世界を舞台に活躍中のフラメンコダンサー 

荒巻奈々子さん

バンクーバーを熱くする情熱のステージ「バンクーバー・フラメンコ・フェスティバル」が開催中だ(〜9月27日)。グランビルアイランドのウォーターフロントシアターをはじめ、多数の会場を使って行われている。 http://www.vancouverflamencofestival.org 主催は「フラメンコ・ロザリオ」。フラメンコダンサーのロザリオ・アンサーさんと、夫でフラメンコギター奏者のビクター・コルスティさんが始めたフラメンコ教室である。二人が1989年にスペインからバンクーバーに渡り、フラメンコを広める中で始めたこのフラメンコフェスティバルも今年で25回目。地元バンクーバーのダンサーのみならず、本場スペインやトロント、カルガリーなどから実力派のダンサーを招いて行うこのフェスティバルで注目のダンサーが日系カナダ人の荒巻奈々子さんだ。 現在ロンドンに住む奈々子さんだが、この度は奈々子さんのフラメンコの師匠であるロザリオさんから「このステージはナナコでないとだめ」とのラブコールを受けて、バンクーバーに一時帰国。9月26日(土)の午後8時から『ファスト・フォワード・リワインド(Fast -Forward Rewind)』と題したステージをグランビルアイランドのウォーターフロントシアターで披露する。リハーサルを控えた奈々子さんに話を聞いた。

 

得意のバタデコーラ(長いドレス)を着た踊りを26日のステージでも披露する(写真提供 荒巻奈々子さん)

 

今回のステージはどのような内容ですか?

  『ファスト・フォワード・リワインド』はロザリオの人生を表現する自伝的な内容になっています。第1部では『ライセス』というタイトルのステージで、フラメンコそのもののルーツを表現する演目になります。フラメンコはいろんな文化の流れを受けてできたもので、ここではインドのダンサーやシタールの演奏も登場するんです。第2部で私たちが舞台に上がり、『ラ・モナルカ(蝶)』を踊るのですが、さなぎから蝶に変化する姿が人生の開花期と重ねられています。

創作の踊りということですね。

 皆さんが思うフラメンコは、南スペインのアンダルシア地方で生まれたプーロ・フラメンコで、プーロとは「純粋な」という意味です。今回の踊りは、作品のアイディアから振り付けまで、すべてロザリオのオリジナルです。

奈々子さんを惹き付けたフラメンコの魅力とはどんなところですか?

 子供の頃からクラシックダンスと一緒にピアノを習っていたんですが、そのように音楽に触れていてもフラメンコはリズムがとても複雑で、ただ踊れるだけではだめで、それがチャレンジングでした。そして生まれ持ったこの身体ではプロのバレリーナにはなれないと思っていましたが、フラメンコだとどんな体つきの人でも踊れる、そういったオープンな気がしましたね。

本場スペインへ留学していますね。

 フラメンコを始めて4、5年して、ある程度の踊りはできていたのですが、自分で納得がいかなくて2006年にセビリアに留学しました。やっぱりスペインに行かないとわからないですよ!タパス食べて、ビール飲んで、昼寝して、フラメンコを生で観て、これがフラメンコなのか!と。(笑)

そうなんでしょうね。そしてスペインの人たちの燃え上がるような熱情を私たちは持ち合わせていないように思ってしまいますが。

 いや、みんな持っていると思いますよ。ただそれをどうやって表現するかだと。フラメンコはパッションをパワフルに表現できるものなので、そうしたものが内側から出てきてしまうんだと思います。

踊っているときの 心境はいかがですか?

 気持ちいいです。舞台で踊ると、中にあるものをバーッと出すのでクレンジングというか、悩んでいるときにはセラピーにもなるような。そして、とても観客の方たちと親密な感じで…。普段は人に見せない部分を見られちゃう感じで怖い面もあって…でもすっきりするんです。

自分を開放するのが醍醐味なんでしょうね。指導者として奈々子さんから生徒たちにはどんなことが大事と伝えていますか?

