2017年7月27日 第30号

「広島で頑張ることがバンクーバーで応援してもらった人への恩返し」

昨年バンクーバー・ホワイトキャップスFCで活躍した工藤壮人選手。日本で培ったサッカーセンスと人懐っこい人柄でサポーターから絶大な人気を誇っていた。

しかし昨年末にJリーグ・サンフレッチェ広島に電撃移籍。工藤選手もファンも、別れのあいさつをすることなく今季のシーズンに突入した。 そこで今回は広島県安芸高田市吉田町にあるサンフレッチェの練習場吉田サッカー公園に6月19日工藤選手を訪ねた。インタビューに現れた工藤選手は真っ黒に日焼けし、相変わらずの人懐っこい笑顔を見せた。

 

J1第2節、清水エスパルス戦。3月4日エディオンスタジアム広島(写真©2017 S.FC)

 

ホワイトキャップスとの契約を残しての移籍

 工藤選手がホワイトキャップスに入団したのは2016年1月。2年契約で、今季もホワイトキャップスのフォワードとしてシーズンを迎えるはずだった。しかし2016年12月31日、突然の移籍発表。何が工藤選手を突き動かしたのか?

 決め手はやはり広島からの熱いラブコールだったという。「ホワイトキャップスに正直残るつもりでしたし、11月中旬くらいには日本に帰ってきたので、その時には来年も1月にまたバンクーバーに戻って、チーム始動に備えていたんです」。

 帰国してサンフレッチェから連絡があった時に一度は断ったが、「もう一度話をしたいと言われて」。もともとホワイトキャップスに移籍する前から「話はもらっていました」という。しかし昨年は、サンフレッチェでオフシーズンにFW佐藤寿人選手の退団があり、どうしてもフォワードが必要との事情があった。

 一方、ホワイトキャップスとの昨シーズンオフの話し合いでは、チーム成績から得点力不足解消は必至で、「カール・ロビンソン監督やGM(ジェネラルマネージャー)、強化部長と話して、来年はチームの中での立ち位置は厳しくなる」と告げられた。現在活躍するFWモンテロ選手や他にもフォワードを獲得する予定だと言われた。「だから、絶対に試合に使ってあげられる保証はないし、だけど1人の戦力としてはちゃんとみていると。でも、今年よりは厳しい状況になるかもしれないと言われて」。それでも「分かりました」と言って今季に備えていた。

 しかし広島と改めて話し合いを持ち、「エースストライカーが抜けて、そこのどうしても次のストライカーになってほしい(と言われて)。タイミングとしてもいろいろ総合的に考えた時に、ここ(広島)でプレーすることの方がいいんではないか、そういう気持ちになったというのがありました」。

 1年契約が残っていたが、ホワイトキャップスが了承し、移籍が決まった。それが昨年暮れの電撃移籍発表となった。今年1月にバンクーバーに戻り、引っ越し、広島で入団会見。バンクーバーのファンにお別れを言う暇もなかった。

 

ホワイトキャップスで学んだこと

 今思えば、工藤選手のホワイトキャップスとしての昨季は激動の1年だった。昨年1月、入団会見に臨んだ工藤選手は、「ゴールを期待されていると思うし、その期待に応えたい」と新チームでの活躍に胸を躍らせていた。

 工藤選手にとっては初移籍、初海外。それまで柏レイソル一筋で活躍し、自分を磨くための海外挑戦の場として、日本ではメジャーではない北米リーグMLS(メジャーリーグサッカー)、しかも、カナダのバンクーバー・ホワイトキャップスを選んだ。

 一方ホワイトキャップスとしても、工藤選手が初めてのアジア系フォワード。それまでにもアジア系選手では、日本人のMF純・マーカス・デイビッドソン選手、小林大悟選手、韓国人のDFイ・ヨンピョ選手が在籍したが、フォワードはいなかった。

 工藤選手の日本での連続年間2桁得点とゴールエリア内での勝負強さを期待しての獲得だった。しかし実際にはなかなか思うようにいかなかった。

 開幕して数試合はMLSに慣れるために途中出場が続いた。これは工藤選手に限ったことではない。4月に入り、徐々に本領を発揮し始め、5月7日にはホームでMLS初ゴール。ここまでは順調だった。

 しかし5月11日、相手ゴールキーパーと衝突し、アゴを骨折する大ケガ。復帰に約2カ月を要した。復帰後はなかなか結果が出せない日が続いた。チームの状況も決してよくはなかった。後半は試合に出場する機会すら減った。そんな中で自分が必要とされているのか、もがく日々が続いた。

 「結果がでないチーム状況の中でも、少しでも自分自身がどう良くなっていくか、チームがダメでも個人的にどう成長していくか、というところは日々考えながらプレーするしかないですね」。昨季のホワイトキャップスでの教訓だ。

 今季のサンフレッチェはと言えば、開幕から勝ち星に恵まれず、厳しい状況が続いた。昨年のホワイトキャップスの状況と重なる。「去年と一緒で、今年もここ数試合は先週の試合とかは出場なしとか続いてる中で、もちろん、悔しい気持ちはあります」。しかし、「去年の経験っていうか、異国の地でプレッシャーがある中で、試合に出たい、だけど、出れない。チームに貢献したいけど、貢献できない状況を数多く経験したので、その経験っていうのはある意味、今年に生きてるのかなって。そういう悔しい中でも自分自身は何をしなければいけないのかを自分で整理して、日々の練習から気持ち入れて取り組んでっていうことはできますね」。

