バンクーバーが カナダラグビーの聖地に
カナダ、オーストラリア・イングランドに金星
BCプレースが6万人のラグビーファンの熱気に包まれた。7人制ラグビー世界大会セブンズシリーズが初めてバンクーバーに上陸。カナダ・セブンズ・バンクーバーが3月12、13日に開催された。今夏開催されるブラジルオリンピックで正式種目としてデビューする注目の競技。15人制とは違い、スピードとパワーが試合を決定する1試合14分の短期決戦。その迫力はバンクーバーのファンを完全に魅了した。
ボール優勝杯を掲げるカナダ。6月への弾みとなるか
オーストラリアに逆転勝ち、格上相手に金星連発
時計はとっくに「0」を指していたが、カナダのプレーは止まらなかった。スコアは12‐17。最終プレーで1トライ、1コンバージョンを決めれば逆転の場面。選手はどこまでも貪欲にプレーを続け、9:15にムーンライト(#4)がトライを決め同点。ヒラヤマ(#9)が微妙な角度のコンバージョンを決めた瞬間、会場は歓喜の渦に包まれた。フランス戦での劇的な逆転勝利でカナダの今大会は幕を閉じた。
初日はグループ総当たりの3試合を行い、その順序で翌日のトーナメントの組み合わせが決まる。
カナダ(大会直前シリーズランキング12位)はグループBのウェールズ(13位)、 オーストラリア(4位)、ロシア(15位)と対戦。第1試合ではウェールズに思った以上の苦戦で、結局最終プレーでトライを許し予想外の黒星を喫した。しかし第2試合オーストラリア戦では格上相手に大健闘。前半を同点で終え、後半に1トライでリードされるも、試合終了1分前に相手の反則で1人有利になると最終プレーでヒラヤマがトライとコンバージョンを決め逆転。大金星をあげた。
第3試合ロシア戦でも勝利したが、オーストラリアがウェールズに大量得点で勝利したため、グループ3位となり今大会9位以下が決定した。
そして迎えた2日目。第1試合はブラジル(ランクなし)との対戦。招待チームのブラジルに思わぬ苦戦をしたがなんとか勝利し、第2試合はイングランド(7位)。負けると敗退が決まる上位チームとの試合でファンの大声援を背に奮闘。意外と危なげなく勝利した。試合後、ミドルトン監督は「1試合目は思うように体が動かなかったがこの試合はよかった」と、前日のオーストラリアに続く金星に笑みを浮かべた。
そしてボール決勝(事実上9位決定戦)でフランス(9位)を下した。
ヒラヤマ選手親子2代でセブンズ代表
カナダ代表ネイサン・ヒラヤマは今大会で6トライを決め、個人52ポイントを獲得、中心選手として大車輪の活躍をした。地元での国際大会。ファンの応援も後押しになったが、家族の存在も大きい。「父は会場をウロウロしてますよ、祖母も会場に来ていると思います」と笑顔を見せた。
その父ゲリー・ヒラヤマさん(59歳)は、香港開催のセブンズ大会に、カナダが初めて参加した1980年の初代セブンズ代表。自身が経験できなかった代表としての地元開催に「彼にとってこの大会は地元開催ですごく特別なものだと思う」と語った。息子の活躍に目を細めるが、「活躍しているかどうかはファンが決めること。でも本人は楽しんでいるようだ」と微笑んだ。
カナダがオーストラリア、イングランドを地元開催で破ったのは非常に価値があるとゲリーさん。「ラグビー国相手によくやった。我々はホッケー国だからね。カナダにとってすごくいい大会になった」
日系三世のゲリーさん、もちろん日本にも注目している。昨年9月の南アフリカを破った試合をあげ、「すごくいいチームになっている。身体の大きさ、技術、そして自信がついたように見える」と日本の成長ぶりを語った。一方カナダについては一時期低迷していたが、また復活の兆しが見えると期待している。6月には五輪最終予選もあり、「何が起きても不思議ではない大会」と期待した。
カナダ、日本だけでなく、ラグビーの試合はよく見ているという。「ネイサンが代表になってからの10年は特に注目するようになった」とラグビー愛は相変わらず熱いようだ。
唯一の日本人審判大槻卓さん
「分かりやすいし、ダイナミックさもあり、15人制にはない魅力がある」とセブンズの魅力を語る審判の大槻卓さん。このシリーズ唯一のアジア系審判だ。15人制の審判もするが7人制の難しさは、「一つの判断が試合結果を変えるような大きな判定が起きやすいこと」。違いは単純に一日で担当する試合数が多く、「スイッチのオンオフが難しいですかね」と笑う。選手数が少なく、試合時間が短い7人制ならではの難しさがある。
それでも、ラグビーが日本で盛り上がっている今、審判という領域でも「日本人、アジア人の存在感を出していければいいのかなと思っています」という。今はセブンズに集中している。8月にはリオ五輪もある。「担当できれば最高だなと思います」と笑った。
