念願のバンクーバー開催 『世界ハープ会議』
(以下、コングレス)が始まったのは1981年。現会長はパトリシア・ウースターさん(アメリカ)。設立当時からの理事、井上久美子さんが副会長、井上美江子さんが理事を務めている。 バンクーバー開催はカナダ青山ハープ社、大竹加代さんの夢でもあった。加代さんの娘はハーピストの大竹香織さん。香織さんの姉の美弥さんもバンクーバーでハープを教えている。4年前、加代さんはVSO第一ハープ奏者のエリザベス・ヴォルペさん、バンクーバー観光局のスタッフとともにコングレス誘致のためのプレゼンテーションを行い、バンクーバー開催が決まった。
さまざまなハープの展示
メイン会場のシェラトン・ウォールセンターホテルでは大手ハープ製造社数社による展示・販売が行われ、小型のサウルハープからグランド・ハープまで試し弾きをする人が後を絶たなかった。中にはメタル製ハープやエレキハープ、炭素繊維を使用した軽量ハープなど珍しいものもあった。 ハープの重さは約40キロ。47本の弦を指で弾きながら足ペダルを使い全身で弾く楽器だが、大柄でないと弾けないというわけではない。小指を使わないことから、手の小さな人でも弾けることが特徴だ。 福井に本社と工場を置き、東京と大阪でショールームと教室を開く青山ハープ社では25台のハープを展示。同社ではカナダからメープル、アラスカからスプルースの木を輸入し、サウンドボード(響板)と呼ばれる本体に使用。新商品『プリンセスさくら』では重い金属部分を改良し、10キロ軽いハープの製作に成功。肩や腰など身体への負担が少なくなった。
日本ハープ界の流れ
青山真氏によると、ハープはヨーロッパでは歴史と共に“民衆の楽器”として存在してきたものだが、日本では“教養”として入ってきたものだという。戦前、NHK交響楽団がウィーン交響楽団から4人の奏者(バイオリン、ハープ、オーボエ、クラリネット)を招いた際、ハープ奏者のヨセフ・モルナール氏が引き続き日本に在留。日本のハープ界の基盤を作り、現在でも活躍中だ。
生徒にも演奏のチャンスを
青山ハープ社では展示ルームの入り口に『オープンマイク』を設置し、希望者に演奏の場を提供した。美弥さんからハープを習って1年めの庄司蛍乃佳ちゃん(9)は、展示ルームで知り合った渡辺文江さんから『いつでもどこでも』を教えてもらい、オープンマイクにエントリー。演奏後の抽選に当選し、念願の真っ白いサウルハープを手にした。 仙台でハープを教える渡辺さん宅では3月11日の地震でハープ2台が転倒し、部品が折れてしばらく弾けない状態が続いた。「生徒に励まされて参加し、初対面の大竹さんに大変お世話になりました。帰ったらハープ教室の生徒80人と報告会を開く予定です」と話してくれた。
期待の若手ハーピストたち
開催初日、ファースト・バプティスト教会ではコングレスを記念して、礼拝中にハープ演奏を盛り込んだ。演奏した大竹美弥さんのもとには「あなたから習いたい」という人も現れ、うれしい驚きだったという。 セント・アンドリューズ・ウェスリー教会、オーフィアム・シアター、ヴォーグ・シアターではハープのソロ、デュオ、四重奏、室内合奏などさまざまなコンサートが開かれ、一般客にもハープを知る機会となった。 景山梨乃さんや奥田恭子さんなど、国際コンクール優勝経験を持つ期待の若手ハーピストも出演。モーツアルトのピアノソナタ10番など、馴染み深いメロディーもハープによって演奏された。大竹加代さんがスポンサーした『Focus on Youth』の奨学金制度を受けて参加した佐藤理絵子さん(武蔵野音大4年)と山下咲月さん(同大1年)は「同世代の演奏が聴けて参考になった」と感想を述べた。
トップクラスの演奏
ジュディー・ローマンさん(カナダ)やウィリー・ポスマさん(ノルウェー)さんなどベテランハーピストや、4台のハープによる四重奏など、普段見ることの少ない舞台もコングレスならでは。 6歳より父の任地ロサンゼルスでスーザン・マクドナルド先生からハープを学んだ吉野直子さんは、母(吉野篤子さん)もハーピスト。世界で演奏活動を行っており、友人のハーピスト、マリー=ピエール・ラングラメさん(ドイツ)とデュオで演奏した。 最終日には大竹香織さんがVSOのメンバーとケン・シェ氏の指揮でダマーズの『コンチェルティーノ』、井上美江子さんがハイドンの『ピアノ・コンチェルト』を演奏。バンクーバー大会は教会堂に美しい音色を響かせ、大きな拍手の中、幕を閉じた。 なお、今大会で実行委員を務めた香織さんは、3年の任期で世界ハープ会議の理事に選出され、2014年のオーストラリア大会に向けて準備を始めるという。
(取材 ルイーズ阿久沢 )