バンクーバー・メトロポリタン・オーケストラ
9月7日に岡部守弘記念コンサート
ゲストにヴァイオリニストの近藤薫さん
結成から12周年を迎えたバンクーバー・メトロポリタン・オーケストラ(VMO)が、9月7日に『岡部守弘記念コンサート』を開催する。指揮者のケン・シェ氏が恩師に捧げるこのコンサートでは、毎回日本人演奏家を招いているが、今回のゲストは若手ヴァイオリニストの近藤薫さん。透明感のある美しい音色、また繊細さと力強さをダイナミックに表現する演奏が好評の近藤さんが、チャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』でVMOと共演する。(取材 ルイーズ阿久沢)
VMOバンクーバーメトロポリタンオーケストラ(この夏、ジャックプール・プラザでの野外コンサートにて)
ヴァイオリニストの近藤薫さんにインタビュー
全日本学生音楽コンクール名古屋大会高校の部で第1位優勝されたそうですが、そのときの感想は?
賞を取るということを意識していなかった、つまりコンサートのつもりで弾くというスタンスでしたので、コンクールに対しての自信を持つということはありませんでした。演奏に対してはもちろん準備もしていましたし、良い演奏をするという確信はありました。同じように、コンクール特有の緊張もありませんでした。コンサートの緊張感はありましたが、それは良い演奏をする上で必要なことでもあります。
3歳からヴァイオリンを始めたそうですが、毎日どのように練習しましたか?
小さい頃は楽しく練習していました。いわゆる英才教育ではなく、専門的な勉強を始めたのは少し遅めで、高校生になってからでした。それも自分で決めてやりだしました。ですから、珍しいことに、一度も練習を嫌になったことがありません。父も祖父もヴァイオリンの教師でしたから、うまく育ててくれたと思います。友達と毎週アンサンブルをやっていたのも楽しい思い出です。
音楽一家だそうですね。
祖父は日本で最初のオーケストラである東京フィルハーモニー交響楽団の最初のコンサートマスターでした。当時は伊藤屋呉服店青年音楽隊で、その後中央交響楽団となり、現在の東京フィルに繋がります。当時は情報も少なく、大変な努力をしたと思います。父も努力家で、音楽に対してとても誠実な人です。年子の姉もヴァイオリニストですが、とても仲良しで、よく音楽的な相談もします。母は音楽はやりませんが、小さい頃は一緒に練習をしてくれたりしました。
三代にわたってヴァイオリニストという音楽家の家系に育った近藤薫さん(撮影:深堀瑞穂)
芸大ではどんな思い出がありますか?
芸大ではカルテットやオーケストラばかりやっていて、試験勉強もあまりしないぐらいでしたから、成績は下から数えた方が早いぐらいでした。ただ、カルテットやオーケストラなどで、他の学生がしていない経験をたくさん積んでいました。人と同じことをしていては駄目だと思ったし、直感的に今自分に必要なことを徹底的にやっていました。
影響された、または尊敬する音楽家は?
たくさんいますが、あえて挙げるならば小澤征爾さんとロストロポーヴィチさんです。学生時代、一時、人前で弾くのが怖い時期があり、とても悩んでいました。そんな時に出会ったのがお二人で、音楽家になった意味、そして音楽家になってよかったと思わせてくれました。
ケン・シェの指揮で演奏したことはありますか?
ケンとは私のホームグラウンドである九州交響楽団(九響)で出会いました。彼がゲストコンダクターとして九響のツアーに参加したときです。今の時代、若い、良い指揮者が不足している中、ケンは素晴らし才能を見せてくれます。共演して嬉しく思いました。 心の温かい音楽をする人で、そこに迷いがない。私とケンは魂が似ていると思います。プライベートでも良い友達です。今回共演できることを、本当に楽しみにしていました。
バンクーバーの演奏会では何を弾きますか?
チャイコフスキーの『ヴァイオリン協奏曲』です。言わずと知れた名曲中の名曲です。
ロシアの作曲家でスケールの大きな音楽を書きます。大きな編成のオーケストラで演奏されることが多い作曲家で、みなさんも分厚いサウンドをイメージされると思います。ですが、彼は中央ヨーロッパのスタイルで作曲することを好み、VMOのような編成の大きくないオーケストラだからこそ楽しめる魅力もあると思います。
チャイコフスキーへの新しいアプローチとして、大編成でないチャイコフスキーを再発見する動きが世界にあります。超一流の音楽家はこっそりその試みを始めています。今回ケンがVMOでチャイコフスキーを振ることは、大きな意義があると思いますし、同じステージに立てることを誇りに思います。
音楽を通してどんなことを伝えたいですか?
世界が平和であってほしいと願っています。奪い合うことのない世界は難しいことですが、実現できると思います。昔、音楽というものが生まれた時代、隣の部族と衝突しないよう、敵意がないことを相手に伝えるために使われたという説があります。音楽家の使命であると思います。これは、小澤征爾さんとロストロポーヴィチさんに教えられたことでもあります。
ケン・シェ氏(VMO音楽監督・首席指揮者)からのコメント
「近藤薫さんは、美しく深い音楽センスを持つ才能あるヴァイオリニストです。成熟した音楽家として、私を含め多くの人から尊敬されています。おじいさんが東京フィルハーモニー楽団の最初のコンサートマスターという音楽一家出身でもあります。若くして九州交響楽団のコンサートマスターに選ばれ、たくさんの可能性を持っています。有名なチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲で共演するのを楽しみにしています」
VMO音楽監督・首席指揮者ケン・シェ
今回のコンサートのゲスト歌手 ソプラノのイー・チャン・シューさん
VMO バンクーバー・メトロポリタン・オーケストラ 岡部守弘記念コンサート
9月7日(日)2:00PM開演(1:30PM会場 コンサートトーク)
マイケルJ.フォックス・シアター
(7373 MacPherson Ave., Burnaby, BC)
指揮:ケン・シェ
ヴァイオリン:近藤薫
ソプラノ:イー・チャン・シュー(Yi Chan Shu)
チャイコフスキー『ヴァイオリン協奏曲』ニ長調作品35
ブラームスの交響曲第1番ハ短調作品68
チケット:$25(学生・シニア$20、ID提示後割引き)
電話(604)876-9397
オンライン購入:www.vmocanada.com
ヴァイオリニスト、近藤薫さん (写真提供:近藤薫さん)
近藤薫(こんどう・かおる)
3歳よりヴァイオリンをはじめる。第51回全日本学生音楽コンクール名古屋大会高校の部第1位。1999年、丹羽奨励賞受賞。在学中から国内のさまざまなオーケストラにゲスト・コンサートマスターとして出演する他、芸大派遣によりウィーン音楽大学の夏期講習会に参加し弦楽四重奏団のメンバーに学び、室内楽の分野でも研鑽を積む。緑の風奨励賞受賞。
これまで国内の主要オーケストラでコンサートマスターを務める。各国においてソリスト、および、室内楽客演として演奏。 2011年6月から九州交響楽団コンサートマスターに就任。バロックから現代音楽まで幅広いレパートリーをもち、常に新しい表現を模索し続けている。東京フィルハーモニー交響楽団創設時のコンサートマスター近藤富雄は祖父で、三世代にわたってヴァイオリニストという音楽家の家系に育つ。愛知県出身。