。それは 世界の年間の食料支援量の2 倍に匹敵するといわれる量で す。私たちの﹁もっと、もっと﹂ という欲求や行動が、世界の アンバランスを作り出すこと にもつながっています。貧困 な国への募金や、特別な行動 だけが支援ではなくて、私た ち自身が﹁足るを知る﹂生き 方に変えていくことも支援なのだと、そうしたことを学校 などで伝えていく、いわゆる 啓発の働きをするのが私の責 任なんです。
―世界食料デーに向けての活 動があるそうですね。
世界の食糧問題を考え、飢 餓のない世界を作り上げるた めに国連が制定した 10 月 16 日 の世界食料デーを中心に、私 どもはこの趣旨に地域の賛同してくださる方々と協力して 毎年世界食料デー大会という ものを開いています。北は東 北から南は沖縄まで 20 カ所で コンサートや講演会などを行 います。今年は子供をテーマ に、途上国に生きる子供たち の現状と彼らのうちにある可 能性と希望についてお伝えし たいと思っています。
温和な語り口ながら、世界 の人々の姿を見て、深く思い、 考えに考えて培われたところ から発せられる言葉が、聞き 手の奥深くに響いてくる。全 国各地から頻繁に依頼を受け て、講演している田村さん。 その聞き手たちも同じ思いで あるに違いない。 (取材 平野香利)
冒頭のエチオピアの少女と出会ったのは、田村さんが39歳の時。保護したスタッフによれば11、12 歳らしかったが5歳程度にしか見えない小さくやせ細った体だった。貧しさのため家族みんなが死んでいき、その家族の死体の横で少女がぽつんとたたずんでいたところを救護団体が保護したという。田村さんの中で、少女に幼いわが子たちの姿が重なった。この子がわが子だったら……。牧師として、それまでも不良少年の更生にあたったり、人に道を説いたりと、それなりに何かしてきたつもりだった。しかし「この少女に口先だけでしか関われない自分っていったい何なんだろう……」。その時聖書にある「子供たちよ。わたしたちは言葉や口先だけでなく、行いと真実を持って愛し合おうではないか」の言葉が頭の中で
ぐるぐると回ったのだという。
ルワンダのある集落で撮られた1 枚の写真。そこには休憩 中と思える男女が写っている。田村さんの説明では、女性 は部族間の争いのために、斧で切りつけられ顔が変形する ほどの大きな傷を負い、指も数本失ったのだという。そし てその女性の隣に座っている男性が切りつけた張本人なの だと。何ら荒々しさのない表情で一つのベンチに隣同士で 腰掛けている二人……。 部族間の結婚も普通であるこの地域では、ひとたび部族 同士の争いが起こると、親族に殺傷されることもある。し かし、敵味方となり深い傷を負っても貧困な彼らは逃げる こともできず、同じ場所で生き続けるしか道はない。そし て恨みを抱き続け、報復を繰り返していく……。しかしこ の写真の二人にそんな怨念の情が見られないのはなぜか。 そこにはJIFH の支援する現地の団体「REACH」の存 在があった。リーチは、こうした負の連鎖を断ち切ろうと、 被害者、加害者一人一人と向き合いながら彼らの関係に赦 しと和解、修復を手助けしているのである。 リーチのスタッフは被害者の気持ちに寄り添い、とこと ん話を聞く。そして加害者に対しても、人を殺めた苦しい 胸のうちを聞いていく。機が熟した頃を見計らい、両者が 同席する場を作り、被害者の声を加害者に届ける。その後、 加害者の気持ちを語る場も作る。そうして互いの思いを知 るうち、心が軽くなっていく人が現れるという。「もちろん みんながみんなそのように変化するわけではありませんが」 と田村さんは言う。だが確実にそうした赦しと和解による 癒しが実際に起こっているという。極限の苦しみを味わっ ているからこそ、生きるためにその苦しみから抜け出したい、 自分を苦しめる憎しみと言う心の毒を消す究極の選択とし て赦しを選んでいくのだろうと田村さんは感じている。
581-0032 大阪府八尾市弓削町3-74-1
Tel:072-920-2225
http://www.jifh.org
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日本国外からの支援も受け付けている。
詳しくはウェブサイトから。