2017年3月2日 第9号
2016年のニューブランズウィック・マルチカルチュラル・カウンシルのチャンピオン・オブ・カルチュラル・ダイバーシティ―にディヤノバ百合子さんが所属する「アトランティック・バレー・シアター・オブ・カナダ(Atlantic Ballet Theatre of Canada)」 (以下ABT)が勝者として選ばれた。そして、このバレエ団のサクセスストーリーとして、日本から一人でやってきてバレエダンサーを続けながら国際結婚、子育てもしている百合子さんが紹介されている。そんなマルチタスクをこなしている百合子さんに話を聞いた。
(取材 北風 かんな)
kittiwake dance theatre『くるみ割り人形』ゲスト出演時の「金平糖の精」役 ©Kravetz Photographics
カナダに来るまでの経緯
日本ではバレエ団員になり、バレエを教えながらコンクールに出たり、いろいろな舞台に出ていましたが、ダンサーとして日本で生活していくのはとても大変でした。アルバイトとバレエの踊りと指導をかけ持ちする毎日。
当時の私は海外に出てもっともっとダンサーとして経験を積みたくなり、海外のバレエ団のオーディションを受けることにしました。
最初はカナダのバレエBCや、ロイヤルウィニペグ・バレエのオーディションなど受けましたが、オファーはありませんでした。次にヨーロッパ(ドイツ、アムステルダム、ベルギー)へ。空きがなかったり、私の身長が低すぎると言われたり、実力が足りなかったりと、ことごとく落とされました。もうダメかと思った矢先にビデオを送っていたABTからオファーがあり、ABTに入団することが決まりました。
百合子さんにとってバレエとは
3歳から続けて来たバレエは、私にとって本当になくてはならないものです。踊るのも、見るのも、教えるのも好きです。大好きですが、正直、たまに辛くなったり、嫌になる時もあります。それでも舞台に出てお客さんが喜んでくれると、やっぱりうれしいです。
現在のダンサーとしての思い
ABTに入って14シーズン目になります。最初カナダに着いた時は英語もほとんど話せず、ただ、ここでプロとして踊れるうれしさだけが支えでした。まさかこんなに長くカナダに住み、国際結婚して子どもを授かり、その後もバレエ団復帰に至るとは思ってもいませんでした。私はカナダでバレエダンサーだけではなく、いろいろな経験をしてきました。もし私の体験談が役立つなら、必要な方に伝授していきたいです。ABTではサマー・バレエスクールに日本から参加する生徒のお手伝いもしています。
バレエでのチャレンジ、やりがい、希望など
まず毎朝のトレーニングがチャレンジです。今日はこうやってみよう、こうやったらもっと上手くいくかなとか、きれいに見えるかな、と。私にとってはバレエに懸ける毎日がチャレンジです。自分ができなかったことができたり、観客が喜んでくれたり、息子に私の仕事である踊りを見せることにやりがいを感じます。また、舞台で踊る一方、バレエの指導もしていて、生徒の成長が見られるのもやりがいの一つです。最近日本で踊ることがないので、引退前に両親に踊りを見てもらいたいなと思っています。
同団のバレエ・ダンサー、セルゲイさんとの国際結婚生活
2003年に入団した時にセルゲイと同じ飛行機に乗ってカナダに着きました。その時はもちろんお互い知らない同士だったのですが、セルゲイは一人で不安そうにしている私の姿を覚えているそうです。二人がつきあい始めたのは2006年頃、2009年9月25日に結婚しました。
夫と同じバレエ団で踊ってると、たまに喧嘩もありますが、私にとってはとてもプラスになっています。踊りの悪い点を指摘してくれたり、家で振り付けの復習をすることもできます。一緒に舞台で踊ることもあります。夫を信頼しているので安心して踊れます。今年4月のバレエの演目『オペラ座の怪人』の公演でも一緒に踊るシーンが少しあります。
国際結婚が難しいと感じたのは、苗字を変える時でした。とても時間がかかったのです。夫の祖国ロシアでは、女性と男性でラストネームのスペルが少し違い、それを日本で家庭裁判所に申請をしなければなりませんでした。煩雑な日本の書類の書き込みをカナダでしなければならなかったのが大変でした。
私たちはお互いが持ち寄ったロシアと日本、そして暮らしているカナダ、と三つの文化を感じることができます。ロシアの伝統料理ボルシチを夫のお父さんから習ったり、カナダでターキーを料理してみたり、ここで日本のあんぱんを作ってみたり。
子どもについて
2011年9月11日に長男のキリルが生まれました。名前はロシアの名前ですが、樹理瑠と漢字も当てました。夫は絶対男の子が欲しいと言っていたので、ドクターから男の子だと告知された時の夫のうれしそうな顔がとても印象に残っています。
息子は、家では夫とロシア語、私と日本語、夫と私は英語で話していて、キリルが家で英語を話すのを禁止しています。息子には、健康で、挨拶ができて、人に迷惑をかけない子に育ってほしいです。カナダに住んでいても夫や息子に日本の文化を体験する機会を与えたいので、節分には恵方巻を作って食べ、子どもの日には兜を飾っています。
息子は3歳からバレエを始めました。もし、本人が本格的にやりたいなら応援しますが、無理矢理ダンサーにさせる気はありません。ただ、姿勢や柔軟性や音楽性が養えるので、なるべくバレエを続けてほしいです。夫と息子が同じ舞台を踏んだ時、舞台で笑顔で踊っている息子の姿を見て、感動して涙が出そうになりました。
仕事以外の趣味や活動
家ではお料理をしたり、パズルをしたり。編み物にも挑戦してみたいと思っています。 普段は仕事と子育てと家事に追われ、自分の時間がほどんどありません。
最近コテージを購入しました。週末にそこで家族や友達と過ごすと、気持ちがリラックスします。あまり好きでなかった冬ですが、ソリをして遊んだ後に暖炉で暖まったりして楽しんでいます。
今は息子の日本語学校で子供たちに日本語を教えることにも携わっています。今まで日本語を教えた経験はありませんが、バレエの教えと重なる部分もあります。
これからの抱負
一日一日を大切にし、少しでも自分が納得できる踊りをし、見に来て下さったお客さんに喜んでもらえたら本望です。そして、家族が健康でいられたら幸せです。
カナダで活躍する日本人の一人として舞台で輝く百合子さん。これからも活躍が期待される。
プロフィール:ディヤノバ(Diyanova)百合子
大阪のアートバレエ難波津で故石川恵巳に師事し、短大卒業後バレエ団員として活動、ソリストとして踊る。関西バレエ協会主催の『ドンキホーテ』でキトリの友人役などを踊る。また東京で行われた、日本バレエ協会主催の『パキータ』で主演、ユニーク・バレエ・シアターの堀内完作品の『春の祭典』で主役を務める。2003年からABTに在籍し、現在に至る。ABTではディレクターのイーゴア(Igor)の作品、『メーリン』よりメルリンの母、『アマデウス』より初恋の女、『オペラ座の怪人』よりクリスティーナ役を踊る。ニューファンドランドにて、「キティウェイク・ダンスシアター(kittiwake dance theatre)」 で2014年より3年連続して『くるみ割り人形』で「金平糖の精」としてゲスト出演する。
ガラコンサートのIgorの作品『somnambulist』リハーサル風景 ©Kravetz Photographics
ガラコンサートのIgor作品『somnambulist』舞台写真 ©Kravetz Photographics
ディヤノバ百合子さん ©Kravetz Photographics