ワールドラグビーセブンズシリーズ
12月から翌年5月までの6カ月間に世界10都市で開催される7人制ラグビーの世界大会。今季は2015年12月のドバイを皮切りに、ヨーロッパ、北米、アジアを回り、2016年5月のロンドン大会で幕を閉じる。バンクーバーは第6回。
各大会16チームが参加、うち1チームは招待。今大会の招待チームはブラジル。日本も招待チームとして参加、第2回ケープタウン大会と今回バンクーバー大会には出場していない。順位によりポイントを獲得、優勝チームは22ポイント、10大会の総ポイント数で年間優勝が決まる。
バンクーバー大会を終え、カナダは13位(ポイント31)、日本は14位(同20)。首位は今大会3位だったフィジー(同106)、2位は準優勝した南アフリカ(同105)、3位は優勝したニュージーランド(同104)となっている。
各大会では各4チーム4グループに分け、1日目にグループ総当たり戦を行い、2日目に各上位2チームがカップ戦へ、下位2チームがボール戦に進む。カナダは今大会ボール戦優勝チーム。
オリンピックへの道
セブンズシリーズ2014/15年の上位4チームは自動的に今夏ブラジル五輪の出場権を獲得した。その他のチームは地区予選を経て出場権を得る。そういう意味では、このセブンズシリーズはこれまでの世界大会以上の意味合いを持つ。次の注目は東京五輪前だ。
その前に今夏のブラジル大会だが、日本はすでに男女ともアジア大会で、カナダ女子はセブンズワールドシリーズ2位で五輪出場を確定している。しかしカナダ男子は6月にモナコで行われる世界最終予選で、16チームで残り1枠を掛けた戦いに挑む。今大会に出場していた、アルゼンチン(6位)、サモア(9位)、ロシア(15位)も含まれている。大会終了後ヒラヤマは、「もちろんオリンピックは目指したいと思っている」と語ったが、厳しい道のりになることは間違いない。
7人制ラグビー、魅力はスピードとパワー、そしてコスチューム
15人制と同じフィールドを7選手でカバーする。前後半各7分、ハーフ1分。決勝は前後半10分、ハーフ2分。試合時間が短いため、一日に何試合も行われる。今大会では初日に各チーム3試合、全24試合が行われた。
広いフィールドを少ない選手でカバーするため、ボールを受け取るとパスを回してとにかくゴールに向かって前進するか、ボールを持って一気に走ってフィールドを駆け抜けてゴールするかという得点方法が多い。そのため、とにかくスピードとパワー、そしてスタミナが重要になる。そのスピード感が爽快で、ラグビーの詳しいルールが分からなくてもとにかくその真髄を楽しめるのが7人制の魅力。
そしてもう一つ楽しみなのが、ファンのコスチューム。今大会でもさまざまなコスチュームに身を包んだファンで会場はさながらコスチューム大会のよう。この週末、街中でコスチュームを見かけたならラグビーファンであったことは間違いない。
次は女子セブンズと日加親善試合
男子セブンズはあと2年バンクーバーで開催されるが、その前に女子セブンズHSBCワールドラグビーウーマンズセブンズが4月16、17日にBC州ラングフォード市(ビクトリア市近郊)で開催される。12カ国が参加、全5回でカナダ大会は第4回。ここまで2大会が終了し、カナダは3位、日本は11位。
男子は15人制の親善試合カナダ対日本が6月11日、BCプレースで開催される。
(取材 三島 直美 / 写真 斉藤 光一)
カナダの試合結果
(BCプレース2日間 60,418)
1日目
19‐26 ウェールズ
14‐12 オーストラリア
29‐12 ロシア
2日目
19‐0 ブラジル
17‐7 イングランド
19‐17 フランス
優勝 ニュージーランド
2位 南アフリカ
3位 オーストラリア
相手チームのタックルを受けるカナダ選手。ウェールズ戦
ディフェンスを振り切り走り続けるヒラヤマ。オーストラリア戦
初参加チームに大苦戦の2日目第1戦。ブラジル戦
1日目第3試合。スタミナも勝利のカギ。ロシア戦
この試合2つ目のフアイレフ(#3)のトライで試合が決定。イングランド戦
起死回生となるヒラヤマの後半最初の同点トライ。フランス戦
今大会、最もポイントを稼いだネイサン・ヒラヤマ。親子2代のセブンズ代表
ネイサンの父、ゲリー・ヒラヤマさん。80年から3大会連続カナダセブンズ代表で香港大会に出場している
唯一の日本人審判大槻さん。「一つの判断の重みが15人制とは違う」と語る
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