〜カラフルを未来につなぐ〜

 

2014年春、バンクーバーのさくらフェスティバルにかわいい少女たちが集まりファッションショーを演出した。「ロリータ」と紹介された時、彼女たちは「違う、『原宿』なの」と否定した。そもそも「原宿KAWAII」とは何なのか。今回六本木でそのカルチャーの火付け人、増田セバスチャン監督に話を聞いた。

  

「6%DOKIDOKI」の店内(写真提供6%DOKIDOKI) 

 

原宿にある増田監督のお店「6%DOKIDOKI」 

 

  

バンクーバーでの約束

 

 増田監督は2011年にバンクーバーを訪れ「原宿KAWAII」文化をファッションの専門学校で説明したことがある。この独特なファッションを「原宿」と呼ぶ約束を、彼女たちは未だに守ってくれている、と監督は感激していた。彼自身もカラフルで俳優と間違われるぐらい目立つ方である。「昔から美術専門のアートディレクターで、裏方だと言っているのに結構表に出された。まあそれも経験かなと思って」と笑う。「海外では作品を自分で説明した方が効果があるので出るようにしているが、出たがりに見られるのも嫌だ」という、アーティストらしい悩みもある。

 

 

2014年のバンクーバーさくらフェスティバルに集まった原宿KAWAIIファッションの女の子たち

 

 

「原宿KAWAII」が生まれるまで

 

 歩行者天国になっていた原宿に1980年代、「竹の子族」というカラフルな衣装の若者たちが集まってきた。当時はインターネットがなく、他で着れない服を着て似たような人達に出会える唯一の場所が原宿だった。竹の子族が消えて90年代になっても自分らしさを演出する若者たちは後を絶たなかった。「6%DOKIDOKI」という監督のお店も「セバスチャン、こんなのが欲しい」「じゃこんなのはどう?」などのやりとりから徐々に生まれていったそうだ。当時ロリータという言葉は存在していたが、少しセクシーな過激ファッションだった。女の子たちが求めていたのは英語でいう「LOVELY」だった。それをもっと追求したのが「カワイイ」、そして「センセーショナルカワイイ」が生まれた。

 カワイイ女の子たちは決して過激派でなく、自分を社会の枠から解放して自由を求めていた。アートディレクターである増田監督はそんなお店の常連だった、後のスター、きゃりーぱみゅぱみゅさん(日本の「カワイイ」文化の世界的アイコン)のデビュー時からの演出と美術演出を担当する。またレイディー・ガガさん、ケイティ・ペリーさんなど海外アーティストにも自称「原宿KAWAII」ファンがたくさんいる。

 

 

原宿にはかわいいお店がたくさんある 

 

 

誰も見たことのない

くるみ割り人形(写真提供マンハッタンピープル) 

 

 そして今回監督の映画デビュー作となる「くるみ割り人形」だが、「原作」はサンリオの創立者である社長、メルヘン作家の辻信太郎さんが、35年前(1979年)に人形を少しづつ動かす手法で1日3秒ずつ、5年もの歳月をかけて製作した。増田監督のリメイクはこれに最先端のデジタル映像技術を加えてこれまでにない色彩で独特の「実写人形の世界」を仕上げたもの。大切にしていたくるみ割り人形をネズミの大群にさらわれた少女クララは、迷い込んだ人形の国で、くるみ割り人形に隠された悲しい秘密を知ることになるというストーリー。

 

 

東京国際映画祭での増田監督、俳優の松坂桃季さんとくるみ割りキティ  

 

舞台挨拶する増田監督。左は俳優の板野友美さん 

 

 「この映画はぜひ3Dで観てください」と監督は薦める。迫力のあるハリウッド映画の逆をいくような発想で、日本人的な3D映画を作れないかと研究したそうだ。大きな世界でなくむしろ小さな世界を描きたかった。そして今回、まるで小さな箱の中に顔を突っ込んで見るような、新しい「日本的」感覚の3Dを実現させた。映画のワンシーンでカラフルな蝶々がきれいに揺れている。その細かい蝶々はアニメでなく実際に一個ずつ丁寧に手作りされていて、作り手の夢も込められているような作品だ。

 また監督自身、映画「くるみ割り人形」には特別な思い入れがある。小学生の頃、このオリジナルの映画を地元のサンリオ劇場で観た。その時感動した映画に自分が新しく手を加える。増田監督は「すごくプレッシャーを感じました。先代の監督がものすごい時間をかけて作った大作なので。カラフルなルーツは原宿にあるのだと伝えながら現代の皆さんに見てもらい未来に接続できればと思います。時間を忘れて新しい3Dの人形の世界にどっぷりと浸って下さい」と語った。

 当時大人になりきれなかったカワイイ少女も今は子どもと一緒に店を訪ねてくる。「原宿KAWAII」はすでにキティ、アキバ系アイドル、ゴシック、ロリータなどを総括し、さらに世界に羽ばたこうとしている。監督は「自分は世界を飛び回れないが地元の女の子たちはその土地で、また映画は全世界に飛んでメッセージを伝える大きな力を持つ」と語る。増田監督はこれからも「原宿KAWAII」のメッセージを全世界に向けて発信してくれそうだ。

 

 

増田セバスチャン監督 プロフィール

1970年生まれ。

演劇、現代美術の活動を経て、1995年にショップ「6%DOKIDOKI」を原宿にオープン。2009〜11年に原宿文化を世界に発信するワールドツアー、「Harajuku "Kawaii" Experience」を開催しバンクーバーにも来加。現地の女の子とワークショップをしながら行うファッションショーと「原宿KAWAII」文化のトークショーを行う。また2011年に、きゃりーぱみゅぱみゅさんの「PONPONPON」ミュージックビデオの美術で世界的に注目を集める。今回初の映画監督作品「くるみ割り人形」がワールドプレミアとして東京国際映画祭で上映される。

 

六本木で取材に応じてくれた増田セバスチャン監督 

 

 

(取材 ジェナ・パーク) 


 

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