2018年2月8日 第6号

『The Octopus Eats Its Own Leg』は、現代美術家・村上隆さんのカナダ初の回顧展だ。同展に先駆けて開催したシカゴ美術館では、過去最多入場者数を記録した。

新作も加えて集められた60点あまりの絵画や彫刻には、村上さんの30年が凝縮されている。

この回顧展はバンクーバーアートギャラリーにて、2018年2月3日(土)から5月6日(日)まで開催されている。

 

村上隆さんと「Waterfall appears in the Ocean! In Its Midst, Kraken!」(2018)

 

 村上さんは作品の公開に先立った記者会見で、回顧展の題『The Octopus Eats Its Own Leg』について、「自分は才能がないから、タコが食べ物に困ると自分の体の一部を食べるように、同じモチーフや以前の作品で使ったキャラクターをリサイクルしている」という自嘲的な意味があると説明した。

 美術館の中だけではなく街の人も巻き込みたいと着想したのが、新古典主義建築の美術館の外観を使った巨大ダコのインスタレーションだ。ジョージア通りから美術館正面を見ると、コートハウスのドームは愛らしい大きな目玉を持つタコの頭部となり、両翼では無数のタコの手足がうごめいている。中央のドクロの絵は、新作「Waterfall appears in the Ocean! In Its Midst, Kraken!」を拡大したものだ。

 村上さんの巨大ダコが怪獣映画さながら、バンクーバーアートギャラリーを占拠するかのようでもあるし、威厳ある美術館がサーカスのテントになったような親しみも感じる。子供の心をくすぐるように誘っている。「美術館においでよ!」。

 回顧展では、80年代東京芸術大学で日本画を学んでいた頃の作品から、90年代渡米し、フィギュア・アニメなど、いわゆる日本のオタク文化を村上さん流に欧米の観客に向けて発表した作品「DOB」や、『スーパーフラット』と呼ばれる芸術運動を巻き起こした時代の作品「フラワーボール」、ルイ・ヴィトンなど高級ブランドとの共同制作とともに評判となったミュージシャン、カニエ・ウェスト関連の作品、美術史家・辻惟雄さんとの対談から生まれた「Dragon in Clouds - Indigo Blue」、2011年東日本大震災を契機に制作した作品の一つ「百羅漢図」などが一堂に会している。

 国際的に最も高い評価を得ている現代美術家の一人とされている村上さんの、ポップな面だけではなく、日本画や琳派の研究などに裏打ちされた高い芸術性を見ることができる。

 会場には、ウルトラマンの特撮美術監督で彫刻家の成田亨さんの怪獣や、歌川国芳の浮世絵、水木しげるさんの妖怪などを思い起こさせる作品もある。作品の意図は、必ずしも、その文化を体験した人が感じるものと同じものではない。観客は、村上さんの多岐にわたるモチーフの中に自分の視点では見えていなかったものを再発見するかもしれない。

 村上さんは、日本ではアニメ「6HP」を制作、世界各国での個展も同時進行、多くの社員を抱えるカイカイキキギャラリーも経営している。酒もドラッグもやらないが自分は仕事中毒だ、と村上さんは言う。制作過程では、アニメや映画の制作のようにコンピューターを駆使するなど多くのスタッフが関わっている。今回の展示も100人あまりが関わっている。

 村上さんは、芸術家が触れたがらないお金についても率直に話す。

 「顧客からは、“フラワー”を作ってくれと言われることも多い。お金を得るためとしてやるが、それだけではつまらない。絵画で収入を得て、時間や費用のかかるSF映画の製作や絵画の大作に取り組める」

 『青ダコカモ君』 の帽子をかぶり笑顔を振りまくのも、「この方がメディアに取り上げられるから!」。

 村上さんの作品は、オークションで高値で取引されることでも有名だが、自身も現代美術や陶芸などの蒐集家(しゅうしゅうか)だ。身をもって学びながら集めたものを、一昨年横浜美術館で展示した。村上さんは、西洋の現代美術のルールを熟知して作品を制作し、ガゴシアンなど世界のトップクラスの画廊とわたり合いつつ、芸術とは何か、芸術の価値とは、と問い続けている人でもある。

