2017年1月1日 第1号

悔しい思いのままでは終われない2017年は飛躍のシーズンに

バンクーバー・ホワイトキャップスFC工藤壮人選手の2016年シーズンが終了した。日本を飛び出し初めて挑戦した海外サッカーリーグMLS(メジャーリーグサッカー)。初ゴールあり、大ケガありの前半から、出場機会が少なかった後半と、Jリーグ時代には経験したことのないシーズンとなった。 今回は後半戦を中心にシーズンを振り返り、2017年へ向けての抱負を語った。 

 

今季キャップスとして初先発したヒューストン・ダイナモ戦。3月26日 

 

「満足できないシーズンだった」

 「最終的に結果をみれば僕自身(リーグ戦)2得点っていうのは、確実に今までで一番少ない数字ですし、全然自分自身も満足していないです」と振り返った。それまで所属していたJリーグ柏レイソルでは毎年2桁得点をあげてきた。これまでとは違うサッカー環境の中で、分かっていたとはいえ、どうにもならないもどかしさがあった。

 後半は出場機会が激変した。レギュラーシーズンで最後に先発出場したのは8月12日。以降、9月3日に途中交代で11分間出場した以外は、CONCACAFチャンピオンズリーグ予選2試合の先発出場を除いて、最後まで出場機会はなかった。

 自分に求められているものが何なのか悩む時期もあった。監督からは当初からペナルティエリア内でゴールを取ることに集中してほしいと言われ続けた。自身もボールが数多く上がってくるところをイメージしていた。しかし、「待ってもボールは来なかったんで。そこで、僕自身、今まで持ってるものよりも1つや2つくらい、新しくチャレンジしていかないと、このまま埋もれていってしまうのかなっていう危機感もちょっと持ってやってました」。

 「正直、キャップスでやってて、これで大丈夫か?」と思う時もあったという。サブスタートでの起用法に「僕自身ストレスを抱える部分もあって」。負けている試合でゴールがほしいという時に「どうして使ってくれない。そういう気持ちがすごい募ってて」。レイソルではどんな場面でも得点を求められてきた。ホワイトキャップスでもそれが自分の役割と聞いてやってきた。「そういうところで、自分自身何が一番求められてるのかって自問自答する時とかもありました」。

 以前のインタビューでは、試合に出るところからアピールしなくてはいけないというのが苦しかったと言ったこともあった。いろいろと経験したシーズンだった。「ただ、新しい環境に飛び込んできて、ほんとにあっという間な1年だったなって。それはケガも含めていろんな経験をして、新しい人に触れて、まずは終わってすっきりしてますけどね」。

 

MLSは思った以上に個性あふれるいいリーグ

 来る前と実際に1年間在籍してみてのギャップはやはりあったという。ホワイトキャップスについては、「思った以上にフィジカルが強いチーム」だった。「サッカー選手なのか、ラグビー選手なのかっていう選手もいますし」と笑った。

 チーム自体は監督、選手とも想像通りで、「非常にフレンドリーで、仲が良くて。いろんな国籍の選手がいて、すごい面白いキャラクターがたくさんいたんで、そういうところでは飛び込みやすかったですね」。監督も情熱家で、自分も含め「選手に対してリスペクトしてくれるというのもその通りでした」。サッカーについては、「もっとチームとしてまとまって戦うのかなぁっていう大まかな印象ではありましたけど」と笑って、意外とバラバラに動くことも多く、そこからバランスを悪くして失点につながっていった試合もあったと振り返った。

 MLSについては、「僕の印象では8割、9割はフィジカルっていうサッカーを想像していて」。しかし意外とテクニカルなチームや大事にボールをつないでいくチームがあって「いい味が出てる、個性あふれるリーグだなって」。  スポーティング・カンザスシティとオーランド・シティSCは「まとまってるなってイメージ」。ポートランド・ティンバーズはスタジアムの雰囲気や熱いサポーターも含めて、「いいチーム」という印象だ。

 日本人選手が「もっと挑戦してもいいと思うリーグです」とも語る。海外といえばヨーロッパという選手が多いが、「北米も挑戦する価値は全然あると思います。MLSもレベルが高いですよっていうのは日本でも伝えられたらと思っています」。

 

「ある意味、ひとつ殻を破ったかな」

 いろいろと経験したシーズンだったが、得ることも多かった。「サッカーでいえばメンタル。確実に日本では経験できないメンタル的な強さ」を一番にあげた。試合に出られないもどかしさとも戦いながら、多国籍チームでシーズンを通して戦ったことは精神的に大きな何かをもたらした。

 技術的な面では、「日本とこっちのサッカーが全く違う中で、そこでの駆け引きの違いも含め、改めて日本の選手は賢いんだな」と実感した。こっちの選手は日本人的賢いサッカーを身体能力の高さでカバーできることがある。それでもその辺りの駆け引きに手応えを感じているという。

 あとはバランス。日本人選手の賢いサッカーは時に消極的に見えてしまうと実感した。だから「こっちの、いけると思ったらボールを取りに行こうとする勢いの良さに少しトライしながら、賢いサッカーも忘れない」という、いいとこ取りがカギとなりそうだ。

 そして海外での適応能力。「もともと、人前に出るのが苦手とかそういう感じではないし、どっちかといえば出ていく方ではありましたけど」と笑って、言葉の部分ではまだまだ努力が必要だが、「チームの雰囲気とか流れに乗るとか、そういうところはある意味ひとつ殻を破ったのかなって。明るくなった部分はありますけどね」と笑った。

