FLOATING AWAY

〜観客の個性で楽しめるユニバーサルな作品〜

 

昨年新報で紹介したバンクーバー在住の衛藤昂(えとうこう)監督のハリウッド・スタイルのカナダ映画が遂に完成した。タイトルは「フローティング・アウェイ(流れる)」(長編映画、90分)で特別公開は3月だ。衛藤監督は今回映画製作を終え、再度新報のインタビューに応じてくれた。

  

監督•スタッフ•俳優 

 

映画「フローティング•アウェイ」のポスター 

 

  

「フローティング•アウェイ」のあらすじ

 主人公のアンドリューはハーモニカ奏者であり作曲家。彼の幸せは自分の作った曲を妻・イザベルのピアノと共に奏でること。豊かではないが好きな曲を作り続ける夫と、純粋な彼を信じる妻。二人の間に子供が生まれ、現実を見つめる妻との間に亀裂が入る。自分の追い求める夢と現実の狭間でアンドリューは自らの人生の意味を見つける。

 

 

プロデューサーの角田さん(左)と衛藤監督(その右)

 

 

映画製作とカナダ人の俳優たち

 自主映画の製作にあたって監督はまず自分で脚本を書いた。納得するまで何度も書き直して編集をした。そして書き上がると今度はプロデューサーを探したが、これは自分が想像していた以上の難題だった。バンクーバーで何人ものプロデューサーを訪ね歩いたが、断られたり意見のすれ違いでうまくいかなかった。そんな時、語学学校で勉強をしていた角田道明(つのだみちあき)さんに出会った。日本で映画製作に携わっていた角田さんと意気投合し、映画製作において最大の課題である資金調達に走った。バンクーバーのガーデン協会のイベントにも参加し、「映画の宣伝ができるならどこにでも行く」という感じで人の集まる場所へ出かけた。その他ラジオや新聞で呼びかけたり、監督の奨学金のスポンサーであった国際ロータリーや、クラウドファンディング(注:不特定多数の人がインターネット経由で財源の提供や協力などを行う)という新しいシステムでも製作資金を少しずつ集め、ついに映画製作までたどり着けた。

 配役に関しては、まず俳優ユニオンに登録しているカナダ人の中から主演俳優のオーディションをした。これは日本育ちの監督がオーストラリアとカナダで映画の勉強をして、俳優に全てカナダ人を起用するという他に類のない新しい試みだった。撮影中「カナダ人の英語は自分の知っている英語と微妙に違った」と監督は振り返る。例えば「昴(すばる)」という言葉、監督は「星」を意味していたが、カナダ人にとっては「車(日本車名のスバル)」だった。「あなたは昴みたい」のセリフの意味が伝わらず、「車か?」と聞き返すセリフをカナダ人のために挿入したりもした。自分で作曲した詞の中でも、「これは私の息子だから」がカナダ人の英語では「これは私のベイビーだから」となり、監督はそれが嫌で「これは私の子供だから」に変更したそうだ。

 去年撮影現場を訪問した時、衛藤監督は何度か子役の少年に話しかけていた。「彼は天才的です、きっと良い俳優になります」と監督は語る。映画の中の静かに食事をするシーンで、あまりにもおいしくなさそうに食べていたので監督は他の食べ物に変えようとした。ところがそれは彼の好物なのだという。母親役にスポットがあたっていても、悲しいシーンの中では自分も彼女の演技に合わせて後ろでゆっくり食べていたのだそうだ。また、休憩時に監督がいくつかおもちゃを与えると、「僕はこの映画の中でいくつ?」と聞いたので「5才」と答えると、「じゃ、このおもちゃにする」と撮影場所ではずっと5才の子役になりきっていた。監督はそんな子役俳優のプロ意識にも感心したそうだ。

 

 

スタッフと衛藤監督 

 

 

「あきらめない」が共通点

 監督と主人公アンドリューの共通点について聞くと、監督は少し考えて、「あきらめないところかな」と答えた。幼いころからゲームでも自分が勝つまで、納得いくまでやったと笑う。自分の好きな音楽を自分流に作り続けていきたいという主人公を通じて、監督は映画の世界で同じように葛藤していた自分を見ていたようだ。しかし監督はこの映画を通してあえてメッセージを入れないという。プロバガンダになりたくないし、自分が正しいと思っていることが他人にとって正しいとは限らないからだ。「だから性別、年齢、国籍など関係なく、多義的であいまいさがある。この映画で観客それぞれが違った感想を持ってほしい」と監督は語る。ストーリー、特にラストシーンは見応えがあり、3月の上映が楽しみだ。

 

 

スタッフと衛藤監督 

 

 

衛藤昂監督のプロフィール

1985年大分県生まれ。

オーストラリア、シドニーフィルムスクールで映画製作を学び、在学中に監督した短編映画「Permanence」がオーストラリアの映画祭で最優秀作品賞を受賞する。在学中より映像制作、テレビ、コマーシャル等の仕事を経て、2012年、ロータリークラブより国際親善奨学生としてカナダ、バンクーバーのキャピラノ大学映画撮影学科に留学する。カナダの映画やテレビで活躍中の撮影監督、Danny Nowak氏に師事し、在学中はDean's List(優秀な成績を修めた学生リスト)に名を残した。カナダで照明技師、カメラアシスタントとして活動した後、映画、ミュージックビデオ等の監督、撮影、編集に携わっている。今回の「フローティング•アウェイ」が監督のカナダ初の長編デビュー作となる。

(ホームページ:http://neige-a-saigon5533.wix.com/koeto)

 

インタビュー時の衛藤監督 

 

衛藤監督の映画「フローティング•アウェイ」の特別上映会に

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(取材 ジェナ・パーク) 


 

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