2016年9月1日 第36号

来たる9月18日、日本とトルコの合作映画『海難1890』の特別上映会と記念レセプションが、日系文化センター・博物館で開催される。 『海難1890』は、1890年に起きた軍艦エルトゥールル号遭難事件と、1985年のイラン・イラク戦争勃発時に、テヘランに取り残された日本人をトルコ政府が救援機を飛ばして救出した出来事という、二つの史実を基にした映画だ。日本とトルコの友好125周年を記念して制作された。

 

和歌山県串本町

 

トルコの文化観光省、日本の外務省も後援

 映画の企画立ち上げのきっかけは、2005年、田嶋勝正串本町長が、大学時代の同級生、田中光敏映画監督に宛てて送った「エルトゥールル号海難事故」を映画にしたいという手紙だ。映画完成の10年前のことだ。田中監督は、田嶋町長に「企画書はみんなに見せるけど、映画にするのは難しい」と言ったという。

 案の定、企画書は断られる。しかし、あきらめずに努力を続け、仁坂吉伸和歌山県知事から賛同を得て、2010年には田中監督、田嶋町長、仁坂知事の三人でトルコを訪問。2国間の合作映画に関するトルコの法律の問題など、映画化は困難続きではあったが、ついにトルコ共和国文化観光省、そして日本の外務省も後援する一大プロジェクトとなった。

 2013年10月には、安倍晋三首相がトルコを訪問。合作映画が議題に上がり、翌2014年1月に日本で行われたレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と安倍首相との会談で、正式に合作映画への両国協力が確認された。

 完成後も、2015年11月に開催された20カ国・地域首脳会議(G20)でトルコを訪れていた、安倍首相が、トルコ共和国のエルドアン大統領とともに、プレミア上映会に出席。映画は両国の友好をさらに強固なものにすることになった。

 『海難1890』の公開は2015年12月。企画から完成まで10年の月日を要した。

 

映画が描く二つの事件

 『海難1890』は、1890年エルトゥールル号遭難事件と、1985年のイラン・イラク戦争勃発時に、テヘランに取り残された日本人をトルコ政府が救援機を飛ばして救出した出来事という、二つの史実が基になっている。ゆえに二部構成だ。

 

エルトゥールル号遭難事件

 1889年、最初の親善訪日使節団を乗せたオスマン帝国(トルコ共和国の前に存在していた、トルコ民族の国)の軍艦エルトゥールル号が、イスタンブールを出港した。帝国の威信を欧州に示すため、そして明治天皇への謁見のための航海だったという。

 その帰路の途中の1890年9月、エルトゥールル号は和歌山県串本町沖で台風に遭遇して、座礁、大破。響き渡る船の爆発音を聞いた串本の人たちは何事かと岸壁に集まった。そして発見したのは、漂着した膨大な数の死体と船の残骸だった。乗組員618人が暴風雨の吹き荒れる大海原に投げ出され、500名以上の犠牲者を出してしまう大惨事。その中で、地元住民による生存者らの献身的な救助活動が続けられた。

 避難した小学校では村中の医師が集まり応急手当を行い、69人の命が救われた。村長は、亡くなった人すべてに棺桶を用意して丁重に弔ってやりたいと言い、村民は蓄えてきたわずかな食料や衣類を提供して、生存者の看病にあたる。村人たちの献身的な行為のおかげで、生存者らは無事、オスマン帝国へ帰還する。  

 このできごとにより結ばれた絆は、トルコの人々の心に深く刻まれた。また、以前は教科書で習っていたそうだ。

 

トルコ政府によるテヘラン邦人救出

 エルトゥールル号遭難事件から約100年後の1985年のテヘラン(イラン)。イラン・イラク戦争の停戦合意を、イラクのサダム・フセイン大統領が破棄したことで、戦争が再燃。3月、両国は相互の都市をミサイルで攻撃しあう事態となった。さらに5月にはイラク軍のテヘラン空爆、続いて、フセイン大統領が48時間後にイラン領空の航空機を官民軍問わず攻撃すると宣言した。

 この事態を受け、イラン国内の外国人らは脱出を図る。日本人についても、日本大使が外務省に救援機を要請。しかし、就航便がなかったため、迅速な対応が難しい状況にあった。テヘランに残された日本人は215人だったという。

 タイムリミットが迫る中で、日本大使館はトルコへ日本人救出を依頼する。トルコのオザル首相は、まだ500人近くのトルコ人がテヘランに残っていたにも関わらず、救援機の追加派遣を決断して、日本人に優先的に飛行機の席を譲る。 

 救援機に乗れなかったトルコ人約500名は、陸路自動車でイランを脱出することとなった。

 当時なぜトルコ航空機が日本人を救出したのか、その理由を日本政府もマスコミも知らなかった。後になって元駐日トルコ大使が次のように語っている。「エルトゥールル号の事故における日本人の献身的な救助活動、トルコの人たちは決してそのことを忘れていません」

 「海難1890」は、第39回日本アカデミー賞で優秀作品賞をはじめ10部門でノミネート。最優秀作品賞の受賞はならなかったものの、美術賞と録音賞の部門で優秀賞を受賞した。

 日本とトルコの二つの国の絆、そして日本人、トルコ人の温かい心を描いた感動作だ。

(取材 西川桂子)

 

キャスト・スタッフ
【出演】  内野聖陽 ケナン・エジェ 忽那汐里 アリジャン・ユジェソイ  小澤征悦 宅間孝行 大東駿介 渡部豪太 徳井優 小林綾子  螢雪次朗 かたせ梨乃  夏川結衣 永島敏行 竹中直人 笹野高史
【脚本】  小松江里子
【音楽】  大島ミチル
【企画・監督】  田中光敏

 

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