 

普段の生活が楽しくないとプレーも楽しめない

 「(海外で)最初にバンクーバーに来れたのは僕にとっても最高だったのかなって思いますね」。サッカーでうまくいかないことがあっても、「街はエンジョイしようと意識はしてました」。基本的には「普段のところから楽しめないと結構プレーとか逆に楽しくなくなっちゃうんで」。

 バンクーバーの観光地は大体制覇した。シアトルまで足を延ばして大リーグの試合も観戦した。「すぐそこに海もあるし、山もあるし。そういう環境は初めてだったからすごい新鮮で。住んでてほんとにいいとこだなって」。

 日系コミュニティのイベントにも極力参加するように心がけた。プロアスリートとして、応援してくれている人に力や勇気を与えられる立場にあることを認識しているからだ。そして逆に自分もパワーをもらっていると話す。声を掛けてもらったり、スタンドで応援してもらったり。「プラカードで『レッツゴー工藤』みたいなのを見ても勇気づけられますし、そこはお互いに日本人という一つのコミュニティの中で、いい影響を与えて、与えてもらってるのかなって」。最終戦ではスタンドに大きく日の丸が見えてうれしかったという。本人はこの日サブだったが、「試合の途中に気づいて。結構いろんな国の国旗が掲げられてるじゃないですか。誰か日の丸掲げてくれないかなって思ってたんです(笑)」。

 ピッチを離れるといい意味で距離を置いてくれているのも心地いい。「通りすがりに『工藤がんばれよ』って。プライベートはちゃんとリスペクトして、ほんとがんばれよっていう気持ちだけを伝えようかなって感じで」。すっかりなじんでいるようだ。

 

2017年シーズンに向けて

 1年間戦い、次シーズンへの課題が見えた。まずはフィジカルをもっと鍛えること。これは入団当初以上に強く感じている。「必要な時に対等に戦える筋力」、それに「俊敏性をプラスする。フィジカルを向上させつつ、よりシャープでクイックな動き」を付けることがオフシーズンの課題だ。

 そしてプレシーズンからしっかりアピールする。1年目よりも得点を期待されていることは確実。新しいストライカーも入団する予定だ。チーム内の競争も激しくなる。

 次にもっと自分の意見を伝えていく。「自分がチームを動かす」というくらいの気持ちで「もっとこうした方がいいんじゃないとか、こうしていこうよっていうところを表現していきたい」。

 それからもちろん得点だ。「(2016年はリーグで)2点しか取れなかったんで、より貪欲に、フォワードとして得点しなくてはいけないと思っています。1年である程度、リーグと環境に慣れて、2年目は本当に結果で勝負をしていかないと残れないと思っていますね」。

 この悔しい思いのままでは終われない。「結果はどうあれ、あっという間の1年で、また早くシーズンが来てほしいっていう気にもなってますし」と前を向く。自身は2得点に終わり、チームはプレーオフ出場を逃した。カナディアン・チャンピオンシップ(ACC)もトロントFCに決勝で敗れた。自分もチームも2017年にかける思いは強い。

 チームは2017年イギリスのウェールズで1月23日からキャンプを開始する。北米以外でのキャンプインはこれが初めて。2月7日からプレシーズンが始まり4試合を経て、2月22日には早速CONCACAFチャンピオンズリーグ決勝ラウンドが始まる。対戦相手はニューヨーク・レッドブルズ。ホーム&アウェーで3月2日にはBCプレースで第2戦が行われる。すでに次のシーズンは始まっている。

 

「 引き続き2017年もよろしくお願いします 」

 最後にファンに一言メッセージをもらった。

 「この1年は、ケガとかもあって、結果も出なかったし、苦しいシーズンではありました。でも試合に出るか出ないかっていう状況でも、スタジアムで日本人サポーターの人たちの声援は心強かったし、僕の名前を掲げてくれたり、日の丸を出してくれたり。そういう期待に結果で応えられなかったのが逆に申し訳ない気持ちを僕自身持っているので、その気持ちを2017年こそは結果で、見に来てくれた日本人の方たちが胸を張ってスタジアムから帰れるように精一杯頑張るので、BCプレースに足を運んでもらって、引き続き2017年も力強い声援をよろしくお願いします」。

(取材 三島 直美 / 写真 斉藤 光一)

 

この日は出場機会はなかったものの、ケガから復帰後、初めてユニフォーム姿でピッチに。コロラド・ラピッズ戦。7月9日 

 

CONCACAFチャンピオンズリーグ、セントラルFC(トリニダード&トバゴ)戦。快勝しカナダ人デヨン選手と喜ぶ工藤選手。9月28日 

 

最終戦終了後のインタビューで。この日は出場機会がなく、なんとなく消化不良なシーズン終了となった。10月23日 

 

最終戦後、ファンにシューズを贈る工藤選手。10月23日 

 

最終戦後、工藤選手にシューズをもらって両親と一緒に喜ぶファンのJack君とMonetちゃん。10月23日 

 

カナディアン・チャンピオンシップ(ACC)第2戦で戦ったトロントFC遠藤翼選手と。工藤選手はケガのため出場できず直接対決は実現しなかった。トロントはACC優勝、リーグ戦も東カンファレンス優勝を果たした。6月29日 

 

CONCACAFチャンピオンズリーグのグループ1位をかけてセントラルFC(トリニダード&トバゴ)と対戦。この試合で工藤選手はゴールを決めた。9月28日 

 

ケガから復帰後初先発。リアル・ソルトレイク戦。7月13日 

 

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