2017年1月12日 第2号

引き潮と流れを意味する日系作家による四人展が、バンクーバー市内ビジュアル・スペース・ギャラリーで開催される。ガラスやミクストメディアの立体作品などモノづくりを通して日系の四人のアーティストがそれぞれの思いを表現している。

(取材 北風かんな)

 

 藤田えみさん

藤田えみさん 

 

経歴:東京都出身。多摩美術大学大学院美術研究科修士課程工芸専攻ガラス研究領域修了。神奈川県にて工房を設立。国内外ワークショップにスタッフまたは生徒として参加しながら制作活動を継続。2010年、2013年に奨学生として米国のPilchuck Glass Schoolにて学ぶ。さらに2014年にも同校にて学び、現在はカナダのバンクーバーにてTerminal City Glass Co-opに所属し、活動している。

今回の作品について
 私にはつくりたい空気感があります。私のつくりたい空気感というのは感情をゆさぶるような空気感であり、そこに「せつない」という感覚を込めたいと願っています。

 私は「せつない」という感覚を、うれしい、悲しい、などのはっきりと言葉で表現できる感情の隙間にある曖昧な感覚として捉えています。なぜならせつなさは、個々の人間の記憶や経験といった内側に抱えている事柄に起因して起こる感覚であり「これがせつないということだ」というのはとても難しいことであるように思うからです。ただ、その曖昧さがせつないには必要な要素であり、私はその曖昧さの中にモノをつくることの意味を見いだしています。言葉では表現しきれないことを表現するというところに、モノをつくる意味があるように感じているからです。

 

代表作:『せつないこと』 

 

 

 

竹ノ内直子さん

竹ノ内直子さん 

 

経歴:東京都出身。多摩美術大学工芸学科ガラス科卒業。1993年にカナダに移住し、'93年と'98年に特待生としてPilchuck Glass Schoolで学ぶ。彼女の作品はカナダとアメリカを中心に世界各地のギャラリーで展示されている。Canada Councilのグラントなど多数の受賞経験を持ち、2003年以降毎年カナダ政府からGovernor General'sの賞の制作依頼を受けている。

今回の作品について
 人生の良き友であり、私の創作活動の最高の理解者であり、人生を25年間共に歩んだ最愛の夫を亡くしたのは2年前のことだった。

 自らの心の半分がもぎ取られたような激痛の後に、生と死の境を身近に感じる日々がしばらく続いた。半年が過ぎた頃、自分の中で何かが死んだことを見届けた後に、新しい現実に対応して生きる意思が少しずつ芽生え始めた。そして帰巣本能であるかのように、常に私の人生のナビゲーターであったもの作りに帰ろうとしている。

 以来、創作活動に復帰する試みを通して内観を繰り返す日々の中で、愛を持って手放すことの意味、今を生きることの尊さへの理解を私なりに深めている。

 引き潮と満ち潮の合間に見え隠れする浜辺にキラリと光るガラスの破片を見つけ、再び生きることへの静かな情熱を胸に歩き出す日はそう遠くないだろう。

 

代表作: Flight #5, 58cm x 15cm x 13cm(写真 長井 憲治) 

 

 

 

ブライアン・ホヤノさん

ブライアン・ホヤノさん 

 

経歴:モントリオール出身。平面のガラスのアーティストとしての経歴を経て、ジュエリー・アーティスト/彫刻家に転身。現在は大きな規模の3Dの作品制作を手掛けている。最近、創造的なコミュニティーがあり、バンクーバーよりも気候が厳しいデンマン島に移住を果たした。これからの自分の作風にどんな影響が現れるか期待している。

今回の作品について
 この作品名はThe Plague Ships(注1)から始まり、皮肉を込め、さほど扇情的でないLifeboat Seriesへと変容していった。私は、文明の下に我々の蒔いた種によって起こる問題から逃れる術としての救命ボートに興味を寄せている。今、最終手段として用いられている救命ボートは科学技術である。我々はハイテクが、過剰消費、貪欲性、戦争挑発等からの救済と思っていたが、高性能な救命ボートでも問題も共に積載されているために逃れる術はない。そして作品の進化と共に、我々一人一人が小型救命ボートで、それぞれがより明るい未来に向かって舵取りできるようになった。私の近作は、人類の危うく、不確かで、痛々しい努力と、強い生存意志を讃える希望に満ちた表現へと変わっていった。救命ボート:一定の優しさと少しの皮肉。

(注1 :Andrew Northの1956年、Clive Cusslerの2008年発行の小説の題。疫病感染し隔離船になった船の話。疫病感染者を船積みし隔離した史実もある)

 

代表作: Beacon, silver, copper, brass, amber coral, pearls. 

 

 

 

黒木利佳さん

黒木利佳さん(写真 由起子オンリー) 

 

経歴: 東京都出身。2009年よりバンクーバー在住。1981年カリフォルニア美術大学ガラス科卒(美術学士号)。その後、国内外でさまざまな個展・グループ展に作品を出展し続けている。2012年よりバンクーバーのTerminal City Glass Co-opに所属し活動している。作品はコーニングガラス美術館、デュッセルドルフ美術館等に収蔵されている。

今回の作品について
 創造することは、私の人生において認識したことの具現化と考えている。父の仕事の関係で、幼少期からいくつかの発展途上国で育ち、さまざまな文化や環境の中に身を置きながら私のものの見方が育まれた。異文化で過ごした子供時代が私の世界観を作り上げていき、その観点から興味を持ったり、気になったことが潜在意識にしまい込まれていった。それらの記憶の断片が、人生のある時点で引き出されて自分の表現として3次元レベルで具現化されたものが、私の作品として世に送りだされていくのだと思っている。

 

代表作:「Specimen 1」 (写真 Hirotaka Akiyama) 

 

 

日系四人展
Ebb / Flow : Stories of Transition

会期
1月26日(木)~2月8日(水) 12:00~17:00月曜休館

出展作家が在廊するオープニング・レセプション
1月28日(土)14:00~

会場
Visual Space Gallery
3352 Dunbar St., Vancouver

問合せ
604-559-0576
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主催者のことば

ビジュアル・スペース・ギャラリー、オーナー
由起子 オンリーさん

「それぞれ生きてきた軌道や、時代背景、年齢などアーティストに及ぼす影響はあらゆるところに存在します。その結果、こめられた思いや反映された彼らの審美感などが彼らの作品に現れ、同じ文化背景を持つ故に違いもまた興味深いです。何を、なぜ、どのように表現していくかは、この先も彼らが生涯を通じて真剣に追求していくべきものでしょう。この展示会が広く多くの人々にアピールすることを願いつつ、作品制作、また準備に多くの時間と労力を費したアーティストに深く感謝いたします」 

由起子オンリーさん(写真 Tim McLaughlin) (写真 Hirotaka Akiyama) 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。