地震発生のメカニズム
今回の東北地方太平洋沖大地震は、プレート境界型地震と呼ばれるタイプのもの。
プレートとは、地球を覆っている何枚かの巨大な岩盤のこと。そのうち、太平洋の海底の大部分を構成している太平洋プレートが、周囲の大陸プレートの下にもぐりこんでいく際にひずみを生じさせ、地震や火山活動を引き起こしている一帯のことを、環太平洋火山帯(Ring of Fire)と呼んでいる(図1の赤色の領域)。
今回の地震は、まさにここを震源地としているが、この環太平洋火山帯は北米西海岸にも沿って延びている。つまり、巨大地震を起こす可能性のある地殻構造が、こちら側にもあるというわけだ。

BC州ではあまり地震を感じない?
実はBC州では年間約1200の地震が起きている。そのほとんどは体に感じないため、地震が少ないように思われがちだが、過去には強い地震も起きている。
前出の環太平洋火山帯は、バンクーバー島の西方沖100kmほどに位置し、カスケード沈み込み帯(Cascadia Subduction Zone)と呼ばれる(図2)。ここでプレート境界型地震が平均して550年ごとに起こっているが、間隔については200年から900年のばらつきがあると言われている。
この領域を震源とする地震が最後に起きたのは、1700年1月。近年の調査から、この地震の規模はM9.0と推定されている。また20世紀以降に発生した大きな地震は表1のとおり。

また1964年にはアラスカで起こったM9.2の地震による津波で、ポートアルバーニで家屋が流されたり破壊されたりする被害が出た。
またワシントン州でも、オリンピアとタコマの間、ピュージェット湾を震源とする地震が繰り返し発生している。(1949年4月13日、M7.1、死者8人。1965年4月29日、M6.5、死者7人。2001年2月28日、M6.8。)
このように、BC州も決して地震とは無縁ではない。もし対策が十分でないところに「想定外」の揺れが襲えば、その被害は計り知れないものになるだろう。
いつくるか分からない地震に対してどう備えるか、ここではBC州公共安全省の地震対策のウェブサイトを参考に考えてみよう。

地震発生時の行動-Drop, Cover and Hold On
室内で地震に遭遇したら、転倒する家具や落下物から身を守る。日本の避難訓練でもおなじみだが、ここでは3段階で解説されている。
Drop:まずしゃがみこむ。
Cover:這いながら丈夫な机やテーブルの下に隠れ、少なくとも頭、できれば体全体を守る。隠れるものがない場合は、壁際か転倒の恐れのない低い家具などのそばに行き、腕で頭部を守る。
Hold On:机などの下ならば、その足にしがみつき、その下から出てしまわないようにする。
また、以下の点も注意。
高層ビルの場合、窓ガラスや外壁から離れる。エレベーターは使用しない。
屋外にいる場合、木や建物、電線のそばから離れる。
運転中の場合、オーバーパスや電線の下でなければ道端に停車し、揺れが収まるまで車内にとどまる。

携帯ラジオなどで正確な情報の入手につとめる。(CKNW: 980kHz, News1130: 1130kHz, CBC: 次のウェブサイトで最寄りの地域の周波数を確認できるhttp://www.cbc.ca/frequency/)

備えあれば憂いなし。普段から出来る準備
実際に地震に遭うと、次に何をすべきか、何を用意すべきか、とっさに考えることが出来なくなる。普段から次のような点について備えておけば、いざという時にすぐ行動できる。
家の中の危険・安全スポットの確認
安全スポット
頑丈なテーブルや机の下、廊下、部屋の隅など
危険スポット
窓や鏡のそば
落下する恐れのある物の下。テレビや水槽など、一人では持ち上げられないようなものも「飛んだ」という経験談は多い。家具を壁(裏に木材がある場所)に固定する、テレビの裏側とテレビ台をストラップで結ぶなどの対策を考える
台所では、ストーブのそば。冷蔵庫や食器棚の中身が飛び出す恐れもある
消火器の使い方に習熟しておく
心臓マッサージ(CPR)を含めた、ファーストエイドのトレーニングを受けておく
避難訓練をする
子供と、地震発生時に親と一緒にいなかった場合の対応について話しておく。また子供の通う学校に地震対策についても確認しておく
家族全員が、地域外(out-of-the-area)の連絡先を持つ。自宅に戻れない場合に備え、別の落ち合う場所を決めておく
ガス、電気、水の元栓の閉め方を確認しておく。ガスは、ガス漏れや火災が起きた場合以外は閉栓しない。一度閉めたら、開栓は専門業者に依頼すること
近所とも、緊急時のプランを確認する

防災グッズの準備。最低72時間は救援活動が到着しない状況に備える。
ファーストエイドと、その手引き。カナダ赤十字やアウトドアショップなどで購入できる
シェルター(タープ、小さいテント、エマージェンシーブランケット、または大きなゴミ袋)
水は一人当たり一日最低4リットルを用意
水の浄化剤。家庭用漂白剤でも代用できる。きれいな水なら、4.5リットルに対し4滴、濁った水なら10滴を加える
地震後にまだ上水道が使えるようならば、バスタブなどに蓄えておく
食料:腐らないもの(缶詰や乾燥したもの)やドライフルーツ、缶ジュースなどを蓄えておく。缶切り(電動ではないもの)も忘れずに
懐中電灯と予備電池。懐中電灯はベッドのそばに。電池は防災キットの中に、分けて入れておく
電池式、または発電式のラジオ。電池は別にして防水バックに入れて保管
乳幼児、老人や常時薬を服用している人のための薬。少なくとも1週間分を蓄える。処方箋(薬、眼鏡)のコピーも忘れずに
トイレグッズ(トイレットペーパー、石鹸、歯ブラシ、歯磨き粉など)
ガスの元栓を閉めるためのレンチ
靴。ガラスの破片など、鋭利なものの上を歩いても大丈夫な厚手のもの
その他、以下のようなものがあると便利

  • 手袋、アウトドア(冬用)ジャケット
  • 防水マッチ、およびロウソク
  • 食品包装ラップ(食器などに貼れば、洗う手間が省け節水になる。)
  • 現金、公衆電話用の25セント硬貨。停電などで銀行、クレジットカードが当分使えない状況を想定する
  • 家族分の寝袋
  • 下着
  • 携帯トイレ
  • ロープ、テープ
  • 発電機と延長コード(ただし一酸化中毒の原因になるので、締め切った室内では使用しない。BBQコンロも同様。)
  • 子供用にゲーム

全米・カナダ邦人安否確認システム(Emergency Information Service System: EISS)

今回の地震でも、日本の各電話会社が災害用伝言ダイヤル・伝言板を提供しているが、北米地域では外務省が同様のシステムを立ち上げている。大規模な災害発生時、安否確認の伝言メッセージを日本の家族などに残したい場合に活用できる。
利用方法については、以下の在バンクーバー日本国総領事館のホームページに詳しく説明されているので、ぜひ確認をしておきたい。

http://www.vancouver.ca.emb-japan.go.jp/jp/consular_j/safety_info/eiss_j.htm

また、グーグルもPerson Finder(消息情報)という、人探しのウェブサイトを提供している。(今回の地震に関するサイト:http://japan.person-finder.appspot.com/?lang=ja

いつ、どこでおこるか分からない地震。それだけに普段からの準備が大きな差を生むことになる。今回の地震には世界中が悲しみ、また生存者の発見の報が入る度に勇気付けられた。この記憶を薄れさせることなく、世代を越えて語り継いでいくこともまた重要な準備だろう。

(平野直樹)

 

 

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