川澄奈穂美選手

 

サッカー日本女子代表『なでしこジャパン』。その攻撃の要、川澄奈穂美選手(INAC神戸レオネッサ)は、8月で、米プロリーグNWSLのシアトルレインFCでの半年間のレンタル移籍を終えた。帰国直前の川澄選手が、アメリカでの選手生活、今後の抱負について語った。

 

川澄奈穂美選手(INAC神戸レオネッサ)  

 

練習中の川澄選手(タクウィラ) 

 

8月末、シアトルレインFC(SRFC)は、NWSL(National Women’s Soccer League) 2014年のリーグ首位で、プレーオフを迎えた。川澄選手は、海外移籍初挑戦。欧州チームからの誘いもあったが、今年3月SRFCでの半年間のレンタル移籍という形を選んだ。

 

決勝2日前、ウォームアップはリラックスして 

 

海外初挑戦、アメリカでの選手生活は?

 「シアトルは本当に過ごしやすかったです。東海岸へ遠征の際、移動が飛行機で5時間かかって、国内でも時差が3時間ある、というのは、新しい体験でした。スパイクなど入った飛行機の荷物が、遅れて届いたことも。各遠征地の気候も様々で、ニュージャージーでは、4月末なのに寒く風雨が強かったりしましたが、その試合で初ゴールを決めました。トラブルに関してストレスを感じないタイプなので、新しい環境を楽しんでいました」

 

英語のインタビューなど、言葉は?

 「言っていることはわかりますが、伝えるのは難しかったです。自分の考えをできるだけ正確に伝えたかったので、公の発言は英訳してもらうことにしていました。チーム内では、INAC神戸 でチームメイトのベブ(ゴーベルヤネズ選手)や、日本語を話すトレーナーのシーラがいたのも心強かったです」

 

ハービー監督はどうでしたか?

 「ローラはすごく分かりやすいコーチングをします。選手の意見を聞いて、自分で動きながら指導するタイプです。 年齢も近いですし…」

 

ハービー監督は、こう語っている。

 「ナホは、サイドからゴールに向けて正確なクロスボールをあげる等、世界有数の技術の持ち主だ。試合中も、積極的にどういう戦術をとるべきか意見しているが、9 割方私の考えと一致している。私の求めるチームに必要な選手として招聘した。フィジカルが違うから全ての才能を示すのは困難だったろうが、ゲームの主軸になるのに時間はいらなかった。彼女には、米サッカーに合わせるのではなく、『自分らしくありなさい』といつも言っていた。チームにとってとても重要な選手。来期も是非レインでプレーしてほしい」

 

ローラ・ハービー監督(右) 

 

ローラ・ハービー監督は、若手ながら、一昨年までイギリス、アーセナルLFCを率いた実績。米国でポゼッションサッカーを取り入れたいと、SRFCで指揮をとり、今期リーグ首位に導いた。2014NWSL最優秀監督賞受賞。

  

試合中の川澄選手 (写真:Seattle Reign FC)  

 

川澄選手は監督の期待に応え、リーグ中、週間MVP2回、24試合中20試合出場(アジアカップ代表参加のため1カ月離脱)、17先発、9得点、5アシスト。米代表のひしめく中、2014NWSLベストイレブンにも選ばれ、リーグ首位に貢献した。

 

 

フィッシュロック(ウェールズ)、リトル(スコットランド)、ラピーノ(米)、ソロ(米)など各国代表が名を連ねるチーム、各国代表が集まると、どういう雰囲気?

 「代表同士、メラメラした感じ(笑)はなく、ちょっと驚きました。 私が普段から行っている“体幹トレーニング”に、何人かの選手が興味をもって一緒にやり始めましたが、皆が続けているわけではありません。人がやるからやるのではない、というのはアメリカ人らしいです。ピノ(ラピーノ選手)やカーム(モスカート選手)など、ムードメーカーがたくさんいてチームの雰囲気も良かったです」

 

各国代表選手と同じチームでプレーした感想は?

