昨年のワールドカップ(W杯)で南アフリカを敗り世界を驚かせた日本代表が、バンクーバーでカナダ代表と対戦する。W杯以降、アジア以外での国際試合はこれが初めて。

日本代表は6月5日にバンクーバー入り。 BCプレースでの11日の試合に向け調整を続けている。

今回は練習後の田中史朗選手に話を聞いた。

 

バンクーバーでの初練習で笑顔を見せる田中選手。 2016年6月6日ノースバンクーバー(写真:斉藤 光一)

 

今の日本代表に必要なのは経験値と組織団結

 今回の遠征チームの中では「最年長」と笑うベテラン選手の田中史朗(たなか ふみあき)選手。166センチと小柄ながらも学生時代から頭角を現し、京都産業大学を経て2007年、三洋電気(現パナソニック)ワイルドナイツに入団。2008年には日本代表入りし、以後第一戦で活躍を続ける。現在はスーパーラグビーに参加するニュージーランドのハイランダーズにも所属し、世界で活躍している。

 昨年9月、イギリスで開催されたW杯での南アフリカへの勝利は、日本ラグビー史上に燦然と輝く大金星であり、世界中に日本のラグビーを知らしめた。

 国内ではラグビー人気が急上昇し、五郎丸歩選手のポーズが社会現象となるなど、大きな注目を集めている。

 そんな現象を田中選手は「メディアにも出さしてもらいますし、子供たちとか新しくラグビーを始める人も増えましたし、あとは選手全員の意識も全体的に上がりましたね」とポジティブに捉えている。自身は「責任感というか、代表としてもっともっとやりたいなっていう思いも出ましたし、代表なのでもっとレベルアップすることを自分自身が意識してプレーしなくてはいけないなっていう思いは出てきました」と、ラグビーへの貪欲な向上心も改めて実感している。

 そして現在、W杯の興奮も冷め、冷静に次の目標を見据える時、自身のラグビー、日本代表だけではなく、日本ラグビー界全体を見渡す。

 W杯では南アフリカに勝利はしたものの、結局予選突破はならなかった。ヘッドコーチも交代し、次のW杯に向け新たな戦いはすでに始まっている。

 今の日本代表に必要なのは「選手としては経験値」という。「ガラッと若いチームに代わったので」と田中選手。あとはチームとして「まとまるのが必要」。そういう意味では今回の対戦相手カナダはアジア以外の国際試合として最適な相手。32歳のベテランに期待がかかる。

 それ以外には、組織としてのラグビー協会の役割も大きいという。「僕たちプレーヤーというのも大事なんですけど、組織としてラグビー協会が、もっともっとしっかり組織化して僕たちをまとめてもらわないとやっぱりうまく回っていかないのかなって思うんです」と表情を引き締める。「毎年、毎年、監督が代わって、ラグビー自体も変わって…じゃないですか。ニュージーランドとかオーストラリアなどは、監督が代わってもやるスタイルはあんまり変わってないと思うので、そういう状態にしないと」と語る。

 「僕も今回初めて来させてもらったんですけど、まったくエディ(前監督)と違うラグビーになってるので」とチームの変化を指摘する。「その辺は僕たちではどうすることもできないので、コーチ陣が決めることなので、僕も年なのでいつまでできるか分からないですけれども、やっぱりこれから若い世代の人たちがラグビーを背負って行く中で、継続して日本のラグビーを確立していければ、もっともっといい結果が出るのではないかと思いますね」と日本ラグビーの将来を期待し、大金星をあげたからこそ、これからが選手にとっても、コーチ陣にとっても、協会にとっても、日本ラグビーに大事な時期になるとの思いを語った。

 次のW杯は日本開催。それまでに予選を突破し、上位に食い込むだけの実力をつけた日本ラグビーを確立できるのか。その第一歩はすでに始まっている。

 最後に今回の試合についてバンクーバーのラグビーファンに向けて、この試合が日本代表にとってアジア以外での初めての試合になるということで、「海外で僕たちのラグビーが見てもらえるというのは少ないので、しっかりしたパフォーマンスをして、もっともっと皆さんにラグビーを好きになってもらいたいですし、もっともっと僕たちも世界に日本のラグビーはすごいっていうのをアピールできたらなって思います」とメッセージを送った。

 

日本W杯出場9人が代表入り、6月11日BCプレースで対決

 ラグビーの日本対カナダのテストマッチが6月11日BCプレースで行なわれる。15人制ラグビー男子カナダ代表がBCプレースで試合をするのは、これが初めて。カナダの新ヘッドコーチ(HC)に就任したマーク・アンスコムHCにとっては、初めての国際試合となる。カナダのキャプテンはジェイミー・カドモア選手。昨年W杯出場12選手が選ばれている。

 日本代表は新HCにはジェイミー・ジョセフ氏がすでに決定しているが、チームに合流するのは9月以降のため、今回はマーク・ハメットHC代行がチームを率いる。キャプテンは堀江翔太選手、バイスキャプテンは立川理道(はるみち)選手。この試合に堀江選手が参加しないため、立川選手がキャプテンを務める。昨年W杯出場の9選手が参加しているが、リーチ・マイケル選手、五郎丸歩選手、大野均選手らは参加していない。

 カナダ対日本の対戦は、ラグビーカナダによると1932年まで遡るという。最近ではパシフィック・ネーションズ・カップで2014年、2015年に対戦。スワンガードスタジアムで行なわれた2014年は、前半リードされた日本が後半大逆転で勝利。2015年はカリフォルニア州サンノゼで、20‐6で日本が勝利している。IRF世界ランキングでは日本が10位、カナダ18位。

 試合は、6月11日(土)3時からBCプレースで開催される。

(取材 三島 直美)

 

練習の様子。田中選手(左から2番目)、ハメットHC代行(右端)。2016年6月6日ノースバンクーバー(写真:斉藤 光一)

 

2014年PNCでのカナダ対日本での田中選手(右端)。2014年6月7日スワンガードスタジアム(バーナビー)(写真:丸山 勧)

 

2014年PNCカナダ対日本。後半日本が追い上げ、逆転勝利となった。2014年6月7日スワンガードスタジアム(バーナビー)(写真:丸山 勧)

 

2014年PNCカナダ対日本。中央は五郎丸選手。2014年6月7日スワンガードスタジアム(バーナビー)(写真:丸山 勧)

 

2015年PNC日本対トンガの3位決定戦の田中選手(右)。2015年8月3日スワンガードスタジアム(バーナビー)(写真:中村 みゆき)

 

2015年PNC日本対トンガの3位決定戦。惜しくも日本が敗れた。2015年8月3日スワンガードスタジアム(バーナビー)(写真:中村 みゆき)

 

2015年PNCカナダ対トンガ。この年カナダはPNCで1勝もできず最下位に終わった。2015年7月24日スワンガードスタジアム(バーナビー)(写真:丸山 勧)

 

バンクーバー初練習ということもあって比較的リラックスした様子の田中選手。チームの中でも小柄な体格が際立つ。2016年6月6日ノースバンクーバー(写真:斉藤 光一)

 

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