ホームで詰めかけたカナダファンの前で無情にも試合終了のホイッスルが鳴り響いた。勝利のトライまであと一歩届かず、カナダは逆転負け。日本は2度リードされながらも再々逆転に成功し今年初テストマッチを白星で飾った。

カナダは7分、21分にトライを決めリードを広げるも、日本は2PG(ペナルティーゴール)、1トライで前半終了間際に12―13と逆転する。後半に入り46分カナダがトライを決め17―13再逆転。日本は2PGで追加点をあげ、70分に松島がトライを決め17―23と突き放す。カナダは79分にトライを決め22―26まで追い上げ、続いて80分にもトライのチャンスをつかみゴールラインぎりぎりまで押し込んだが、トライとはならなかった。

 

ゴールライン手前のスクラムでの攻防

 

「明暗を分けたのはキック」

 カナダのマーク・アンスコムHC(ヘッドコーチ)は、「いいプレーもあったし、試合に対する選手たちの姿勢にもいいものがあった。しかし…」と厳しい表情。「国際試合レベルではキックでのゴールは決めなくてはいけない。それが今日のカナダはできなかった。我々が決めたのはたったの1つ。もしもう一つでも決まっていれば試合は違っていた。タフだが、それがラグビーだ」と語った。

 カナダは4トライを決めた。しかしゴールキック(GK)が決まったのは、たったの1つ。2PGも決まらず6キックゴールのチャンスで1つしか得点に結び付けられなかった。

 一方日本は2トライで2GK、4PGの6キックゴールすべてを五郎丸歩に代わる田村優が確実に決め、キックだけで16得点をあげた。この差をアンスコムHCが厳しく指摘した。

 さらにペナルティーをとられた前半終了前の約10分と後半中盤の動きの悪さを指摘し、「まだまだ課題は多い」と次のロシア、イタリア戦に向けて調整が必要と語った。

 キャプテンのジェレミー・カドモアは「フラストレーションのたまる試合」と、むっつりとした表情。「すごくいいプレーをしたと思う。トライの数ではカナダが4で、日本が2。それでも勝てないということがショックだ」と語った。最後1分の攻撃は、キックオフからゴールラインまで持っていくという、この試合最大に盛り上がった場面となった。トライとはいかなかったものの「チームがまとまってかなり頑張った。もう少しで逆転できた。そういう面は非常に良かったところで、次の試合にも生きてくると思う」と前向きに捉えた。「これからまだまだトレーニングして、細かいところを修正して、今日のようなことがないようにしたい」と語り、「もうそろそろ負けることに嫌気がさしてきた」と本音をこぼした。

 

「両チームともプライドをかけたいい試合だった」

 日本は2トライしかとれなかったものの、キックで16得点を稼ぎ、結果的に勝利した。キャプテンの立川理道は「なかなか自分たちのペース、自分たちのテンポという時間は少なかったですけど、スコアできるところはスコアして、断ち切れたところは大きいと思います」と総括した。特にディフェンスについて54分で細田佳也がレッドカードを受け退場し14人での戦いになった場面では、「ラックに入らず広がってディフェンスしようというのはチーム全体で統一できたのではないかと思います」と語った。その後、松島のトライが決まった。

 ハメットHC代行も「レッドカードを受けたのがポイントだったが、そこでもよく耐えたし、ディフェンスも良かった。いいトライもとれて良かった」と、選手の踏ん張りを称えた。「両チームとも初テストマッチで緊張感があったのは見ての通り。ストラクチャーは完璧ではなかったけど、両チームともいいプレーがあった」と、初テストマッチにまずまずの評価をした。

 「カナダの印象は、新しいコーチがタイトな展開やチームを落とし込めていたと思うし、いいトライをとれていたと思う。次のワールドカップに向けて新しいチームを作っていくというのは日本も同じで、ワールドカップ後の初のテストマッチということで、日本もカナダもプライドをかけたいい戦いをしてくれた」と、BCプレースに駆け付けたファンの前でいい試合をしたと表情を緩めた。

 日本代表は今後は日本国内でスコットランドと2試合を行う。負傷交代した田中史朗は右肩の脱臼と診断され、スコットランド戦は欠場の見通し。レッドカードの細田は2週間の出場停止となった。

 

BCプレースにラグビーファン1万人

 日加テストマッチにもかかわらず、この日会場にはラグビーファン1万人が詰めかけ、両チームに声援を送った。

 日加両チームを応援するファンも多かっただろう。その中の一人、ショーン・リトンさんはラグビー男子元カナダ代表で、日本の大学でもプレーしていた経験を持ち、日加両方のラグビーに精通している。代表だった90年代と今のラグビーの違いを聞くと、「当時のカナダは攻撃でもキックを多用していた。今はボールを持ってパスなどのハンドリングが多い。これはニュージーランドスタイルのラグビーで、カナダもニュージーランドからコーチを招へいしたりしてスタイルが変わっているのだと思う」と語った。さらに、体格的には当時の方が大きい選手が多かったという。「今はスピードを重視するラグビーになっていることも理由の一つだと思う」。日本の印象はというと「日本は常にスピーディーなラグビーをやってきている。でも以前は体格ではやはり小さかった。しかし今は両方を備えている。それにいろんなコーチを迎えている」と、日本の成長を分析する。