 やっぱり踊りを楽しまないとだめですね。振り付けばかり考えて固い表情で踊っていると、観ている人が楽しくないじゃないですか。楽しいと表情にも出ますし。今は手を挙げて足はこうやってと考えないで踊れるレベルまでいけて、踊りたいから踊る、そんな風になってほしいですね。

踊りを極める中で苦労も尽きないと思いますが、どんな経験がありましたか?

 ベルリンでプロのギタリスト、歌い手、踊り手が二人ずつでユニットを結成して、オリジナルのステージを作っていったのですが、自分の踊るものをゼロから考えて作るのが、初めはとても苦労しました。

どんなグループですか?

 一緒に踊っている女性が日本人なんです。そしてドイツ人、スペイン人、メキシコ人、そして私はカナダ、というインターナショナルなメンバーで構成されたグループなので、グループ名を「MESTIZO」と付けました。スペイン語で「混ざっている」という意味です。

そうして新しいステージがどんどん生まれているんですね。

 スペインでも有名なアーティストさんの作品を観ると毎年変わっています。変化がすごく激しいんです。そういうところがとても楽しいし、これからのフラメンコが楽しみでもあります。最近は物語を身体で語るような感じにもなってきていると思います。

昨年はアフリカにも出向いたとか。

 去年の10月、ギター奏者のリカルド・ガルシアさんとケニア、タンザニア、ザンジバルへ行き、ケニアでは知人がボランティアをする孤児院を訪ねたんです。子供用のフラメンコのドレスや帽子など鞄に詰めて。そして子供たちに踊りを教えてショーをやってもらったんですが、みんないい子たちばかりで!表情が明るくて、知らない私たちにもハグをしてくるんですよ。「オレ!」って踊ってくれたりして。もう泣いちゃいますよ。

 フラメンコやっててよかったなと思いました。それまで好きな踊りを踊っているのは自己満足であって、だれの役にも立っていない気がしていたんですよ。周りの人は「アートを観せることで世界を変えているよ、ナナコ」って言ってくれるんですが、「何も変えてないじゃないの!」っていつも思っていて、ちょっと不安だったんです。

 だから初めてアフリカに行って、男尊女卑の社会で、「強い女性の人が周りにもいるからがんばってください!」というメッセージを伝えられたのが一番踊り手としてうれしいことでした。

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 女性が優位に見えるフラメンコの世界でも成功しているプロには男性が多いという。自分自身を鼓舞する意味でも「踊りを通じて女性を応援したい」と思っている奈々子さん。また「日系人という特徴を生かして、フラメンコのわかる三味線奏者とコラボしてみたい」という展望も。柔軟な発想で自分を存分に表現する奈々子さんの26日のステージは、彼女の最高の輝きを目にする、またとないチャンスだ。

(取材 平野香利)

Fast-Foward Rewind by Flamenco Rosario

日時 2015年9月26日(土)8時開演

チケット 大人35ドル、学生/シニア30ドル

会場 Waterfront Theatre  1412 Cartwright Street

電話 604-568-1273

http://www.vancouverflamencofestival.org

 

荒巻奈々子(あらまき・ななこ)さん プロフィール

 3歳の時に東京から家族でバンクーバーに移り住み、クラシックバレエを始めていた奈々子さんがフラメンコに転向したのは16歳の時。ロザリオ・アンサーさんから指導を受け、数年でプロのダンサーとしてステージへ。その後、高みを目指してスペインのセビリアへダンス留学。カナダへ帰国後、あるきっかけからベルリンへ移り住み、さらに現在はロンドンに生活の場を移し、ロンドンとドイツで精力的に活動している。今年6月にはエジンバラのフリンジフェスティバルで25日間の連続パフォーマンスもこなした。

 

バンクーバー市内のカフェでインタビューに答える荒巻奈々子さん

 

扇子やショールなどの小物が奈々子さんの踊りを引き立てる(撮影 Alfredo Mena)

 

アフリカ・ザンジバルにて (撮影 Nicholas Calvin)

 

ケニアの孤児院の子供たちにフラメンコを教えた経験は人生の宝 (写真提供 荒巻奈々子さん)

 

留学したスペインのCristina Heeren Flamenco Foundationにて (写真提供 荒巻奈々子さん)

 

ベルリンで国際的なメンバーと結成した「MESTIZO」(写真提供 荒巻奈々子さん)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。