2019年5月16日 第20号

ブリティッシュ・コロンビア州ポートムーディー市で開催中(5月26日まで)のローカルの写真家7人による写真展『ワンフォト、ワンソート(One Photo, One Thought)』のレセプションが5月4日に開かれた。それぞれの写し取った世界を観ながらの来場者約40人の会話は尽きなかった。

展示に作品を寄せたのはマイク平田さん、松本守隆さん、Kaiさん、中村“Manto”真人さん、後藤えむさん、サミー高橋さん、マイケル・ボクソールさん。皆、後藤えむさんが主宰する月刊ウェブマガジン「クレイドル・アワ・スピリット(Cradle Our Spirit!)」 内の写真コラム「一写入魂」に投稿するメンバーである。合同写真展を開くのは今回が4回目。7人の作品が一堂に会することで、それぞれの視点が浮き彫りになった。

 

世界は見たいものにあふれている!

Destinations of Lifetime

 一生に一度は行きたい、そんな世界の憧れの地を訪れ、「偶然の光の輝き」にフォーカスしたのはマイク平田さん。 広角レンズで捉えられたアリゾナ、アンテロープキャニオンは、天井から差し込む光を受けてゾクゾクするような神秘の赤が立ち上がり、光沢のある大きなパネルからダイナミックに迫ってきた。

地中海クルーズでの経験

 「青というのはこの色のことなんですね!」と声がもれていたのは、ギリシャ領のサントリーニ島の高台から地中海を写した松本守隆さんの作品。太陽の位置、光の強弱を鑑み、絶妙なタイミングで海の青をカメラに収めた。イタリア・ベニスの運河を行くゴンドラのガイドの表情からは歌声が聞こえてくるようだ。平田さん、松本さん、二人の作品は人を旅へと駆り立てる。

生き物たちの美が伝えるもの

癒しの海

 水しぶきがキャンパスから飛んできそうな波、海辺の白頭鷲、クジラ——「癒しの海」をテーマにしたのは動物ヒーラーKaiさんの作品。「海は、人のニーズに対応できるキャパが少なくなってきているうえ、人のグリード(欲望)には耐えきれなくなっています」と海洋汚染の深刻さを思い、海で生きる物たちの姿を通じてメッセージを伝えた。

大自然の中の野鳥と動物たち

 鋭利なくちばしを正面に向けて飛んでくる鳥、絵画のような羽ばたき——誰もが「どうやって撮ったのか」と聞いてしまうのは世界のスポーツ、ポートレート、そして自然を描写するプロ写真家・中村“Manto”真人さんの作品だ。一瞬に満たない時の中に、大自然の野鳥と動物たちの生き様を凝縮する。撮影後の写真加工は一切なし。それを捉えるのは卓越した技術と動きを知るための生態の研究、ねばりこんで観察し続けること、さらにそれを支える強い思いがあるとわかる。野生の尊い命が息づく美しい写真は「私たちが驕らず、この自然を守り整えよ」と何よりも雄弁に語っている。

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「ある日、海岸で」

 後藤えむさんの作品は、ウエストバンクーバーの海辺の風景写真。日頃目にする何気ない日常風景ながら、捉えたその視線は静かで温かい。「写真って、真実を写す、と書きますが、私はエナジーヒーラーなので、光という宇宙エネルギーの瞬間の真実をキャッチして、それをカメラに閉じ込めました。“光”の中にある解き放ちや豊かさや浄化の力を感じてもらえたら」(えむさん)。

庭先のハミングバード

 サミー高橋さんの自宅の庭の赤い花を目がけてやってくるハミングバード。小さい身体で1秒に80回近い羽ばたきをする懸命な姿とつぶらな瞳に、撮影者の心の中のファンタジーの世界が映し出されている。サミーさんの一連の写真を観て「『ハミングバードに恋をして』って感じですね」とタイトルを付けた人がいた。

“シェイプシフター”としてのカメラ

 人が普段見過ごしてしまう、事物の驚くべき表情をバンと見せつける媒体であるカメラ。そのカメラをマイケル・ボクソールさんはファンタジーの世界に登場する“シェイプシフター”と呼ぶ。自分の意志で自由にその姿を変える存在のことだ。「マリファナよりも自分をエキサイトさせる」その“シェイプシフター”は、道端の石を捉えた。作品に向き合うと、自分を見ているようにも、石に見られているようにも感じる。命名の理由がわかる気がしてくる不思議な作品だ。

 

 バラエティーに富んだ写真作品を通して、写真の可能性と被写体への向き合い方を学べる本展示会。参加メンバーは早くも来年に向けて作品作りを構想中だ。

 

写真展『One Photo, One Thought』(5月26日まで)
会場:Gallery Bistro
住所:2411 Clark Street, Port Moody(スカイトレインの最寄り駅 Moody Centre Station)
電話:604-937-0998
営業時間:水曜〜日曜日 午前10時〜午後2時半

(取材 平野香利/写真提供 Manto Artworks)

 

写真器材の販売店経営経験を持つマイク平田さんは、ヨルダンの遺跡でのダブルレインボー、マウント・シーモアの樹氷など、自然と遺跡の貴重なシーンにフォーカス

 

ベニスの街で買った猫の仮面を着けて「クルーズでの地中海への旅行は、光線の強弱が実感できると同時に、目的地に近づくほど高まっていく期待と興奮が楽しめます」と松本守隆さん

 

日本帰国中で参加はできなかったKaiさんは海と生き物への思いを写真に託した

 

14時間ねばって撮ったフクロウの華麗な飛翔をはじめ、数々の自然のドラマを見せた中村『Manto』真人さんは、この日も娘のソフィさんとともに撮影で活躍

 

「一瞬一瞬にフォーカスすることはマインドフルネス。瞬間を甘受することで未来につながります」とカメラマン的日常の過ごし方のメリットを語る後藤えむさん

 

「放課後に好きな女の子が学校から出てくるのを待つようなドキドキする思い」とハミングバードを待つ心境を語るサミー高橋さん。イベントの火付け役として欠かせない存在だ

 

カメラ独自の視点に魅了されているというマイケル・ボクソールさんは展示会に作品の広がりを与えた

 

写真が記念であり、写真展の写真もまた記念となる

 

作品の自由な発想を目にして夢も膨らむ

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。