今この瞬間に地震が起きたら?

「今この瞬間に地震が起きたとします。あなたの家族はどう行動することになっていますか?」
「わかりません」というなんともみっともない返事と同時に、祖母の家で留守番をしている子供たちのことが頭によぎった。今、この瞬間、地震が起こってしまうと一体子供たちはどうなってしまうのだろう。建物が崩壊し、電話やインターネットなどのコミュニケーションの手段は遮断される。夫婦共に仕事で外出しているとなれば、言うまでもなく、一家揃ってパニックに陥るだろう。
だが、幼児2人、大人2人から構成する4人家族の小川さんの家庭では、ふだんから災害などの非常時に備えて色んなシナリオを想定し、どんな状況に陥っても冷静に対処できるように心がけているという。「例えば今大地震が起きたら、子供たちはデイケア、奥さんは仕事なので、まずは僕が子供たちを迎えに行って、自宅に向かいます。もし家が危険な状態である、または崩壊していたら、近所の決めてある公園で奥さんを待つことになっています」と淡々とシナリオに沿っての計画を話す。「防災はただ防災キットを揃えるだけじゃないんです。ふだんから家族と話し合って、災害が起きた場合、家族の安否確認はどうするか、携帯電話が使えない場合はどうやってコミュニケーションをとるか、避難場所はどこかにするか、日中なら誰が子供たちを迎えに行くかなど、各家庭の事情にあわせて、しっかりと決めておく必要があります」と、災害時に備えて家族で詳しく話し合っておくことの大切さを強調する。
実際のところ、2004年の新潟県中越大震災(死者68人、負傷者4805人)の3年後に、再度起こった新潟県中越沖大震災(死者15人、負傷者2345人)の際には、同じマグニチュードの地震であったにも関わらず、前回の震災の経験から住民が防災に関して理解し準備していたため、死者、負傷者とも被害が少なく済んだという。防災に関するしっかりした認識が多くの人々の命を救った良い例である。

震災に直面したらどうするか?

日本とカナダの防災対策の違い

地震国である日本とカナダでは防災対策は違うという。例えば日本の学校で避難訓練の一連として地震の際には机の下に潜るというドリルを経験した読者は少なくないだろう。日本の消防法は厳しく、テーブルにしろ机にしろ家具は燃えにくい素材を使った耐震性の高いものだ。だが地震をあまり経験していないカナダではそんな法律が無いため、地震の際に机に潜ったとしてもそのまま机が壊れ下敷きになる可能性もあり、逆に危険なようにも感じる。それは家具だけにとどまらず建物に関しても耐震性の基準が日本に比べて低いという。
また日本では災害に遭うと避難場所として学校や公民館などの公共の場所へ集まり助けを待つのが一般的だが、大きな被害をもたらす自然災害を経験していないカナダでは、マニュアルは一応作製されていても、一般への普及にいたっていないため、特定の場所へ避難するという認識はないようだ。
ではカナダで震災に遭った時にはどうするか?例えば、避難訓練にしては学校によって指導内容が違うらしく、机や家具などを45度の傾斜にして積むことで上からものが落ちてこないように身を守れと指導しているところもある。地震で揺れている際に果たしてそんなことをする余裕があるかどうか少々疑問も残るが、「要は、状況に応じて臨機応変に対応することが大切だ」と言う。
また避難場所が必要な際は、学校や公民館など特定の場所へ集まるという住民の意識がないので、とりあえず公園など広い場所へ移動し様子を見るのが好ましい。

I がWeになるコミュニティーを目指して

過去の経験を踏まえ、今回被災地に入った際には、特に地域コミュニティーの絆の深さに感銘を受けたという小川さん。窮地に追い込まれながらも、被災者同士がお互いに助け合っている姿を前にして、人としての原点に戻った。被災して大切な人たちを失い、家を失い、財産を失い、孤独な時、助けてくるのは人と人の間で生じる絆なのだ。移民国家であるカナダに住んでいると、ご近所さんは○○人だから、文化が違うからなどの理由で、ついつい個人の主張が強くなってしまいがちで、日本のような近所付合いができないことが多いかもれしれない。だが窮地に追い込まれたとき、助けてくれるのはそんな隣人だったりもする。「自分のことばかり考えるんじゃなくて、IがWeになってくれるコミュニティーができて欲しいですね」と常日頃からご近所さんとも仲良くしておきたいと小川さんは話す。

 

小川学 プロフィール

1976年 千葉県九十九里町生まれ
1998年 山武郡市広域行政組合消防本部にて消防吏員 拝命、消防・救助・救急隊員として活躍
2003年 渡加
2006年 Body Project & Co.設立

現在もBody Project & Coの代表として、日本・カナダ代表選手から一般スポーツ愛好家の体調管理/マネージングまで幅広く活動中。仕事の傍ら日本警察消防スポーツ連盟カナダ支部長として自身の経験を踏まえた防災意識・リスクマネージメント向上にも努めている。
◆Body Project & Co:www.bodyprojectfamily.com
◆日本警察消防スポーツ連盟事務局:www17.ocn.ne.jp/~jpfsf/index2.html
◆Japan Police Fire Sports Federation Canada Branch (Facebook)
■参照
ja.wikipedia.org/wiki/新潟県中越地震
ja.wikipedia.org/wiki/新潟県中越沖地震
(取材 小林昌子)

後編では防災用品チェックリストを紹介する。

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。