 ショーンさんの父ウェイン・リトンさんも日加ラグビー交流に深く関わってきたひとり。日本でプレーしていたこともあるがトップリーグというわけではなかったと笑った。ウェインさんは日本のラグビーを「ともかく日本のラグビーは展開が速い。それが日本本来のラグビー」と語る。「今もそれがあるけども、ダイナミックさが加わった。南アフリカにも勝ったし、フォワードがかなり強くなってきている」と力が入る。日本が強くなった理由に、優秀なコーチの招へいや、社会人リーグに元オールブラックスなどの強い選手を加入したり、海外遠征が多くなったりと「さまざまな要因が貢献していると思いますね」と語った。そしてやはり国内でのラグビー人気。そこがカナダに欠けている部分。カナダ代表については「昔の迫力はないですね」とバッサリ。ただ、ニュージーランドから新コーチを招へいし、次のW杯に向けて新たなチーム作りに、この日第一歩を踏み出したチームカナダに期待は大きい。

 2人とも日加の試合を見る時には両チームを応援する。ショーンさんは「僕の心は日加両方に半分ずつ分かれているから」と笑う。ウェインさんも「日加戦には必ず両国の国旗を持って応援します」と笑顔を見せた。

 今回BCプレースで初めて試合をした日本代表の畠山健介は「横断幕とかメッセージとか国旗とか見えてましたし、サッカー(日本代表)のジャージー着てこられてる方もいて、それも日本代表を応援したいという気持ちがあるんだなって、すごい僕は嬉しかったです。今後またカナダに来る機会とか、カナダ代表と試合する機会は多いと思うので、その時はぜひまた引き続き応援してもらえればうれしいです」とメッセージを送った。

 今は日本がやや上だが、日加両チームはもともと実力が拮抗する相手。太平洋を挟んで隣り同士。1930年代までさかのぼる日加ラグビーの歴史が長いこともうなずける。日加の対戦成績はこれで日本の15勝8敗2分となった。今後も両国が切磋琢磨しながら成長する姿をファンは見守っていくことだろう。

(取材 三島直美 / 写真 斉藤光一)

 

読者プレゼント当選者の方から

「この度バンクーバー新報さんからのラグビー観戦チケットに見事当選しました。ありがとうございました!!!!! 日本でもラグビーはあまり観た事がなく、ラグビーと言えばスクールウォーズくらいしか思い当たらない私ですが、五郎丸歩さんのファンになり、今回日本代表が来るということで彼に会いたくて応募しました♪ 運悪くケガのため彼を観ることは叶いませんでしたが、とても楽しいゲームを観戦できました!!! 接戦のまま後半で日本がトライして逆転した時には叫んで飛び上がってかなり興奮(笑)隣の日本人の夫婦や後ろの関係ないカナディアンまで巻き込んでハイタッチでした!!! このトライは間近で観れてラッキーでした。とにかく格好良くて感動!」

Momoさん


「良い席で楽しいゲームが観れて嬉しかったです。この機会がいただけて感謝いたします。ありがとうございました。今回は、あいにく五郎丸選手が見れず残念でしたが、田村選手がすべてのキックを成功させてくれ勝利に導いてくれました。そして松島選手が逆転トライをして日本ファンを喜ばせてくれました。日本の応援は少なかったけど、みなさん一生懸命応援していました」

岡田成文さん

 

前半スクラム‐ハーフでフル回転だった田中(右)。前半終了間際に肩を痛め交代した

 

カナダのディフェンスを振り切るキャプテン立川。試合後の会見では「ペナルティーとディフェンスの所はもっと向上しないと」と厳しい評価をした

 

キック成功率100パーセントでチームを勝利に導いた田村

 

逆転となる70分の松島のトライ

 

試合後記者に囲まれるハメットHC代行。チームの逆転勝利に笑顔が見える会見だった

 

「こういう素晴らしいグラウンドでできたことはすごく誇りです」と試合後の畠山

 

リトンさん家族。ウェインさん(左から2番目)とショーンさん(右から3番目)、2人とも日加ラグビーに深く関わってきている

 

日の丸を振っての日本人応援団。この日はかなり多くの日本人ファンも会場を訪れていた

 

この試合でトライを決めた木津武士と試合後に記念撮影する勇真君(左)とたいが君

 

無表情で記者に応えるカナダのキャプテン・カドモア。昨年のPNC、W杯、そしてこの日と1勝もできないことにいらだちを隠せなかった

 

 

松島選手の逆転トライの寸前

 

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