トロントFCにドラフト1位で入団した日本人プレーヤーがいる。遠藤翼選手だ。今季MLS(メジャーリーグサッカー)初シーズンにしてすでに開幕戦で先発出場。FW(フォワード)として右ウィングでチームメイトのイタリア代表ジョビンコ選手と肩を並べ、堂々のMLSデビューを果たした。

今回はACC(アムウェイ・カナディアン・チャンピオンシップ)決勝でバンクーバー・ホワイトキャップスFCとBCプレースで対戦。勝てば来季のCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)チャンピオンズリーグへカナダ代表としての出場権を獲得する最終戦を前に6月28日、BCプレースで練習後に話を聞いた。

 

練習後のインタビューで。「トロントでも、アメリカでも、どちらも適応できるので」と英語ができればチームはアメリカでもカナダでも特に気にならない様子。6月28日BCプレース

 

トロント期待の新人

 開幕から3試合連続で先発。開幕戦では相手の反則を誘いPK(ペナルティキック)を得ると、ジョビンコ選手が先制ゴールを決め、今季チーム初ゴールのお膳立てをして得点に絡んだ。

 そして5月7日にはMLS初ゴールを決めた。この日はMF(ミッドフィルダー)でトップ下に入った。28分、ジョビンコ選手から中央でボールを受け取るとワンクッションおいてシュート。ディフェンダー、ゴールキーパーをすり抜け、ボールはネットに吸い込まれた。トロントはこの1点を守り抜き、開幕から2カ月続いた遠征を終えたチームをこの日、今季ホーム初白星に導いた。

 MLS1年目、上々に思える滑り出しだが、本人は「上々ではないですけど」と笑った。「ケガが結構多くて」。実際、3試合先発が続いた後、4月の4試合では1度もピッチに立つことはなかった。5月に入り先発復帰。14日、トロントでのホワイトキャップス戦で今季初めてフル出場を果たした。7月2日時点でMLS16試合中11試合に出場、新人選手ながらチームに大きく貢献している。

 それでも本人は「最近は、試合には出てますけど、自分としては、あんまり調子よくないんで」と不満を口にする。初ゴール以降はゴールもアシストもついていないが、9本のシュートを放つなど積極的なプレーを続けている。試合にもコンスタントに出場している。あとは「自分のポジション的にも結果を出さなくてはいけないんで、そういうところは重視していきたいと思います」。最近はトップ下が多い。新人とはいえ、得点に絡むことを期待されていることは本人が一番分かっている。

 

JFAアカデミーからアメリカの大学を経てMLSへ

 まだまだ発展途上の22歳。チームにも溶け込んで「チームメイトもコーチたちも、ほんとに優しくしてもらってて。チーム内の雰囲気もいいですし、英語の部分では全然苦労してないんで」。アメリカの大学で4年間を過ごしたというのは、北米でサッカーをすることに、言葉の壁や北米環境への適応でアドバンテージになると感じている。

 日本からのMLS入団としては異色の経歴を持つ。日本では『サッカーを通じて真の意味でのエリートとなる人材』を育成するために、日本サッカー協会が設立したJFAアカデミー福島の第1期生。その後、アメリカのメリーランド州立大学に進学。そこでの活躍が注目され、ことし1月のMLSスーパードラフトでトロントFC1巡目(全体9巡目)で入団が決まった。

 同アカデミー卒業生の進路先では国内の大学や国内外のクラブチームがほとんど。アメリカに進学した理由をたずねると「その時はプロでプレーするために十分な力を持っていなかったのと、英語を学びたかったっていう理由があって、ちょうどいい環境だった」と語った。「いい環境に進めて、結局、最終的にMLSに来られたので、自分の進路としては間違ってなかったんだなって思ってます」。

