バンクーバーに咲いた日本の花火魂
毎年恒例の花火大会がバンクーバーのイングリッシュベイで行なわれた。7月26日、30日、8月2日の3日間で、120万人以上がバンクーバーだけでなく各地から詰めかけた。今年は、アメリカ、フランス、日本が参加。それぞれの国の特色を表現した花火をバンクーバーの空に打ち上げた。この花火大会は、世界でもっとも長く行なわれている海岸での花火コンテスト。今年は、8月2日の日本の花火が優勝した。
豪華な花火が連続したフィナーレ
8月2日、日本チームが登場。午後8時頃には、すでに砂浜には入れないほど人であふれた。開始10秒前からカウントダウン、午後10時に花火がいよいよスタート。会場中が歓声に包まれ、多くの人が日本の花火に期待を寄せていた。日本の『侘び寂び』を表現した、美しく大きな花火が夜空に咲いた。さらに、連続して大きな花火を盛大に打ち上げた。どちらかというと、こうした派手な演出のほうに大きな歓声があがっていた。カナダではやはり『儚さ』よりも、ダイナミックな力強さを表現する方が受け入れられるようだ。
開演前のイングリッシュベイ
約30分間のパフォーマンス。最後は、何十発もの花火が止むことなく打ち上げられ、会場からの大歓声と共にフィナーレを迎えた。前日の日本チームとのインタビューで、「フィナーレを楽しみにしておいてください」と言われたとおり、とても素晴らしい締めくくりだった。浴衣姿で来場していた日本人の家族に話を聞いてみると、今回の日本の花火に大満足で「最高に素晴らしかった」と絶賛していた。 2014年度の花火大会は、日本チームが見事優勝を飾った。
大会前日の8月1日、打ち上げ台へのツアーに参加した。バニエー・パークの桟橋から私たちを乗せた小型ボートは、海に浮かぶ発射台に向かった。発射台は、船の上に設置されている。砂が敷き詰められた船の上には、複数の花火が入った筒が天に向かって建てられていた。コンテナの中には、キッチンや休憩室などがあり、作業員が3日前からの事前準備に専念できるように設計されている。作業員は、この発射台とその横に停めてあるもう一隻の船上で、花火打ち上げ当日の3日前から泊まり込みで準備を行う。一面に敷き詰められた花火の筒とそれを結ぶ導火線、コントローラーなどは、私たちが普段見る美しい花火からは想像できない光景である。当日は、船の一番端にある小屋に4人の作業員が残り、打ち上げ作業を行うという。
さまざまな色が使われているのも印象的
可憐な花のような色と形
今回の花火大会で日本代表を務めるのは、今年設立した灯屋煙火店だ。デザイナー兼社長の須田祟徳さんは、多忙のため、今回は準備に参加できなかった。船の上で準備を指揮していたのは、園田基博さん(チームリーダー)、ロバート・バシハンさん(技術責任者)である。2人は、世界の花火大会に多数参加し、さまざまな賞を受賞している。園田さんは、日本の群馬県出身で花火に関わって15年。すでにフィリピン、マカオ、日本などのアジア各地や、ドイツ、スペイン、フランスなどヨーロッパでの花火大会で活躍しているが、北アメリカでは今回のバンクーバーでの大会が初めて。今回の演出構成は、今年2月頃から考えていたという。
日本チームの花火のテーマは、「アート・オブ・サバイバル」。日本が、多方面で頑張っている姿を表したのだと園田さん。「歴史的に見て、家康の時代から明治時代になり、世界大戦があって、ヨーロッパの強国から身を守って、この前の津波などさまざまな困難を乗り越えてきている。これらの苦悩というのもテーマの1つとして含まれている。その苦悩を乗り越え、力強く頑張っているのだということも表現している。だから、テーマは、『アート・オブ・サバイバル』です」と語った。
しだれ柳のような美しい花火
海外と日本の花火は、製品の質や演出の仕方などで大きな違いがある。例えば、アメリカの場合、音と光が炸裂するような力強い演出が好まれる。ヨーロッパもアメリカと似ているが、北に行くほどその傾向は増すらしい。例外的なのはフランスで、知的でポエティックな演出が特徴のようだ。アジアでは、フィリピンは西洋寄りで、好みは国によってさまざまだ。日本では、『侘び寂び』の精神を生かし、一つの玉を打ち上げて、美しく見せることが好まれる。大きく打ち上げたその中に低い花火を入れる構成で、観客を飽きさせない工夫をこらしている。
夜空に咲く大輪の花
今回使われた花火は、いろいろな国から輸入されている。日本だけでなく中国製もある。日本の花火は、輸出に対し規制が厳しく、他国から輸入するのが一般的とのこと。花火にもそれぞれの国によって特徴があるようだ。ヨーロッパの花火は、シリンダーと呼ばれるプラスチックの枠に入っており、縦長や横長に開く特徴がある。日本の花火は、丸型の花火である。形の通り丸い大きな花火が特徴的だ。
毎年、各地で花火大会が行なわれる日本。もはや花火大国といっても過言ではないほど、日本人は花火好き。花火職人の技術力の高さが、それを支えているのだろう。園田さんは、「日本の花火の技術力はとても高いが、なかなか外には広まらない。技術力が高く質が良いため、値段が高騰している。値段は、ヨーロッパ玉より高く、中国玉の2倍ほど。また、数々の規制により輸出するのがとても大変なんです」と言う。園田さんは、個人的に年間60カ所もの日本全国の花火大会に携わっているが、今年から来年にかけて、会社単位で約100カ所に範囲を拡げていくとのこと。それだけでなく、今後も世界各国で花火を打ち上げたいと考えている。
海に浮かぶ船の上が花火の打ち上げ場所。花火大会のメインスポンサーであるホンダ自動車のサインが見える
(取材 仲野琢杜 写真撮影 斉藤光一 取材協力 灯屋煙火店・Brand Live Group)