 そうした駆け引きに疲弊する芸術家もいる。同世代の現代美術家、奈良美智さんは、そんなマーケットに嫌気がさして露出を控えるようになっていたが、今月から長年の友人である村上さんのカイカイキキギャラリーのレプレゼント(取り扱い作家)となった。村上さんは、「ようやく来てくれた」と話していた。

 今回の新作の一つ「Tragicomedy of a Painter Living Day In and Day Out in His Studio Haunted By Deadlines」の、本人による解説が面白い。この作品は未完成なのだ。締め切りに間に合わなかったのだそうだ。解説がなければ未完と気づかない人も多いだろう。同じ展示室にある村上さんの最高傑作の一つ、「Tan Tan Bo Puking - a.k.a. Gero Tan」も、当初展示された時は実は6割しか完成していなかった、と告白している。

 友人や子供とインスタ映えする写真を撮るのもよし、一人で訪ねてじっくり村上さんの世界観に浸るのも楽しめる回顧展だ。

 

「The Octopus Eats Its Own Leg」
Vancouver Art Gallery750 Hornby Street, Vancouver
http://www.vanartgallery.bc.ca/murakami/
日曜日は大人の同伴で12歳以下の子供は無料、ファミリープログラムも開催。
詳しくはウェブサイトをご覧ください。 
2018年5月6日まで。

 

 

Tojo's Restaurant 東條英員さん
VIPパーティーで寿司パフォーマンス

 2月1日の村上隆さんの誕生日に合わせて、2日「Murakami’s Birthday Bash and After Party」が開かれた。日本を代表する現代美術家のイベントに、日加修好90周年をプロモートする岡井朝子在バンクーバー日本国総領事が、夫君の岡井知明氏と共に、お祝いに駆けつけた。

 バンクーバーアートギャラリーのファンドレイジングを兼ねて販売された入場料は$1000のVIPパーティー。会場では村上さんとの写真撮影、回顧展のプレビュー、ディナー、DJパーティーなどが催された。

 その中で目を引いたのが、バンクーバー市内の日本食レストランTojo’sの東條英員さんによる、寿司のパフォーマンスだ。

 ギャラリーの入り口には東條さんのためにライトアップされたステージが設けられ、天井には寿司名人の手元が見えるように鏡も配置されている凝りよう。 

 東條さんは、 3カ月ほど前に関係者から「村上さんの代表作『フラワー』をイメージした寿司を考えてほしい」と打診され、手まり寿司をアレンジしたTojo’s 風 フラワー寿司を提案した。ビーガン(完全菜食主義)や、グルテンフリー対応の寿司などの希望に応えつつ、海苔を好まない北米の客がいることを考え、薄焼き卵でロールを巻いたり、パーティーに来た客が服を汚さず、つまめるようにマグロには醤油あんを施したり、細かい配慮でパーティーの客を迎えた。

 「和風でありながらも北米の人々を惹き付ける料理を生み出すことが自分の仕事」として創作寿司に取り組む東條さんは、2016年農林水産省から「日本食普及の親善大使」にも任命されている。東條さんは村上さんと言葉を交わした時、通じるものがあったと話していた。

 シアトルやロサンゼルスから、村上さんの回顧展を見に来た観客は、東條さんの職人技に大喜び。一緒に写真を撮ってほしいという要望が相次ぎ、東條さんは笑顔で応えていた。

(取材 大倉野昌子)

 

 

村上隆さん 青ダコカモ君

 

バンクーバーアートギャラリー

 

「DOB in The Strange Forest」(1999)

 

「Flowerball 3D」 (2008)

 

「Tragicomedy of a Painter Living Day In and Day Out in His Studio Haunted By Deadlines」(2018)

 

Tojo’s 東條英員さん、Tojo’s 風 フラワー寿司(写真撮影 斉藤光一)

 

村上隆さん(右)、東條英員さん(写真撮影 斉藤光一)

 

岡井朝子在バンクーバー日本国総領事(左)と夫君の岡井知明氏(右)、東條英員さん(中央)(写真撮影 斉藤光一)

 

 

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