 フィジカルが強い北米リーグで、個を前面に押し出すラテン系選手が多いホワイトキャップスで、Jリーグでは体験できない経験もした。オフにはフィジカル強化をやりたいとも語っていた。「あそこで得たもの、感じたものっていうのは、これから代表とか目指していきたいと思っているので、外に出た時に、代表で他の国の選手と戦った時に生きてくると思いますし、この課題っていうのは、ここに戻ってもしっかりと生きてくるんじゃないかなって思ってます」。

 

バンクーバーが恋しいと思うことも

 「ほんとに改めて素晴らしい環境だったなって思います」と振り返った。気にかけてホワイトキャップスのSNSをチェックしている。「チーム全体、選手もそうですけど、スタッフも含めて、みんなの優しさとかがなければ、確実に去年の向こうでの生活はストレスになっていたと思う」。

 昨年の6月頃は大ケガからのリハビリに取り組んでいた。「そういうところも、今思えば、あそこでケガしたことで、良くも悪くも改めてこんなに優しくサポートというか、ファミリーとして受け入れてくれてるんだなっていうのを実感したのはありましたね」。

 それはサポーターも同じ。「サポーターもほんとにいつも声かけてもらって。そういう意味では、ストレスなく、出られる出られないにかかわらず、選手としてサポーターとの関係とか、アジア人に対しても偏見がないですし、良かったですね」。

 この時期は特にバンクーバーが「恋しい」という。夫人と一緒に「『恋しいね』って言ってましたもん、こないだ」と笑った。6月後半といえばバンクーバーは爽やかな季節。梅雨時の日本とは大違い。「ほんとに好きになったんで、住んでみて。またタイミングが合えば、『帰りたい』っていう感じはありますね。ほんといい街でした。住みやすいし。特にこの時期ね」と笑った。

 

サンフレッチェと広島という街

 東京出身、Jリーグでは柏一筋。広島の印象を「改めて広島の県民性というか、カープのこともそうだけど、今のサンフレッチェなんか特に、結果が出てなくて、自分たちが応援しなきゃいけないではなくて、応援が足りないからだくらいの感じで。サンフレッチェやカープを誇りに思っている、そういう県民性は感じますね」と語った。

 「ほんとに、カープも、サンフレッチェも、(広島の人は)スポーツに対する熱さがありますね。来てびっくりしました。今は(カープとは成績が)比べものにならないけど、サンフレッチェも少しでも近づいて、結果を残さなくてはいけないなと思いますね」。

 サポーターとのいい距離感も広島の心地良さという。練習場でも終わった後、遠い練習場まで駆け付けたファンとの触れ合いを楽しんでいた。

 「(広島の)街中でも気軽に声をかけてもらって、『頑張ってくださいね』って感じで」。もともとファンから声をかけられるのは嫌じゃない。バンクーバーでもいつでも声をかけてくださいと言っていた。コミュニティのイベントにも積極的に参加した。そうしたサポーターやファンへの接し方がバンクーバーでも人気の理由だった。

 「なんかこう、サポーターといい距離感で接することができるっていうか。そこは広島のいいところだなとは思います」。バンクーバーでは逆にあまり街中で気づかれることがなかったけど、と笑った。

 

「工藤がんばってるなって思われるよう頑張りたい」

 「日本人のコミュニティも含めて、大きな応援をしてもらって、去年はそれに結果で応えることができなかったですけど」と振り返った。「帰国して改めてバンクーバーの良さというか、住みやすさというかを感じることが多かったですね」。

 日系コミュニティにも積極的に参加。いろいろと思い出があるようだ。「去年、ああしとけば良かったな、こうしとけば良かったなっていうのは、今改めてすごい感じます」と笑った。

 「また戻りたいっていう気持ちは常にありますし、こっちに帰ってきても気にしてもらっていると聞いてますし、僕もバンクーバーもキャップスも気にかけているので、バンクーバーにいるファンに工藤がんばってるなって気にしてもらえるように、いい報告が届くように、少しでも試合に出て、ゴールを決めて、活躍したいと思います」。

 機会があれば「1週間とかね、帰りたいですよね。みんなの顔を見に行くだけでも、バンクーバーを感じるだけ感じてね」。そして「この時期ね」と笑った。

 

サンフレッチェ広島
広島に本拠地を置くJ1チーム。2012年から5年で3回優勝に導いた森保一監督が、今年7月に今季の成績不振を理由に辞任。ヤン・ヨンソン新監督を迎えた。現在17位。

 

(取材 三島直美)

 

今年2月にタイのキャンプで行われたムアントン・ユナイテッドとのプレシーズンマッチでゴールを決め喜ぶ工藤選手(写真©2017 S.FC)

 

吉田サッカー公園での練習の様子(写真©2017 S.FC)

 

吉田サッカー公園で、インタビュー後。2017年6月19日

 

練習後ファンのサインに応える工藤選手。2017年6月19日吉田サッカー公園

 

ケガから復帰後、ゴールを決め喜ぶ工藤選手と遠征でのルームメートだったDFパーカー選手。2016年7月16日BCプレース(写真 / 斉藤 光一)

 

試合後ファンに囲まれる工藤選手。2016年3月26日BCプレース(写真 / 斉藤 光一)

 

 

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