 「対戦したら嫌な選手たちだけど、一緒にやるととても楽しかったです。 代表よりも濃密な時間を過ごせるし。このチームは、相手と駆け引きしながらゴールへいける、テクニカルな部分も強かったので自分にとってよかったです。それ以上に、サッカーの考え方だったり、動きの質だったりとか、こんなこともできるんだという驚きもありました」

 

自分の中で成長した、と手応えがあることは?

 「『川澄選手はスピードがある』と言われることに違和感があります。自分はこのチームでは遅い方だと思うし、そこを何で補うかといったら、ピッチを見渡して自分に今何が必要かということを考えて、ボールを失わずに、トラップの位置や、仕掛けるタイミングを工夫して、相手選手の裏を取る駆け引きをすることです。そのような点をとても大事にしてきました。日本より相手のプレッシャーが早かったり、強かったり、という環境の中で、そこの質をあげていくことができたのは、自分自身、成長できた部分じゃないかと思います」

 

日本でプレーするのと、間が違うということ?

 「そうです、間が全然違いますね。日本であれば変に飛び込まないところを、こっちだったら飛び込んできたりとか。ただ、本当に飛び込んでくるだけあって、ちゃんとこちらのボールに触ってきます」

  

プレーオフ決勝。フル出場 

 

試合が続きますが、けがをしない体づくりで気をつけていることは?

 「以前、ACL(膝前十字靭帯)を損傷したこともあり、膝周りの筋肉を特に意識してトレーニングしています。自分のできる範囲でやるというのがスタンスです。普段の食事はチームメイトと外食もしました。シアトルは、日本食も手に入りやすいので、「鍋キューブ(一食分の固形だし)」を使って鍋をよく食べてました。「野菜+お肉+白いご飯」をおいしく食べられればある程度の栄養バランスはとれると考えています。チームメイトにすき焼きを作ったら好評で、レシピを教えてあげました」

帰国してからの目標は?

 「復帰するINAC神戸に貢献することはもちろん、9月には、なでしこジャパンとして参加するアジア大会があります。若手中心のチーム構成の中 、彼女たちに勝って感じる成功体験をさせてあげるのは、経験のある選手の使命でもあります。自分がその位置にいるのは、自覚しています」

 

短期間でもサッカーに専念できるよう、生活のストレスの少ないシアトルをベースにしたこと、意思疎通のとれた監督の信頼のもとでの、全米サッカーへの挑戦は確実に実を結んでいる。8月31日、プレーオフ決勝は破れた。リーグ戦を通して、圧倒的な強さを誇ったSRFC、相手チームの主砲ロドリゲス選手はチャンスを確実に決め2点差。終盤SRFC の猛攻は続いたが、一点を返して、試合は終了した。SRFC との契約を終えたこの日、川澄選手は一人最後まで、笑顔でファン対応していた。翌日、「悔しい 悔しい 悔しい」と川澄選手は自身のブログで綴っている。こういう結果になったことでアメリカでやり残したことができた、また、チャレンジしたくなった、と。 直感を信じて、進化を続けるなでしこ。アメリカでの半年を終えた川澄選手の表情は、自信に溢れていた。

 

川澄選手からバンクーバーの皆様へ

 「10月のカナダ遠征や来年のW 杯は、なでしこジャパンのプレーを現地で観ていただくいい機会になると思います。カナダにいる日本人の方が、なでしこジャパンを誇りに思ってもらえるような戦いをしたいと思いますので、応援をよろしくお願いします」

 

応援にきた観客に笑顔  

 

10月28日(火)午後7時、バンクーバーBCプレイスにて、なでしこジャパン対カナダ女子代表との親善試合が決定している。シンクレア選手などを擁するカナダ女子代表(FIFAランキング7位)とは、ロンドン五輪以来の対戦。BCプレイスは、来年のW杯決勝の会場。W杯イヤーの前哨戦となる好ゲームが期待される。

   

(取材 大倉野 昌子)


 

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