 Jリーグを経験していない遠藤選手から見てのMLSは、「やっぱり試合重ねるたびにフィジカルコンタクトが多くなると、自分の特長を消されるっていうか。僕は他の選手に比べて(体が)小さいんで、そういうところは、やっぱりしっかりポジショニングを考えて、一つ、二つ先を考えながらプレーしないと、つぶされるプレーもあるんで、しっかり考えながらプレーしなくてはいけないなと思います」と、ニューイングランド・レボリューションの小林大悟選手やホワイトキャップスの工藤壮人選手と似たような感想を持っている。

 MLSは最近、代表レベルの選手が多く移籍し、レベルも確実に上がっていると小林選手は語っていた。チームメイトのジョビンコ選手はイタリア代表。他にもブラジル代表カカ選手(オーランド・シティSC)、スペイン代表ビジャ選手(ニューヨーク・シティFC)などが在籍。そうした選手との対戦について「もちろん楽しみです。子供のころから見てたし、同じピッチに立ったら、どう生かせるかって学びながら、そういうところは楽しみにしてます」と貪欲だ。

 今後は「最終的にはヨーロッパに行きたいですし、そのためにはここで活躍してからですね」と笑った。

 

日本人対決実現せず

 今季ここまで遠藤選手は3回日本人対決の可能性があった。最初は4月9日トロントでのレボリューション戦。この時は本人のケガのため出場できなかった。遠藤選手と同じ日にMLS初ゴールをあげた工藤選手との対決も、5月14日トロントでのMLS戦はこの前試合5月11日に工藤選手が大けがで、6月29日ACC決勝戦でも工藤選手の試合復帰が間に合わず実現できなかった。

 それでも29日の試合後に少しだけ工藤選手と話す機会を得た。「初めてだったんですけど、気さくな方で」との印象。MLSの難しさなどを話したとかで「いろいろ大変そうですね。工藤選手も」と笑った。カナダの東西チームに同シーズンに入団し、同日にMLS初ゴールをあげた若い日本人選手2人。この対決を楽しみにしていたファンは多かっただろう。ひとまず来年までお預けだ。

 しかし、小林選手とは今季はもう一度8月6日にトロントでニューイングランド戦がある。この時、両選手が出場できれば久しぶりにMLSでの日本人対決が実現する。前回は2014年8月2日、ニューイングランドの小林選手とニューヨーク・レッドブルズの木村光佑選手が同じピッチで対戦した。

 小林選手は遠藤選手について「アメリカの大学に入ってプロになるって、すごいっすね」と、面識がないながらも感嘆の声を上げた。「早い段階からアメリカ来て、そういうフィジカルの中で揉まれてきて、いろんな工夫するじゃないですか。そういう面ではこっちのフィジカルの中でもこなせる術を持ってるだろうし」と太鼓判。MLSから「日本代表も狙ってほしい」と期待した。遠藤選手は「一緒にピッチに立てれば、日本でも話題になりますし」と、いつの日か実現するMLS日本人対決を楽しみにしていた。

(取材 三島 直美 / 写真 斉藤 光一)

 

ACC決勝第2戦、途中出場の遠藤選手。ここから放った中央へのパスが、チームを優勝に導く引き金となった。6月29日BCプレース

 

ゴールに絡むパスを出そうと狙う遠藤選手。手前はキャップスDFハーベイ選手。6月29日BCプレース

 

ゴール後に喜びながらベンチに向かう遠藤選手とジョビンコ選手(左端)。2人のコンビネーションプレーもいい感じだ。6月29日BCプレース

 

ACC優勝杯ボヤジャーズ・カップを手に喜ぶ遠藤選手。6月29日BCプレース

 

ことしのACCはトロントFCが優勝。キャップスは2年連続優勝をあと一歩で逃した。6月29日BCプレース

 

試合後のインタビューでも笑顔を見せる遠藤選手。試合後にはトロントFCファンからサインを求められていた。6月29日BCプレース

 

試合後にキャップスの工藤選手と。カナダ2チームの日本人対決がACC決勝で実現せず残念だったが「2人でいい刺激をしながらがんばっていこう」と話した。6月29日BCプレース

 

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